いろいろな色がありまして
二枚貝
第1話
コーヒーの黒
ガムボトルのグリーン
会議室の壁紙の黄色
バレンタインだからピンク
チョコレート食べたから茶色
昨日ワインを飲んだから赤
野球知らないけど、この前優勝したらしいんで、黄色と黒
暑くて海で泳ぎたいんで青
スタバの新作の抹茶色
休憩室に山積みされてたミカン食べました? あ、オレンジで
紫。なんとなく
雪降ってるんで白
金色。なんか金運上がりそうだし
キャベツ炒めの黄緑
*
「ねえ、何色が好き?」
隣の席の川端さんは、毎月20日ごろになるとその質問を投げかけてくる。
理由は明白で、ちらとその手許に目を落とせば、根元のほうが伸び始めたネイルが目に留まる。
「さっき昼に麻婆豆腐たべたんで、赤と白で」
「マーボー色ってこと? うける、了解」
そして次の休み明け、川端さんの爪は確かに赤と白に塗り替えられている。
いままで適当に色を告げてきたけど、川端さんは「そんな色いやだよ」と言ってくることは一度もない。
塗りたくて爪を塗ってるんじゃないの、自分の好きな色にすればいいのに。
いつもその疑問がかすめるけれど、口にしたことはない。
月末にぴかぴかになったネイルはすこしずつ伸びて、同じくぴかぴかに手入れをされてすべすべだった川端さんの指先は、毎月10日を過ぎる頃にはささくれがすこしずつ目立ち始める。
手入れとか、面倒すぎて無理なんだよね、ハンドクリーム塗ってるだけでも偉くない? これは川端さんが他部署の同期と話していた言葉。
だから川端さんの指先にささくれを見つけると、そわそわしてしまう。すこしだけめくれた皮膚の先端がツンと上を向いているのを見ると動揺してしまう。
じきにまた訊かれるだろう、何色が好き? って。
だから何でもないように答えるための練習を、頭のなかでたくさんする。今まで気に求めていなかった、身の回りのあらゆるものに目を配り、色の採集をする。
別に自分の好きな色なんてない。でも、川端さんの爪に乗った途端、その色がちょっと好きになる。
いろいろな色がありまして 二枚貝 @ShijimiH
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます