心にささくれが出来た時は

CHOPI

心にささくれが出来た時は

 ピコンッ


 会社からの帰宅途中。電車で座りながらウトウトしていると、肩から下げていたスマホの通知音が鳴った。……この時間になんだろう、嫌な予感しかしない。とはいえ、見ないと見ないで気になる質なので、受信時間を確認する。


 ……3分。一回置いておこう


 別にその3分で何が変わるわけじゃない。強いて言えば自分の気持ちが少し整えられる、そのくらい。もし急ぎでもそこまで待たせている時間でもないし、かといって送信直後に返信を返すのもなんだか気が引ける。そういう自分用の言い訳、それがその3分だ。


 無駄にSNSの画面を開いては閉じ、ネットニュースの画面を開いては閉じ。天気予報のアプリを開いた辺りで丁度3分。


 ……見る、か……


 意識的に避けていた緑のアイコンを思い切ってタップする。一番上に来ていた通知の入っている先輩のトーク画面を開く。


「お疲れ様。悪いんだけど、明日、やっぱりこの作業もお願いしていい?」


 見ると、今日先輩と話して振り分けた仕事のうち、先輩が『これはこっちでやっておくよ』と言っていた仕事を、『やっぱりそっちでやってくれ』という内容だった。その画面を見て少しだけモヤッとする。ただでさえ別件と被っている自分の仕事量は、先輩のそれと比べても多いと思う。誰でもできる仕事かもしれない。でも、そしたら。先輩には絶対に言えないけど、少しだけ手伝ってくれてもいいんじゃないか、なんて思ってしまう。


 だけどこういう時、自分は断れない性格だから。モヤモヤをグッと飲み込んで、一言だけ返信を返す。


「承知いたしました」


 ……何が『承知いたしました』だよ


 自分の返した返信に対して心の中で悪態づきながら、開いていたアプリを消してスマホを投げ出す。先ほどまではウトウトしていたはずなのに、いつの間にか睡魔は遠くの彼方へと消えてしまった。代わりに言葉では表しにくい、なんとも言えないモヤモヤが溜まっている。思わず出たため息、そのため息でそのモヤモヤを吐き出せたらどんなに楽だろう、なんて思う。


 心がささくれ立っている。きっと疲れているんだ。こういう日はさっさとやることを済ませて寝てしまった方が良い。


 明日にはきっと、少しでもマシになっていることを信じて。

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