第7話 私に手紙が来た。

 アウラ帝国。アウラ帝国もラウルたちは人間の作った国だと認識していた。しかしながら、帝都アウラのミッドガル城の玉座にはラウルと同じプラチナの髪、ロングストレートで腰まである長い髪。ラウルと同じ全体的に赤い目。肌は黒く、赤いイブニングドレスを着ている。背中には黒いマントを羽織るは、女神アウラその人である。金のティアラを侍従から受け取り、身につける。

あにさまが王国を落としたわ。どうする?ニル?」と、アウラは右斜め前の空間を見つめる。光の粒子と共に、肩まであるプラチナの髪を後ろでくくっていて、ラウルと同じ全体的に赤い目をした女神ニルヴァーナが、深い藍色のワンピースを着て現れる。右手には金の扇子を持っている。「あにさまと、まともに勝負しても勝てないけど、戦っているのは兄さまの妻。そこに勝機はあるかもしれないわね。というか、兄さまの国作りを手伝っても良いのではなくて」

「それはそうだけど・・・国作りそのものは反対じゃ無いし。そうねぇ、でも、兄さまの妻とは何か、勝負してみたいよねぇ。ねえ、ニル。わたくしたちの育てた戦士とわたくしたち自身。どう?ニル。」と、アウラは玉座を降りて歩き出す。「そうねぇ、あーちゃん。私も戦ってみたいわ。あにさまに気に入られた子と。兄さまに手紙を送りましょう。そうしましょう」と、ニルヴァーナは空中から降りて、アウラの横を並んで歩く。手紙はすでに空中で用意され、二人は歩きながら書き終えて、「あにさま。牧師ラウルのところへ」と、アウラの言葉で手紙は白い鳩に変化して飛んで行った。


 私?私はマリー・アカノイア。もう聞き飽きたかも知れないけど、今日も聞いてね。お願い。アウラ帝国から旦那様宛に白い鳩と一緒に手紙が来たの。(ラウルは白い鳩が手紙そのものだって、分からない事を言っていたけど)差出人はラウルの妹さんたち。皇帝をやっているのが、アウラさん本人だったみたいで。それとニルヴァーナさんも帝国で暮らしているみたいなの。手紙にはラウルの国作りは手伝うし、すでに何ヶ所か、霊子によって作り変えているって書いてあった。で、問題なのは、私、マリーと戦いたいって書いてあるの。わたくしたちの育てた戦士(ハンデとして遠距離魔法無しで対戦する事)と、わたくしたち自身(私たちには全力で)も含めて。アウラ帝国の戦士って、光魔法で全員が脅威的な回復力を持っているの。まさにラウルの不死の軍団に似ている・・・というか、兄妹なんだから当たり前だけど。うーん、勝たないといけないのかな。それとも戦うだけでいいのかな。「マリー。入るぞ」と、ラウルの声がする。「ま、待って」と、私は静止の声を張り上げる。教会の二階で、私の私室。鏡の前の私は下着すらつけてない。まあ、上半身だけだけど。下はちゃんと履いているわよ、だって腰を冷やさないためにもね。ほら、あるでしょ。考え事をしていると、着替えの途中だったことを忘れてしまうことぐらい。えっとあるよね。そんな事を思いながら黒いブラを着た。それからマーメイドドレスを着て、「いいわよ」と、返事する。「マリー。アウラたちからの手紙の事だが、そう気にしなくてもいい。負けてもオレが戦うだけだ。それはあいつらも望むところでは無いだろうしな。」と、ラウルは言う。「えっと、つまり・・・やっぱり勝たなきゃ駄目なんじゃ」と、私はラウルを見つめる。「と言うか、マリー。今のお前なら負けるかもしれないのは、妹たちだけだと思うが。お前の未来予知はどうなっている?何か見えないのか?」と、ラウルに見つめ返される。「・・・・・・まだ何も見えないわ。確かに全力を出していいなら、妹さんたち以外には負けないと思う。ただハンデがね。遠距離魔法を使用しないって、魔法を使うなって事でしょ?」と、私はラウルの手を握ってしまう。「身体強化、身体変化しんたいへんげまでなら使ってもいいんじゃないか。それにアウラたちの育てた兵士なら時魔法も使用してくるぞ。だから時魔法も有りだろうな。時魔法の特性など、おさらいした模擬戦を後で付き合おうか」と、ラウルは私の腰を抱き寄せる。「・・・お願い。それなら対策を練れるかも。それにこれが最後の戦いになるよね」と、私はラウルの胸の中にもたれかかる。ラウルはそっと抱きしめてくれた。「ああ、そうだな」と、ラウルは言う。


後日、決戦の場所を示された手紙が来る。やっぱり鳩の姿をして。場所はキリサル平原。アウラ帝国の帝都へ通じる玄関口のような場所だ。帝国民を集めて、観戦させると書いてある。決戦の日取りは三週間後。私は模擬戦を繰り返していく。ラウルとの模擬戦はラウルが勝たせてくれるので、私は今、一番成長しているカーラを呼び出した。覚えていないかもしれないが、赤髪のカーラだ。しかし、今は金に輝く髪をしている。カーラも光と時の大精霊・・・つまり、アウラ様を信仰する事で(話を聞くと直接会ったそうだ)覚醒したと言うか、目覚めてしまったようだ。マーメイドドレスは以前と同じ赤い色のものを着ている。カーラは何気に私よりも背丈が高い。ヒルズの北門の前で、私たちは向き合って、剣を構えている。カーラの瞳は黄土色のままだ。先手はカーラ。地面を液状化させて、私を動けないようにする気だ。私は目を閉じて、赤黒い片手剣を柄より下は右手で持ち、剣先を左手で支えて、肩よりも上にあげる。カーラは地面を固めて来た。さらに時間停止。斬りかかって来る。左上段からの振り下ろし。袈裟斬りだ。時魔法はすでに発動している。私自身も。身代わりの魔術式。カーラとの組手ではよく使っている手だ。土で固められた属性を利用して、全身を土人形にしてしまう。本体は別に移動させる。例えばカーラの後ろ側とか。きっとカーラはそこまで読んでいる。ほら、袈裟斬りと見せかけた回転斬り。ほらね、さすがカーラだわ。でもね、それは私も読んでいるの。だから屈んで、前へ出る。私の片手剣をカーラの腹部で寸止めする。「初手は私の勝ちね」と、私はカーラを見る。「まだまだー」と、カーラは後ろへ飛び去り、土の弾丸を飛ばして来る。カーラが右へ来る。うん?まだカーラは動いていない。土の弾丸は目眩しのつもりなのかも。風。水の防護膜を体に薄く張り、風を使用する。音速を超えて、カーラの後ろへ回る。土の弾丸はちゃんと私の後ろへ追尾されている。右へのアクションと殺意が偽物で、こっちが本命???後ろへ回ったはずなのに。カーラはさらに土の弾丸、ストーンバレットを放って来る。前と後ろから。挟撃???どう言うこと???前後からもろに直撃を喰らう。「ふふん。油断したわね、マリー」と、カーラは言う。私は折れた肋骨、腕、足などがラウルの支配の力で回復するのを待つ。「ええ、そうね。本命を読み間違えたみたい。次は私が貰うわよ」と、私は姿を消す。

カーラは私を探している。気配を消しているのだから、ホントに消えたように見えるだろう。「全方位ストーンバレット!」と、カーラは手当たり次第攻撃して来た。たくさんのストーンバレット。土の弾丸。これだけの数だ。どれか当たるはずだ。または空間に歪みが見えるはずだ。気配に変化が起きるはずだ。きっとカーラはそう思っている。氣を使い出してから出来るようになった。姿を消すというよりは、”溶ける”そう表現した方がいいかもしれない。空気、大地、風、森、炎なら炎。それ、そのものになる。溶け込む。四賢者の時よりもさらに進化したように思える。

「ひっ。ど、どこにいるのよ!出て来なさいよぉ」カーラは頭を抱える。しゃがみ込んで泣き始める。そんなカーラの首筋にそっと赤黒い片手剣を当てる。”私”が現れる。「きゃっ。」と、カーラは尻もちをつく。「ふふ、ごめんね、カーラ。この技は使わないでおくから」と、私はカーラの頭を撫でる。肩まである金に輝く髪、黄土色の瞳で睨んでくる。頬を膨らませ、ご機嫌斜めだ。

「もう。約束だからね」と、カーラは目を瞑り、顔を背ける。

「うん。約束」私たちはそれから二度、三度と繰り返し戦い、大地に寝転がった。

「ねえ、カーラ。大陸の統一を賭けて戦うところまで来たよ」

「そうねぇ。マリーならできるんじゃない。それよりもラーメン食べたーい」

「あはは、カーラらしいね。うん、食べに行こ」と、私たちは大地に寝転がったまま笑いあった。それから起き上がり、北門に向かって歩き出す。


 三週間はあっと言う間に経った。私はキリサル平原に立っている。星々の輝くマーメイドドレスを着て、金に輝く髪は後ろでくくっている。私の後ろにはみんながいる。カーラにラウルに、ガーゴイルのズルバンさんたちも。目を瞑って、戦いの合図である太鼓が鳴るのを待っている。

初戦は私対、アウラ様たちの育てた精鋭戦士百名。

遠距離魔法、リヴァイアサンの召喚禁止。何気に禁止事項増えてますけど。

まあ、それぐらいのハンデはいいよね。太鼓が鳴る。さあ、始めましょ。

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