おはよう、そして初出勤
「おはよう!」
目が覚めえると、エリさんがすでに起きていてしゃがんで俺の顔を見ていた。
「あ、おはよう」
一瞬、エリさんが自宅にいることに困惑するも昨日の流れを思い出し納得した。
「朝食なんだけど、アタシが作ってもいいかな?」
「ああ、いいよ。まだ引っ越したばかりでそんなに食材ないけど。
「だいじょぶ!アタシに任せてくれ」
自身満々に宣言したあと、エリさんは着崩していた服装をきちんと整え直し、手を洗ってから調理を始めた。
約10分後、蒸しキャベツのサラダと程よく焼かれたトーストが新品の机の上に置かれた。
「「いただきます!」」
そして、俺はエリさんが作った朝食を食べ始めた。
「おいしかった!ありがとう!」
朝食はとても美味しかった。
電子レンジとタッパーを利用して作られたサラダも、堅くも柔らかくもないほど良い触感の食パンも、両方おいしかった。
「こっちこそ、アタシの料理で満足してくれて、ありがとな!……さてと、食器洗いするか」
「俺も手伝うよ」
こうして、俺たちは共に食器を洗ってから朝食の片づけを終えた。
その後、エリさんは朝の電車に乗って自分の家へと帰っていった。
それから約1週間後、ついに俺の初出勤の日がやってきた。
職場であるダイサカAI学習センターは自宅から歩きで20分のところにあるので、運動も兼ねて徒歩で出勤することにした。
ダイサカAI学習センターはダイサカ県庁の隣に地上26階建てのビルとして存在していた。
俺は入口の通行ゲートにて、事前に配布された職員証を警備ロボットに読み取らせた。
『花田マスミさんの出勤を確認しました。おはようございます。8階にて所長が待っているので、そこに行ってください』
俺はそのまま、エレベーターで8階へと向かった。
「花田サン、初めまして。私、ロンリィ・グラフィッカです。所長かロンさんと呼んでください」
8階にいくと、金髪赤目で30代前後の外国人と思われる大人しそうな女性が立ったまま俺を待っていた。
俺はセンターのパンフレットを通じて、すでに彼女のことを知っていた。
確か、四木村式AIに対する効果的な学習方法を編み出したすごい人で、国がお雇い外国人として昨年度から2年契約で雇っているそうだ。
ついでに、彼女の母親は高性能な義手を作り出してノベール工学賞をもらったあのマテリア博士らしい。
「かしこまりました、ロン所長」
「既存の選択肢に囚われないフリーダムな発想……ナイスです。私のママが好きそうな回答です」
一瞬、選択肢を無視したことを咎められると思ったが、ロン所長としては逆に良かったらしい。
「これから、貴方には先輩教師による研修を今日から2週間ほど受けてもらい、それから実際の授業を行うようになります」
『研修は最上階もとい26階にて、本日より行われます』
「ヴァルカン、補足サンキューです」
ロン所長の隣にいたフルアーマーのロボット『ヴァルカン』が、中性的な合成音声で説明の補足をする。
装備の特異性と趣味の詰め込み具合からして、おそらくロン所長の私物だろう。
「では、私の話はこれにてフィニッシュです。お疲れ様でした」
『では、さっそく26階に行ってください』
こうして、すさまじくあっさりと所長との話は終わった。
その後、都合よく8階に止まったままだったエレベーターで26階へと向かっていった。
「にしても、研修を担当する先輩教師って誰なんだろうな……」
そんなことをぼやいているうちに、エレベーターが26階に着いた。
最上階には扉が1つのみあり、そこには『新人研修室』と書いてあった。
「最上階の使い方、贅沢すぎない?」
どうでもいいことを気にしつつ、俺は新人研修室の扉を開けた。
次の瞬間、俺は先輩教師の姿を見て驚いてしまった。
「えっ、なんで……」
そこには、ビジネスカジュアルスタイルとメガネでキメた、宝来エリさんがいた。
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