第18話 惨劇 4

 会合が終わると、人々は蓄えてあった芋や筍などの飯を食べて体を横たえた。しかしあちこちで農民達のすすり泣く声が聞こえてきた。ラドゥはもう泣く事はなかった。代りに亡き妻に心の中で呼びかけた。

(クーメイ、お前や子ども達はいつかきちんと弔ってやる。だから待っていてくれ)

 ラドゥは、子どもの頃共に学んだ葬儀屋の息子メメの事を思い出した。母親のネビラから伝統的な葬儀のやり方をみっちり仕込まれた彼に頼めば、きっと死んだ家族や仲間の魂を清浄な光り輝くあの世へ送り届けてくれるだろう。しかし彼は噂によればカサンの軍隊に入ったという。今、彼は一体何をしているのか……。

(だがな、クーメイ、今すぐじゃねえ。もう少しこの世に留まって、おらを見守ってくれねえか。俺はこの世でやる事がある。川向うのあの世には一緒に行こう。な)

 我々農民は我慢強さにかけてはピカ一だ。しかし我慢にも限度がある。こんな風に殺されて黙っているようでは、もう人間とは言えない。家畜も同然だ。ナティは「妖怪退治のような汚れ仕事は自分達がやる。お前達農民は手伝ってくれたらいい」と言っていた。だが汚れ仕事を妖人に押し付けていいはずがない。妖怪退治は皆で協力するべきなのだ。

 ラドゥは、自分がカサン人のオモ先生に出会いカサン語やその他役に立つ事を色々と学べた事は奇跡的な程の幸運だった。今もその思いは揺らいでない。オモ先生は自分達アジェンナの貧しい民の生活が向上する事を純粋に願っていた。しかし多くのカサン人がそうではないのではないか。アジェンナの民から富を吸い上げるのに都合良いからカサン語の教育を施したのではないか? そしてカサン語学校で学んだ多くのアジェンナ人が、カサン人を頂点とする社会の中で少しでも良い地位につく事に汲々としている。

 ラドゥの頭の中で、バダルカタル先生が黒板に書いた「独立」というアマン語の文字が、くっきりと光り続けていた。

(俺ら貧しい小作人はいつも誰かの言いなりだった。村長様や役人様、カサン人の……その一方で妖人や山のもんをバカにしてた……多分そういう事の反対が『独立』って事じゃねえのか……)

 ラドゥはすぐ脇に寝ているスンニの息子、自分にとっては甥のジュカの肩をじっと見つめた。おそらく眠れないのだろう。寝息は聞こえてこない。その向こうにはナティの甥のヤヤが寝ている。その微かに上下する背中を見ながら、ラドゥは思った。

(おらの子ども達は死んだ。おらもすぐに死んだあいつらの所に行ってやりてえ。だが、そういうわけにいかねえ。ジュカやヤヤのために、戦わなきゃなんねえんだ……)

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