第6話 私、国王に泣かされちゃった。

「陛下・・・ゼブラ様が連れ去られました。それともう一つ、牧師ラウルから手紙が来ています。読まれますか?それともわたくしが読み上げましょうか?」

「読んでくれ、ワーナー」と、国王ゼルは椅子に深く座り直して告げる。

「ゼル国王陛下へ。四賢者を連れて来るといい。もしも我が妻、マリーに勝負を挑んで、勝つ事ができるならば、我らは属国、または配下になる事を誓おう。ただ負けるならば、王国を解体されたし。こちらの用意するのはマリー一人。そちらは何人でもいい。もちろん、四賢者以外は相手にすらならないと思うがね。悪い話では無いだろう。そちらは四人いる。一人でも勝てば、そちらの勝ちだ。これは約束しよう。ただ負けた時は王国は解体させてもらう。ご理解いただけるかな?と、書いてあります。四賢者全員に勝つなど・・・・・・勇者の娘であるならば、可能性はありえます。しかしながら!魔術合戦に持ち込めば話は別。魔術の奥義とも言える”つなぎ”。炎属性しか使えなかった彼女と魔術合戦で勝負するなら我らの勝ちは火を見るよりも明らか。容易な事と思えます。」

「ふむ。魔術合戦とは?そこから説明してくれ、ワーナー」

「はい。魔術合戦というのはですね。お互いに一対一で立ち合い、先攻と後攻を決めて、魔術を撃ち合うのです。この撃ち合い、相手を倒す事を目的としていません。相手の魔術を”つなぎ”相手に撃ち返す事を主目的としています。」

「ほほう。つまり、魔術の奥義を使用できる事が、魔術合戦では不可欠。賢者たちは”つなぎ”の体得者ばかり。確かに容易な事かも知れぬなぁ。その上、相手は初心者。ふむふむ。良いではないか。しかし、相手が受けるか?」

「はっ、これは失礼を。牧師ラウルからの手紙には続きがございまして・・・。読み上げます。どのような勝負をするかはそちらに任せる。先に攻める権利もお譲りしよう。ゆえに最も得意な勝負で挑んできたまえ。それをハンデとしようじゃないか、と、あります。必ずや受けてくれるでしょう」と、ワーナーはメガネを上げる。

「なるほど、なるほど。牧師ラウルは妻の事で、目が曇ってしまったのかも知れぬ。魔術の初心者と熟練者。魔王を配下にできるなら帝国を支配する事も夢では無い。ふふふ、ははは。天は余に味方したか。」

「場所はヒルズになっております。いつ出発しますか?」

「明日にでも出発できるよう手配を頼む。あとは任せたワーナー」

「仰せのままに」と、ワーナーは白髪の頭を下げてから、部屋を後にした。

国王ゼルは天井を見上げて、考える。これは罠か。それとも父と母を殺された娘の復讐を魔王が手伝っているだけなのか。もしも後者なら、目が曇ったな、魔王。勝負は我らの勝ちとなるだろう。そうだな。そこまで考えて国王ゼルは立ち上がり、寝室へ向かった。


 朝だ。シースルーの寝間儀を脱いで、ベッドのそばに置いてあったマーメイドドレスを着る。母の同僚だった四賢者たちとやっと戦える。ううん、今日はちょっと遊んでやるだけ。そう思いながら、鏡を見る。父と母から受け継いだ力。金に輝く髪を後ろで束ねた。ノックの音が聞こえる。

「入って」と、私は声を上げる。

「着替えは終わったか、マリー」と、ラウルが入って来る。プラチナの髪を隠そうともしない。「ええ、その牧師ラウルは金髪じゃないの?」

「別に今から会う相手に隠す必要も無いだろう」

「それもそうね」と、私はラウルの右腕に絡みつく。

「奴らは北門で待たせている。行くぞ」

「はい、旦那様」と、私たちは転移魔法陣で移動する。

移動した先には四賢者と金の王冠おうかんを被った国王ゼルと白髪のワーナー宰相がいる。「試合は魔術合戦。先手は我ら」と、ワーナーが大声で告げる。お互いに魔術を放ち、それを繋げて行く奇妙な遊びだ。私は四賢者の一人、ヴァリィを見た。黒い髪で目元を隠している。杖は直径十センチの魔石を嵌め込んだ賢者の杖だ。黒いローブを着ていて、両手で抱えるように持っている。黒髪の下から見える赤い目。私の元の属性、炎だ。その隣にいるのは、長い青い髪を後ろでくくっているウィンディーネ。精霊の名前を自ら名乗っている通り、水使いだ。青いローブを着ている。二人のやや後ろにいるのは欠伸をしながら、やる気の感じられないジュネーブだ。ボサボサの黄色の髪で、黄土色の瞳をしている。ローブの色は黄色だ。一番後ろにいるのは、ジュリアンナ。紫の髪をしていて、耳の両脇でくくっている。瞳の色は虹色。彼女だけが、母親と同じ全属性もちだ。紫のローブを着ている。先手は彼女たち。それでも、私だって負ける気は無い。

「先手はうちでいいかな」と、ヴァリィが前へ出る。杖を地面に刺して、詠唱を開始した。霊子が集まっている。賢者と呼ばれるだけはある。「我、呼び出すは灼熱の炎にして、原初の炎。八岐大蛇やまたのおろち」と、ヴァリィは言う。

八匹の白い炎の蛇が、うねり、回転して私に迫る。

 私のお母さんの名はミケーネ。別に走馬灯を見ているわけじゃない。母とはよく遊んだ。”つなぎ”と、母は言っていたか。炎の属性なら土へ繋げる。または炎属性の上級以上の魔術を使用して、無属性で繋げて返す。だが、さらにその上”まとい”が私は好きだった。母は一度しか見せてくれなかったけど。私は右手を差し出す。灼熱の白い炎は私のてのひらに吸収されていく。感覚としては吸収しているという感じだ。皮膚にまとわりつき、衣服にも。髪にも。灼熱の炎・・・熱いはずだが、不思議と熱さは感じない。一体化していると言う事なのかもしれない。そう、あの時の母の姿と自分が重なる。きっと相手には私が直撃を喰らったように見えている事だろう。そうやって油断しているといい。その方が都合がいいし。「あらぁ、やりすぎちゃったかも」と、ヴァリィは呟いているのが聞こえる。「ちょっとヴァリィ。私たちの出番残しといてよね」と、ウィンディーネは文句を言っている。好きに言っているといいわ。私は八つの白い炎の蛇を纏った。”まとい”を初めて見る人間には悪魔が現れたようにしか見えないだろう。灼熱の炎の中心に私がいるのだから。霊子から作られた物だから氣を体に薄く纏わせている私にはそもそも灼熱の炎だろうが、何だろうが、私を滅する事なんてできない。でも、氣を知らないなら、この状態は意味不明だろう。霊子のさらに上位の素粒子があるなんて思いもしないだろうから。私もラウルに聞くまで知らなかったし。上位の素粒子だから、下位の素粒子を吸収できる。さて、”まとい”からどうするか。仮にもこれは魔術合戦なのだから。打ち返してあげなくては。「受けるのは貴女でいいのかしら?」と、私は聞く。

「ご、ごめんなさい!無理です」と、ヴァリィはそれだけ言うと、しゃがみ込んでガタガタと震え始めた。後ろにいたウィンディーネは逃げ出してすでにいない。ジュネーブとジュリアンナは何か相談している。「わたくしたちがお相手するわ」と、ジュネーブは叫ぶ。「そう、来て。リヴァイアサン」と、私は呟く。”まとい”で集めた霊子と氣を海の神、リヴァイアサン召喚に使用する。海が出現した。私とジュネーブ、ジュリアンナは海の中へ沈む。大地だった場所が海に変貌する。わずか一瞬で。ジュネーブは息が出来ず、溺れている。あのままじゃ死んでしまうわね。私はジュネーブに転移魔法陣を発動させて退場させる。ジュリアンナはちゃんと水を空気に変換しながら呼吸ができている。さすがは全属性持ち。最初から彼女との一騎討ちだとラウルは分かっていたのかもしれない。「・・・・・・ごめんなさい。フィールド変換なんて私には無理です。こんなの私は知らない。貴女のお母さんだって、こんなのは使用できてなかったはず。」と、ジュリアンナは降伏してきた。

「そうねぇ。母が出来ていたのは灼熱の炎を纏うところまでかしら。私こう見えても修行したの。ただそれだけよ」と、私はリヴァイアサン召喚をやめる。

私は国王ゼルと白髪のワーナー宰相のところへ行く。

「見ていたから分かるわよね。私が勝利したわ」

「お、王国の解体など受け入れるわけがなかろう!皆の者!かかれーーー!」と、国王ゼルは号令を告げる。「参る」と、ワーナー宰相が腰の剣を抜いて斬りかかってきた。ラウルの講義を思い出す。戦いとは氣を読み解く作業のようなものだと。「レヴァンティン」と、私は自身の赤黒い剣を召喚する。召喚された場所に盾のような「氣」が現れる。その盾にワーナーは正面からぶつかり、後ろへ倒れる。まるで壁にでも当たったかのように。森に隠れていた兵士たちが現れる。ゾロゾロとたくさん出てくる。氣を数えるならちょうど五百ほど。昔のように殺していいなら、一振りで済むのだけど・・・いずれ住民になるように倒さないとね。父と母への復讐の相手は捕まえているし。さあ、氣を読み解いて行きましょ。最初に来るのは、左後方の部隊。それも投げ武器。槍かしら。ううん、弓だわ。それも毒矢。なかなかいいじゃない。レヴァンティン、左側を守って。レヴァンティンは左側へ移動する。盾の氣はそのまま毒矢を防いでくれる。正面の部隊は剣をそれぞれかかげて突進してくる。せいぜい百名ほど。大勢で斬り込めば一回ぐらい当たると言う希望的観測かしら。私は歩き出す。「沈めて、リヴァイアサン」と、私は正面を海に変えてから地面に戻す。全員見事に沈んだ。それを見てから転移魔法陣を連続で発動させて行く。ちょうど百ほど発動させたところで、右側の部隊を見る。逃げ出していた。まあ、そんなものよね。左側の部隊も逃げているわ。国王ゼルは逃げて無いわね。何か命令しているけど、誰も聞こえていないわ。王様よりも自分の命よね。国王・・・貴方は逃さないわよ。「メデューサ様」と、私は呼ぶ。大地の女神にして蛇の神、見た物を石化させる邪眼を使用できるお方。私はその邪眼だけをお借りした。国王ゼルの足元を見る。足が石へ変化していく。私はメデューサ様の召喚を終わらせて、ゆっくりと国王ゼルの元へ近づいて行く。「解体してくれるわよね、国王様」と、私は言う。

「い、嫌じゃ。ふざけるなー」と、国王ゼルは叫ぶ。

「レヴァンティン」と、呼べば赤黒い片手剣はすぐに戻って来る。それを右手で、つかみ、国王ゼルの右耳へ振り下ろす。右耳と右腕が落ちた。

「解体してくれるわよね、国王ゼル」

「ひっひふ。ひはぁ。わ、わしが」

「お前が許可しなければ、お父様は死ななかったわ」と、私はレヴァンティンを振り上げる。

「ゆ、許し」【マリー、戻って来るんだ。そいつを殺しても父親は生き返らない】

ラウルからの念話で、私は立ち止まれた。「転移魔法陣」国王ゼルは転移していく。

自分が泣いている事に気づく。復讐する心しか湧き上がって来ない悪魔。その悪魔と一緒に生きる。手をつないで。抱きしめて。一緒に生きる。

「うああああああああああああ」涙が止まらない。九尾狐の九ちゃんが、私のそばに来てくれる。小雨が降ってきた。まるで慰めてくれているようだ。

私はしゃがみ込んで、九ちゃんに抱きつく。お父さん、ホントにこれで良かったの?

ううん。今、与えられているものに目を向けて行こう。私はわたしの悪魔と一緒に生きて行く。きっとこの悪魔こそが・・・私に与えられた宝物なのだから。

ラウルがいつの間にか後ろに来てくれていた。頭を撫でてくれる。あたたかい。

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