第8話 大陸をかけたラストバトル。

 肌寒いわ。今、目の前にハルバード、長斧を振り回す戦士、ジャグラが突進してくる。茶色のぼさぼさの髪で、赤い瞳。炎の球を飛ばして、突っ込んで来る。ここはキリサル平原。ただ広大で広い野原だ。遠くには緑に染まった山々が見える。

私?私はマリー・アカノイア。もう知っていると思うけど、金に輝く髪を首元で束ねてみる。星々が輝くマーメイドドレスに、走りやすいようスリットを入れている。最初の一人目は時魔法を使用してくるのかしら。なんて言うか隙だらけだし。「おおおおお」雄叫びも弱い。炎の球はフェイントにすらなっていない。私は炎の球を結界で吸収し、迫り来るハルバードを左手で受け止めて、物質の時間加速を起こして壊す。時魔法の応用って奴ね。で、驚いたジャグラの上半身を触り、上半身だけ時間を逆行させる。ほら、身体が二つに切断されたわ。次元斬とでも名付けようかしら。いけない、いけない。住民にするんだから・・・ほら、ちゃんと治してあげるわ。

と、転移魔法陣を発動させる。ジャグラの体は光の粒子となって消えて行く。

「次!」と、私は叫ぶ。

長槍を持った兵士が二十名、三角帽子を被った魔術師が五名。二十名が私の結界の周囲ギリギリで私を串刺しにしようと待機している。後ろの魔術師たちは時魔法を発動させようと呪文詠唱をしているわね。アウラ様への信仰心が足りないのね。カーラや私のように髪の色が変化していないわ。だから長いながい呪文詠唱をしなければいけないのかしら。それとも各自別の魔法を使用して、私を足止めしようとしているのかしら。まあ、発動すれば分かるわ。見えた未来予知では大したことないわね。

「残りもまとめてかかってきなさい!」と、私は叫ぶ。

時を止められる。五人のうちの一人が、時魔法を発動させた。私の時間だけを停止させたようだ。まあ、私はそう認識した時点で、無詠唱で発動させているけどね。私は動けるけど、あえて動かない。二人目は時間差を置いて、また私の時間だけを停止させようとしている。長槍を持った兵士たちは私が”動けない”と認識して長槍で突いて来る。全方位から。私は五メートルほど真上にジャンプして交わす。交わしたところで、溶ける。ほら。二人目の魔導師は混乱している。姿が消えたわけじゃない。風に溶けただけだ。集まっていた二十五人はかまいたち、まるで見えない斬撃で斬られたように倒れていく。自分が何に斬られたのかすら分からないまま。でも、さすがは帝国の兵士たち。全員が光魔法を唱えている。面倒だわ。「転移」と、私はまた転移魔法陣を発動させて、強制退去させた。

あと七十四。なんて思っていたら、二十五人は布石だったの?私の足場がいきなり陥没する。私は地面の中に埋まる。と言うか、丁寧に首だけは残してくれているみたいだけど。それを確認したのか、雷の魔術が、次から次へと連続で放たれる。土の魔術を逆利用されるとは考えないのね。私とカーラはいつもそうしているけど。土、私は土になる。地面に溶けた事で、残りの構成が分かる。魔術師七十。長槍の兵士四名。長槍の兵士四名が、私の土人形にとどめを刺している。地面に溶けた事に気づいていない彼らはきっと、これで勝ったと確信している事だろう。

「マリー・アカノイア、討ち取ったぞーーーー」と、兵士の一人が叫んでいる。私の土人形の首を持ち上げて。形はそっくりだけど、人形よ。ほら、ちゃんと見て。

「ばんざーい」と、両手を上げて喜ぶ者まで現れる。

でもね。

私、今、地面なのよ。ほら、こうやって足首をつかんで土魔術で固定して行くとどうなるかしらね。

踊りを踊っていた魔術師に長槍を持った兵士の顔が急に青ざめていく。

どうして急に動けない。

さらに時魔法。指一本動かせない。七十四人という単位で時間を止められると言う体験はした事ないかしら。私は静かに彼、彼女たちの脳内に呼びかけてみる。

【こんにちは、それともこんばんはかしら。私はマリー・アカノイア。このまま転移させて上げるわね。動けるなら動いて転移魔法陣から逃げ出すといいわよ】

うふふ。もちろん、逃げ出せない。そんな事は分かっている。時魔法は発動のタイミングを見定めないと・・・ラウルがしつこく教えてくれたからね。うんうん。あーでも妹さんたちに勝てるかなぁ。勝てなくてもいいかなぁ。仮にも向こうは女神様だし。ううん。特訓に付き合ってくれたカーラのためにも勝たないと・・・。って勢いをつけてもねぇ。まあ、やるだけやってみるわ

七十四人は光の粒子になって消えていった。

 ラウルと同じプラチナの髪をしたアウラ様とニルヴァーナ様が現れる。

「さすがはあにさまの認めた奥方。さあ、次は私たちとやりましょ。やりましょ」と、アウラ様は赤いイブニングドレスの裾を持ち上げて言う。「右に同じく」と、ニルヴァーナ様も金の金子で口を隠して言う。

「こちらこそ、よろしくお願いします」と、私は赤黒い片手剣、レヴァンティンを右手に持ち、左手で剣先を支え、右肩を上げる。

アウラ様の目が光る。まさか時間操作?私も無詠唱で時間魔法を発動させる。いや、間に合っていない。動けないわ。これ、やばくない。どうしよう。ああ、そうだ。そのための一体化。たかだが時間を止めたぐらいで。そうよ、風よ。斬りかかってきたのは、ニルヴァーナ様の方。藍色のワンピースは私と同じようにスリットを入れている。しゃがみ込み、抜刀。時を止めているのだからって容赦ない。風に溶けていないとやられていたわ。アウラ様の時間操作が途切れた・・・なら、ここ。私が時間操作を。

「供給停止」と、アウラ様。時の大精霊本人からのまさかのエネルギー停止宣言。うう、今度は上から剣を振り下ろされる。でも、分かっているなら、レヴァンティンで受け流し、体勢を崩したところを斬る。「降参!」と、アウラ様は叫ぶ。私は剣を寸止めして、後ろへ右回りに回転攻撃。経験値?読み合い?ただの勘かな。ニルヴァーナ様はちゃんと後ろにいた。「降参するから止めて~!」と、ニルヴァーナ様も叫ぶ。

右足で地面を蹴って、左へ飛びのく。体勢を整えて、レヴァンティンをしまう。息を吐き出して、右手を挙げた。

「勝ったわ」と、私は呟く。

レヴァンティンを使用した事もあってか、勝敗はついた。

「「また勝負しようね~」」と、二人は去って行く。

大陸は統一された。

私はちょっとだけ、ラウルの胸に顔と身体を埋めてウトウトしかけている。「よくやった。眠れ」ラウルの声が意識を閉ざす。

おやすみ。

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