SASAKURE

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第1話


 休日、晴れ。

 娘にねだられたパパ紳士こと私は、とある動物園に来ていた。この動物園の目玉は『まるで人間みたいなパンダ』らしい。


 そのパンダ見たさに娘はウッキウキ。父親として、ここまで喜んでもらえて嬉しい限りだ。


「パパー、はやくはやく。あっちあっち」

「うんうん、転ばないように行こうね」


 ちっちゃな手で引っ張られるままに、私達は一直線にパンダエリアへ。

 早めに到着したのが良かったのか、そこまで人は多くない。せっかくなので最も近い場所からパンダを見てみると――。


「Zzzzzz」


 パンダ、めっちゃ寝ていた。


「パンダさん寝てるーーー可愛い――――!!」


 娘は大はしゃぎ。

 なるほど、寝てるから人がそんなにいないのかと納得。


 だが、これでは人間みたいなパンダの「人間みたいな」部分が見れないのではなかろうか。娘が残念がらないか不安な面持ちで眺めていると、件のパンダがのっそり動き出す。


 ねがえりをうち、尻をボリボリかき、大あくび。

 続けてうぬ~~~~っと体をのばす。


「可愛いーーーーー!! おっさんみたーい!!」

「か、可愛いかな」


 おっさんみたいなのは同感だが、何だろう。パンダという動物はもっと愛くるしさに満ち溢れているものではなかったのか?


「パパ、あのパンダさんね。ジェスチャーが得意なんだよ」

「そうなのかい?」


 振り向いて教えてくれる娘に和んでいると、私は目の端で何かを捉えた。

 急いでそちらへ視線を向けると、



 パンダが、私に向かって「Come on! Come on!」と両手をクイックイッと器用に動かしている。


「ジェスチャーってそういう!?」

「え! どれどれ!」


 娘が慌ててパンダの方へ顔を戻す。

 すると、何故かパンダはのぺーーーっと棒立ち状態に戻ってしまった。


「あれ~~~? パパ、パンダさん立ってるだけだよぉ」

「そ、そうだね」


 あれ~~~? は私のセリフである。

 なんであのパンダはCome onのポーズを止めてしまったんだろうか。熱のこもった眼差しを向けてる気がするのになぁ。


「ほんとにジェスチャーしてたの?」

「ああ、こんな感じで手を動かしてたよ」

「それってどういう意味?」

「普通に考えるなら『かかってこい!』かな」


 なんでかは分からないけど。


「プンプン!!」


 あれ? 今の鳴き声かな? なんか怒ってるというか、怒りが迸ってるように感じるけど。


 そう思った次の瞬間。


「プーーーーーーン!!!」


 パンダが、指を立てたように見えた。

 番組なら間違いなく放送事故レベルの、中指のヤツで。


「はあ?!」

「どうしたのぉパパ」


「え、いや、今何か見てはいけないものを見てしまったような……」

「パンダさんが何かしたの?」


 再びパンダの方を見る娘。

 だが、パンダは既に指を立てておらず、近くに置いてあったタイヤでゴロゴロと遊び始めていた。


「あっ、タイヤで遊んでる、可愛い―♪」

「う、うん、そうだね」


 やばい、目の錯覚か。幻覚か知らないけれど、私は疲れているのだろうか。

 ようやっと可愛く見えてきたパンダが、まさか××××なんてそんな……。

 

「パパー、パンダさんと触れ合えないかなー?」

「それは難しいかも。色々危ないかもだし――」


 ちょっと困りながらも、パンダと触れあえる動物園がどこかにあったのを思い出してキョロキョロと周りを確認する私。

 そしてまた、視界の隅に何か見てはいけない物が見えた、気がした。


 さっきまであんなに愛くるしく遊んでいたはずのパンダが、なんかすごい怒りの形相で私に向かって指を立てている。今度は両手だ。インパクトも二倍。


「おおい!? さすがにどうなんだそれは!!」

「え、何が?」


 娘が振り返る。

 パンダは目にもとまらぬ速さで愛嬌のある顔へと早変わりし「きゅるるる~~」と甘えた声で鳴き始めた。


「可愛いーーー♪」

「…………」


 娘は大喜び。

 だが、私はもはやアレを可愛く見るのが難しくなってきた。


 なんだあのパンダは。もしや中に人間が入っている新手のドッキリ企画なのではないか。疑心暗鬼に陥りそうだ。


 そんな私の目に、看板が目に入った。

 そこにはこんなことが書いてある。


『パンダは笹が大好き♪ いっつも笹ちょうだーいって言ってくるよ』

『あまりにも笹が好きすぎるのと、メスに甘くてオスにはとげとげしい個体もいます』

『どうしてこうなったのか、不思議ですね~。ちなみに名前は――――』




「そんな名前付けられたら、ああもなるだろ?!」



 



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