第5話 謎の女 1

 ほんの少しまどろんだだけだと思った。しかし、扉が壊れるかと言う程揺さぶられる音にハッと目覚めた時、既に鋭い朝の光が竹を組んだ壁から差し込んでいた。

「ラドゥカーン・ヌン・アバンタンの家はここか!」

(もう来たか!)

 ものものしいその声の響きは、彼らが一刻たりとも待つつもりは無い事を示していた。

ラドゥは太い腕でぐりぐりと顔を擦ると、

「はい、何でしょう」

 と言いながら、ひどく軋む扉をゆっくりと開いた。

「警察だ。お前は村の中でも顔がきくようだな。今すぐ、村の者全員を油の精製工場の庭に集めろ。子どもから老人まで、全員だ!」

「まだ早朝じゃねえですか。もうちっとばかし待っていただくわけにはいかねえんですか?」

「今すぐにだ。これはカサン軍警察の命令だ!」

「分かりました」

 ここで下手に抵抗しようものなら村人全員に疑いがかかる。ラドゥは妻のクーメイと息子のオーンに声をかけた。

「朝めしも食ってねえのにすまんが、村のもんを工場の庭に集める手伝いをしてくれ」

 クーメイは既に目覚めていて、横になっている息子オーンの肩を揺すった。

「クーメイはアキームの家から西地区を回ってくれ。オーンは川沿いの家を」

 ラドゥはそう言った後、いまだスウスウ寝息を立てている下の二人の娘をチラリと見やった。

(こんな幼い子たちまで連れて来いだと? 一体どういう事だ……?)

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