宝来エリ宿泊編

転居と終電を逃した想い人

「さてと、これをここに設置したらもう大丈夫かな」


『かしこまりました。テンキョ3号、撤収の用意して』

『了解しました』


 現在、俺は全員ロボットで構成された引っ越し業者たちと共に新居へと荷物を運んでいる。


 どうやら、労働に従事しているロボットの中にはAIではなくリモートで人間が動かしているものもあるらしい。


 うちに来た引っ越し業者も人間が操作するロボットが1機だけあり、彼が他のAIが操作するロボットに指示を出していた。


 自分が寝ている間に来てしまった未来を実感しつつ、俺の転居は終わりを迎えたのであった。


 


「おう!引っ越し祝いに来たぜ!」


 転居した翌日の夕方、俺の家に酒瓶を持ったエリさんが来た。


 なお、いかにもアポなし訪問の雰囲気を出しているエリさんだが、実際は前日にきちんとSNSのDMにてきっちり確認を取ってくれている。


 そういうところはけっこう律儀なのだ。


「おーっ、なかなか綺麗かつ清潔な部屋だなー!まるで新居みたいだな!」


「まあ、新居だからね」


「個室も二つあるし、アタシが終電逃しても泊まれるじゃん!」


「終電ね……そういえばエリさんって在住どこだっけ?」


「ダイサカ県のナンダ地区!」


「けっこう近いな」


 ユメダパレスがあるユメダ地区とナンダ地区は電車でおおよそ8分、徒歩だと約1時間だ。


「だからさ、あんま罪悪感とか感じずに、しょっちゅう呼んでもいいんだぜ?」


「了解!あ、でも最低限のアポは取るね!」

 

「おう!」




 それから、俺たちは勢いで酒瓶を開け、飲酒を始めた。


 なお、俺は自殺未遂前の時点ですでに20歳を超えていたので、飲む条件は余裕で満たしていた。


「そういえば、エリさんはもう20歳超えていたんだっけ?」


「ああ!24歳だ!余裕で飲めるぜ!」


 こうして、俺たちはグラスに酒(中身は日本酒と見せかけてまさかのホワイトサワー)を注ぎ込み、乾杯を行った。

 

「乾杯!」

「かんぱーい!」


 やたらコショウが効いたおつまみを食べつつ、俺たちはだんだんと酔っていった。


「ううう……しゅーでん、なくなっちゃったーー」


「おいおい……まだ21時だからぁ、電車は来るぞぃ……」


「でもぅ……まだキミとぉ……一緒にいたいんだもん」


「うう……好きぃ」


 酔いが回る中、俺たちはなんだか熱い言葉を交わしていたような気がする。


 それから、俺たちは特にまぐわうこともなく、床でグッスリ寝てしまった。


 



「あっ……いま、何時かな」


「……んん。24時」


 俺たちが寝ている間に、数時間ほど過ぎ去っていたようだ。


「やっべ、マジで終電無くなっちゃった!」


 ユメダからナンダに向かう列車は23時45分の便が終電であった。


「まあでも、明日は仕事ないし、いっか。マスミ!泊まらせてくれ!」


「ああ、いいぞ」


 この時、俺は家に布団が1人分しか用意されていないという大事なことに気付いてしまった。

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