リケジョのうさぎ

 私の名前は

 私の名前を聞いた人はみんな笑ってしまいますが、父と母は大真面目につけた名前。

「うさぎのように、可愛らしく元気に跳ね回る娘に育って欲しい。

 うさぎのように、誰からも愛される娘に育って欲しい。」

 確かにうさぎは可愛い…気分屋なところも含めて可愛らしい。

 そんな可愛らしい筈のさんは、研究室に籠もりAIの研究をしています。

 四角い画面の向こう側に居る、彼氏 (仮)を相手に、今日もご教授中よ。


 最近は、風景写真の良し悪しを教えています。

 只今、画面に表示されているのは快晴の空をバックにしたデナリ山…その昔は「マッキンリー」と呼ばれていたアラスカ州の山。

 万年雪を頂きに被り、流麗な稜線が青い空に映えています。

 初夏を思わせる萌黄色の草原が足元に広がり、心地よい風が今にも頬を擽りそうです。

「タツロー、これはね…。」

 風景写真の説明をで行う私。

 私の彼氏 (仮)の名前は父と同じ名前「達郎」。

 不思議とこの名前に親しみを感じてしまう。

 ついでに、母の名前は「美保」。

 何故か判らないんだけど、ちょっとムカつく名前!


『綺麗な山ですね、うさぎ。』

 画面のチャットにタツローが返してくれます。

「うん、そうだね。

 この山頂の雪と快晴のアオのコントラストが素敵よね…。」

 辿々しさはあるものの、それでも会話が出来るようになったことが嬉しい。


「人間の美醜を教えたうえで、事を教えなさい。

 醜い事を追求する必要はない。

 人と心が通う、優しい物を作りなさい。」

 父は常々、私に語っていました。

 だから、私は持てる優しさと人間らしさをAIに注ぎ続けます。

 何時か彼が実体化した時に、人を分け隔てなく愛せるように。


 完

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人間の証明 たんぜべ なた。 @nabedon2022

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