掛け布団越しのハグ
「いや~なんか、ごめんね。来客なのに布団使っちゃって」
「大丈夫、掛け布団だけでも案外ぬくいよ」
あれから、布団が1人分しかないことに気付いた俺は、エリさんを自分の布団で寝かせ、自分は隣で冬用の掛け布団に包まって寝ることにした。
「……キミの匂い、いい匂いだぁ」
布団にくるまったエリさんが少し顔を赤らめてつぶやく。
お見合いを組んだAIいわく、俺とエリさんは生物学的相性がすさまじく良いらしく、お互いの匂いを嗅いだだけで興奮してしまうのだとう。
事実、俺もエリさんの匂いをいい匂いだと感じ、内心さらに求めている。
「……そういえば、アタシたち告白とかまだだったね」
「あっ、そういえばそうじゃん」
当たり前のようにデートしていたりしたせいで忘れていたが、俺たちは告白とかしていなかったのだ。
「じゃあさ、お互いをもっと知るためにも話せる範囲でいいから自分の過去話しようぜ」
エリさんが自分の身体を俺が入っている掛け布団に近づかせつつ、提案してくる
「ああ、いいなそれ」
「よしっ!じゃ、言い出しっぺのアタシから言っていいかな?」
「いいぞ。俺もエリさんの過去や出身地がちょっと気になっていたところだし」
お見合いの前、俺はエリさんに関する情報は『先入観があると関係性の構築に支障をきたすから』というAIの方針で名前含めて知らされていなかった。
そのため、エリさんの過去はけっこう気になっていたのだ。
「アタシはなぁ、実はオクト県生まれなんだ。アタシ、こんな性格だったから地元と会わなくて、大学進学時にここ来たんだよね」
オクト県といえば、数百年前まではこの国の首都だった厳格な場所である。
豪快で大胆なエリさんが礼儀を重んじるオクト県と相性が悪かったのはわりと納得できる。
「あの頃のアタシはなー、『普通のフリをしなきゃいけない』っていう思い込みで苦しんでいたな……」
「エリさん……」
「行きたいわけでもない教育学部に行って、なりたいわけでもない教師を目指して……」
エリさんの声が珍しくしおらしくなる。
「ま、でも今は幸せだし過去の辛いことなんてほとんど気にしていないよ。キミにも会えたし!」
かと思えば次の瞬間、布団から身体を出したエリさんが俺を掛け布団ごと抱きついてくる。
「俺も……俺も、今がすごく幸せだ……」
俺は抱き着かれたうれしさと過去のことを思い出してしまったつらさで震え始めた声で、自分の意思を表明する。
「……エリさん。ちょっと陰気な話になるけど、俺の過去に関しても語っていいかな?」
「ああ、いいぞ。辛かったらいつでも話すのやめていいからな」
「……ありがとう」
そして、俺は自分の過去を語り始めた。
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