夢日記 ー 荷物の下 ー
二八 鯉市(にはち りいち)
夢であれ
スーパーの袋をぶらさげて、帰宅した。すると、家の付近に男がいる。
なんとなく、警戒する。近所の人ではないような気がする。
家に入る。
がちゃりと、中から施錠する。
がたがたがたっ、とドアが鳴る。振り返る間もなく、
――がちゃり。
鍵の開く音がして、誰かが迫ってくる。
「たすけて」
喉が掠れて声が出ない。たすけてほしいのに。
顔はよく覚えていない。にやにやした中年の男が、私に迫ってくる。
「あのう、締め切りは守ってくださいよぅ困るんですよぅ」
キィキィと軋むノイズ交じりの声で男は笑う。両手で私に掴みかかろうとする。
足をもつれさせながら廊下を走って逃げ、その最中に段ボール箱を倒してしまった。男は箱を踏んだのか、よろけたのか、背後でドタンと人が倒れる音がした。
通報? 逃げる? 通報? 逃げる?
私はスマホを取り出そうとして――気が動転して、どこに電話をかければいいのか分からない。
たすけは来ない。
私がこの手でなんとかしなければ。
それで。
それで、次の瞬間。
私は近くにあった椅子を手に持ち、倒れている男の脳天へと打ち下ろした。床に伸びた手が、ビクッと痙攣する。
「うわ、まだ生きてる」
起き上がらせてはいけないと思った。だから何度も打ち下ろした。息を荒げ、男が動かなくなるまで、何度も何度も椅子を叩きつけた。
男は動かなくなった。衝撃で折り重なった段ボールの荷物の下で、きっと死んでいる。
きっと、きっと死んでいる。
***
「……って夢を見たんだけどさ」
「へぇーそりゃ大変、大変。てかさ、なんか追い詰められてるんじゃない? そんな夢見るって」
「マジで思うわ。いっつもこのパターンだよ。締め切りに追い詰められた時にみる恒例の夢」
「あはは。でもさ、実際締め切りやばいんじゃん? はーマジ繁忙期、繁忙期」
「うん、そうだね、頑張る」
私は電話を切った。
正面にはパソコン。今日中の締め切りが3つ。
背後には段ボールの山。片付けられない荷物の山。
そう、あの荷物は片付けられない。
だって、あの荷物をどかしたら、きっとそこには――
夢日記 ー 荷物の下 ー 二八 鯉市(にはち りいち) @mentanpin-ippatutsumo
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