第3話 やっぱり上辺学生は恐ろしい

 自称底辺学生、その実体はたぶん上辺じょうへん学生、久礼くれ菜恵なえとは、大容量のファイルも共有・交換できるSNSのアカウントを交換して別れた。

 勤め先の某法人の仕事を終わって夜九時ごろに家に帰り、落ち着くためと眠気を振り払うためと気合いを入れるために濃いめのコーヒーを入れて、さあ、飲もうか、とコーヒーカップを手に取ったところに、スマホに何か着信があった。

 ま、いいか、あとにしよう、と思うと、続いてもう一つ着信。

 せっかくの気分をそがれた、とため息をつく。

 こんなタイミングで何か送ってきたのは、両親か、会社の、つまり某法人の友だちか。

 それとも、もっといやなパターンとして、仕事メールか。

 それで、コーヒーカップを置いて、スマホを見る。

 「一本目。ダンジョンの宝箱のです」

 はいっ?

 「二本目。ケーキの箱の話です」

 はいいっ?

 送信者は「くれなえ」で、それぞれのメッセージにファイルがつけてある。

 ほうほう。

 さっそく、あらすじを送ってきたか。

 コーヒーは置いて、ファイルを開いてみる。

 少し読んで、様子が違うと思う。

 その思いは驚きに変わる。

 『このダンジョンで宝箱を見つけたら是非気楽に開けてみましょう、と言うトラップなんかにだれが引っかかりますかっ!』が五千字。

 『ボクシング・デイ ― 小さな箱で思いを伝える日』が六千字。

 はいいいっ?

 すでに、完成品。

 しかも、合計して一万字を超えている。

 そこに、新たな着信。

 「二つ書いてみました。(ペンの絵文字)(よくわからない絵文字)ショドクでささっちゃんさんの作風を調べてみて(辞書を引いている女の子の絵文字)、ダンジョンのほうはいつものわたしの文章で(はちまきをして何か書いているらしい女の子の絵文字)、『ボクシング・デイ』のほうを、ささっちゃんさんの作品に似せて書いてあるので(再びペンの絵文字)、よかったら『ボクシング・デイ』をささっちゃんさんのところで発表してください。(眼鏡っ子の絵文字)」

 最後の眼鏡っ子の絵文字は、たぶん自画像なんだろうけど。

 すぐに「ありがとう。そうするよ」的な内容の返信を送ると、もじもじしている眼鏡っ子女の子のスタンプが返って来た!

 これも、自画像なんだろうけど。

 一万字。

 それに、作風をまねる、とは!

 ううむ。

 やっぱり、偏差値高め大学の上辺学生は恐ろしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る