親孝行と親の冷やかし

「ただいま、母さん、父さん」


 俺は電車でショウゴ県へ行き、真新しい実家に帰省した。


 


「おかえりなさい。そうそう、なんか郵便局のロボットさんがマスミ宛ての書類渡してきたわよ」


 事前に電話して目覚めたことを伝えていたせいか、母さんのリアクションはかなり薄かった。


 まあ、昔からリアクション薄めな人だったし特に何とも思わないが。


「この書類、封筒が真っ赤でいかにもヤバそうなんだけど……アンタ、何かやっちまったのかしら?」


「ああ、それなんだけどね。俺、ついにAI教師として就職できたんだ」


「何?それは本当かい?」


 俺の話を聞いた父さんがふすまを開け、奥の部屋から出てくる。


 久しぶりに見た父さんは、心なしか5年前より少し脱毛が進行している気がした。


「マスミ、ちょっとその封筒を開けてみてくれ。開けないと中身がわかんなくて日没後も眠れなくなる」


 そう言いつつ、父さんはペーパーナイフを俺に手渡してくれた。




「マジか……ついにオマエも、独り立ちできるんだな。父さん、うれしいぞ!」


 中に入っていたAI教師の内定書を見て、父さんは感極まって泣きながら俺の肩を叩いた。


 どうやら、AI教師は今の社会になってからできた職業で、この社会を維持及び発展させるために必要不可欠な名誉ある職業らしい。


 そして、けっこうな額の給料が出る上に福利厚生で様々なサービスを受けることができるそうだ。


「父さん、母さん、今まで育ててきてくれてありがとう」


 俺は嬉しかった。


 ようやく1人の人間として自立し、親孝行することができたからだ。


 自殺未遂するまでは自分の存在そのものが親不孝だと思っていたからこそ、今回の就職はますます嬉しかったのだ。


 ありがとう、AI管理社会。


 ユートピア万歳。


 


「さてと、新居を選ぶか……」


 俺は、内定書と共に入っていた新居カタログを開いた。


 俺がAI教師として配属される職場である『ダイサカ県立AI学習センター』は名前の通りダイサカ県の都心にある。


 新しい実家からだと、電車を使っても通勤に片道2時間かかるため、転居した方がよいのだ。


 なお、前の実家もダイサカ県の南端にあったので仮に残っていたとしても転居が望ましいだろう。


 なお、今は政府の価格操作でどの物件も数百万くらいで購入できるようだ。


「にしても、国が新居候補を提示してくれるなんて、太っ腹ねぇ」


「まあ、無敵内戦で地主が親族ごと全滅したケースが多発して、国所有の土地が増えて、それを分配したいという思惑もあるんだろうけど」


 両親が後ろでカタログを覗き見しながら2人で雑談をしている


「……んじゃ、ここにしようかな」


 俺は、ダイサカ都心近くにあるマンション『ユメダパレス』の6階を選んだ。


「距離も近いし、家賃もちょうどいい。あと、個室が2つあるし窓もある」


「いや、窓はどの物件もあると思うぞ」


 父さんが至極まっとうなツッコミを入れる。


「でも、この物件は1人暮らしには広すぎない?まるで2人で暮らす用の物件のような気が……もしや!」


 急に母親がニヤニヤし始める。


 ヤバい。


 俺がこの物件を選んだ1番の理由に気づかれてしまった。


 俺がこの物件を選んだ理由。


 それは、仮にエリさんと同棲する時に対応できるくらい広かったからである。


「……おめでとさん」


 続いて父さんが、何かを察したような笑顔で俺の肩を持つ。


 この二人、たまにこういった悪ノリするのだ。


「べ、別にそういう相手ができたわけじゃないしっ!勘違いしないでくれっ!」

 

 そして、俺はその悪ノリに安心感を覚えるのであった。

 

 


 その後、俺はダイサカに戻って物件の内見に行ったり、エリさんとデートしたり、物件の購入手続きを行ったり、エリさんとデートしたりした。


 そして最初の帰省から1週間後、俺は新居に引っ越すことになった。

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