攻略オトメ

暴走機関車ここな丸

第1話「乙女との出会い」前編

 やぁんな、俺の名は冴木さえき影雄かげお



 名前の由来は……まあここはえて言わないでおこうじゃないか。



 ま、俺みたいな奴の名前の由来なんて、だーれも興味無いだろー。



 だって俺、一応DKなのにさぁ……華の高校2年生なのにさぁ……友達いなくて彼女もいない。



 もちろん言わずもがな、童貞だし……。




[冴木 影雄]

 「オオォイ"! ふざけんな! ぶっ殺すぞ! チートだろォ"」




 いきなり汚い声で暴言吐いちゃってて、すげぇ恥ずかしいんだけどさ。



 ほらまたこうやって、カーテン締め切った暗い自室で、キレ散らしながら流行りの対人戦ゲームなんかしてる。



 だって俺にはそれぐらいしか、人生に楽しみがないから。



 とほほ……。




[冴木の父]

 「お、影雄か? あいつはまたゲームか」



[冴木の母]

 「まったくあの子ったら。 優実ゆうみ〜! ちょっとあの子の部屋行って、言ってきて頂戴、うるさいって……」



[冴木 優実]

 「は!? なんで私が」




 これは冴木の末っ子、冴木優実。




[冴木の母]

 「もうすぐ朝ご飯も出来るから次いでに呼んできて頂戴〜」



[冴木 優実]

 「チッ、んもー。 あいつマジキモい」






 ダンダンダンっ……。






 誰かが階段で1階から上がってくる音がする。




[冴木 影雄]

 「やべ……」




 俺はやっていたゲームを中断し、急いで周りに散らかった物を片付ける。






 バンッ!






 俺の部屋のドアが勢い良く開けられた。



 大きな音が耳に響いて、俺の体がビクッと震える。




[冴木 優実]

 「ちょっと兄貴、朝からうるさいんだけど!」




 こいつは俺の愛する妹、優実ちゃん。



 父親似で地味な黒髪の俺とは違い、母親似のツリ目の金髪美少女。



 やっべ、マジで可愛い……。




[冴木 影雄]

 「あ……ごーめんごめん、お兄ちゃんちょっとゲームに熱中しすぎちゃ……」



[冴木 優実]

 「チッ、この部屋臭い。 換気しろ!」






 バタンっ!






 俺が言葉を言い終わる前に、優実はドアを乱暴に閉めて行ってしまった。



 傷付く捨て台詞を吐きながら……。




[冴木 影雄]

 「った……はぁ……」




 そりゃため息を吐きたくなる。



 俺氏、ただひとりの妹ちゃんに完全に嫌われている。



 俺は優実のこと、めちゃくちゃ可愛いと思ってるし、めちゃくちゃ好きなのに。




[冴木 影雄]

 「もう朝飯の時間か」




 今日は徹夜でゲームをした。



 体がダルいー、学校行きたくないー。




[冴木の母]

 「貴方、目のくま凄いわよー」




 朝ご飯を食べている最中、お母さんに目の下の隈の事を指摘された。 




[冴木 影雄]

 「う、うん……」




 わざわざそんな事言われても面倒臭いから眼鏡を掛けて誤魔化した。



 だって俺、自分の肌コンディションとかどうでも良いし……。



 俺は楽しくゲームが出来ればそれで良い!




[冴木の父]

 「じゃ、行ってきまーす。 影雄〜、ちゃんと学校行けよー」



[冴木 影雄]

 「う……」



[冴木の母]

 「はーい、行ってらっしゃーい」




 先に父が仕事で家を出て行く。



 食卓には俺と、可愛い優実のふたりだけが座っている。



 優実は可愛いが、正直言って気まずい。



 俺は優実の方をチラチラ見ながら、旨そうなウインナーにしゃぶりつく。




[冴木 優実]

 「……んじゃママ、ご馳走様。 行ってきます」



[冴木の母]

 「は〜い、学校頑張ってねー」




 食事を終えた優実は学校カバンを持ち、リビングから出て行こうとする。



 そろそろマジで、優実に "あの事" 謝らないと……。




[冴木 影雄]

 「ぁ、優実……」



[冴木 優実]

 「……」




 俺のか細い声には優実は気にもとめず、リビングから出て行ってしまった。




[冴木 影雄]

 「ぁぁ」




 また言えなかった、俺はなんてダメなんだ……。



 俺はそのまま、寂しい気持ちでお茶碗のご飯を食べ続けた。




[冴木の母]

 「貴方、後で自分の部屋換気しときなさいよ〜、臭いこもってるから」



[冴木 影雄]

 「……」




 俺ってそんな臭い!?




 ……。




 学校、憂鬱だ。



 さっきも言ったが俺には友達もいないからなんにも楽しくない。



 友達ってネットにはいっぱいいるけど、リアルの友達作りはどうしても苦手……だ。



 俺はうつむいて机にただ座ってやり過ごす。




[女子A]

 「ねぇ〜、一ノ瀬いちのせくん勉強教えてー♡」



[女子B]

 「あ! ずる〜い、一ノ瀬くん私にも数学教えて〜」



[一ノ瀬と言う男]

 「うん、いいよ」



[冴木 影雄]

 「……」




 あっ……うちのクラスの王子枠、一ノ瀬桜司おうしくんだ。



 成績優秀でスポーツ万能、人望もあって性格も良い、女子にモテモテ……。



 ムカつく、羨ましい。



 でもでも、男子の俺から見てもカッコ良いんだよなぁ一ノ瀬くん……。



 良いなぁ、俺も一ノ瀬くんみたいなイケメンだったら。



 はぁ、マジで、異世界転生したい。




[先生]

 「よーしホームルーム始めるぞ〜」






 キーン♪ コーン♪ カーン♪ コーン♪






 あっという間に昼休みだ。



 お母さんが作ってくれたお弁当をちゃっちゃと食べて、後はケータイを弄って適当に過ごす。



 あー、誰でも良いから話し掛けてくれないかな!?




[一ノ瀬 桜司]

 「あ、ねぇ」



[冴木 影雄]

 「うへぇ!!?」




 うわぁ!?




[一ノ瀬 桜司]

 「な、何? 大丈夫?」



[冴木 影雄]

 「あ、え、あ……い、一ノ瀬くん、ごめん、ど、どうしたの?」




 俺はズレた眼鏡を直しながら一ノ瀬くんの方を向く。



 最悪だー、いきなり横から話し掛けられたからびっくりして、変な大きな声出しちゃった。



 あーもー……周りに白い目で見られてる気がするよ、気がするだけだけど。



 俺の顔がどんどんと熱くなっていくのが分かる。




[一ノ瀬 桜司]

 「ごめんね。 あのさ、今日放課後カラオケ行くんだけど。 冴木くんも良かったらどうかなって」




 なんですとーー!?




[冴木 影雄]

 「え、カラオケ……!?」



[一ノ瀬 桜司]

 「うん?」




 カラオケだって!?



 さ、誘ってくれてるのは嬉しいが、一ノ瀬くん達のような陽キャとカラオケなんて陽気な場所に行くのは、俺には少しばかり難易度が……。



 てかカラオケなんて人生で一度も行った事が無い!




[冴木 影雄]

 「ぇえっと……ごめん、今日は用事があって」



[一ノ瀬 桜司]

 「あ……そっか、じゃあまた誘うね」



[冴木 影雄]

 「ぁ、ありが……とう」




 一ノ瀬くんはそれを最後に、また友達の輪の方に戻って行った。




[冴木 影雄]

 「……」




 おいおい何やってんだ俺!



 せっかく一ノ瀬くんが誘ってくれたのに、用事なんて無いのに、断るなんてー!



 あー俺はやっぱりダメだ、二度と無いチャンスを逃してしまった……。



 あれ、でも一ノ瀬くん『また誘うね』って……。




[冴木 影雄]

 「フヒ」




 あー違う違う、これはきっと俺が勝手に都合良く妄想した事だ。



 ちくしょー。



 俺人生、ほんとなんにも上手くいかないんだよなー。




[冴木 影雄]

 「フフヒヒヒっ……」




 もう、もう笑うしかないこの人生。




[女子A]

 「きも……」



[女子B]

 「何ひとりで笑ってんの、あいつ……」




 そんな女子の悪口が俺の耳に入ってくる。



 お、俺の事じゃないよね……?



 そんな被害妄想をしてしまう。



 ……。




 そしてまたまたあっという間に放課後。




[男子A]

 「よーし歌おーぜぇ〜」



[男子B]

 「桜司! 行こうぜ!」



[一ノ瀬 桜司]

 「あ、うん」




 一ノ瀬は冴木の事が気になりながらも、男子達の後ろに着いて行く。




[冴木 影雄]

 「……」




 男どもがゾロゾロ群れて、カラオケの話をしている。



 これからあいつら、カラオケではっちゃけるのか、良いな。




[冴木 影雄]

 「帰るか」




 帰ったらゲームの続きをしよう。



 うん、そうしよう。



 俺のやる事って、マジでそれしかないし。



 優実もう家に帰ってるかな……?



 あ、ちゃうわぁ……優実はテニス部だった。




[テニス部女子]

 「優実ー! そろそろやるよー」




 あ……丁度ここはテニス部が部活をやっているテニスコート。



 今、優実の名前を呼ぶ声が聞こえたような。




[冴木 優実]

 「ん、分かったー」




 少し離れた所に、優実の姿を見つけた。




[冴木 影雄]

 「ドキッ……」




 ああ優実……ミニスカート、優実のミニスカート、長いあしに白い脚。



 俺は一瞬にして、そんな優実に目を奪われた。




[冴木 影雄]

 「うへ、優実……」




 俺は金網に張り付いてテニスをしている優実の姿を眺める。




[???]

 「あ、冴木くんだ……どうする私、話し掛ける? 話し掛けない? よし、話し掛けよう!」



[冴木 影雄]

 「……?」




 背後から何か気配がする。




[???]

 「冴木くん、冴木くん!」




 何者かが俺の左肩を叩く。




[冴木 影雄]

 「ぎょえ!?」



[???]

 「わっ……びっくりしたぁ」




 じょ、女子!?



 女子が俺の肩に手を触れたぁ!!




[???]

 「こんな所で何してるのー?」



[冴木 影雄]

 「え、えっと……貴女は?」




 誰だろう、この女子……?




[???]

 「私は………………同じクラスの愛原あいはら乙女おとめだよ、よろしくね」



[冴木 影雄]

 「え……愛原さん? あ、はい、よろしくお願いします……?」



[愛原 乙女]

 「うん、よろしくね! 冴木くん」




 えっ、なんでこの人は俺なんかに急に話し掛けてきたんだろう?




[愛原 乙女]

 「どうする、私。 冴木くんに何を見てたか聞く? 聞かない? よし、聞いてみよう!」




 ん?




[愛原 乙女]

 「ところで冴木くん、何見てたの?」



[冴木 影雄]

 「え? あ……あ、あの実は妹を」




 なんか、独特なコミュニケーションの仕方をする人だなぁ。



 って、部活中の妹を見てたとか、変態シスコン野郎と勘違いされるだろ俺!



 馬鹿ーーーーー!!!!!




[愛原 乙女]

 「冴木くんの、妹さん?」



[冴木 影雄]

 「あ、はい……冴木優実、って言うんです」



[愛原 乙女]

 「へー、覚えとこ。 カキカキ……」




 愛原さんが懐からメモ帳を出し、ペンで何か書き込んでいる。



 なんだこのは……。



 お、俺もう行って良いっすかぁ?




[冴木 影雄]

 「じゃ、じゃあ俺もう行きますね……」



[愛原 乙女]

 「あ、うん!」




 俺は愛原さんに背中を向け、家に帰ろうと歩き出す。




[愛原 乙女]

 「……少し好感度上がったかな?」



 ……。



 家に帰って来ては変わらずゲームをしている俺。




[冴木 影雄]

 「あ、思い出した」




 さっきの、愛原乙女さんって人だけど。



 色んな男子に話し掛けて気を持たせようとしてるみたいな……校内でちょっと噂になってる人だ。



 クラスの女子がそう陰口言っているのを聞いた。



 見た目はそこそこ可愛く、まあ……ジャンルで言うと清楚系?



 艶のある黒髪に白くて綺麗な肌が特徴。




[冴木 影雄]

 「おーコワコワ」




 それってつまり、エロ漫画で言うところの清楚系ビッチってやつだろ?



 さっきのも、単に俺もその対象にされたって訳だ。




[冴木 影雄]

 「ふん……無理だね! 俺は俺の事を一途に愛してくれる女の子が良いんだ! ふんだ! 俺はちょっと女子に話し掛けられたぐらいで、好きになっちゃうような安い男じゃないゾ〜!」




 そう叫びながら、俺はコントローラーをガチャガチャと激しく操作する。



 何が愛原乙女だ!



 あんなの、あんなのただの尻軽女じゃないか!



 俺には、俺には優実がいる!




[冴木 影雄]

 「もうそれで良いもーーーん!!!」




 こうして俺の冴えない一日が終わる。






 つづく……。

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