第8話 番外編その1 真聖 vs 日本1の男
――あれ、なんで倒れてるんだろう。
身体が動かない。目の前では竜也が血を流して倒れている。
全く記憶がないが、体育館の端では茉莉と安慈が拍手をしている。田口はこちらを睨んでいる。
次の瞬間、吐血と共に意識が無くなった。
1時間程前、真聖と安慈は図書室に居た。
「aggressive,どういう意味?」
「アグレッシブ‥‥天才とか?」
「ちがう!攻撃的な!!」
「はぁ、安慈は英語ができていいよな」
「真聖はそろそろやばいよ。テスト全部赤点だし」
「竜也がいけないんだ。あいつが授業中にちょっかいかけてくるから集中できないんだよ。やめてほしいけど、あいつ日本1位じゃん? 怒らせたりしたら一巻の終わりだよ」
なんのための筋肉だよ。安慈はそう言いかけて、止めた。
そこへ、田口がやってきた。彼に説明すると、血相を変えて怒り出した。
「そんな生半可な覚悟で生きてきたのか?ふざけんなよ。俺はお前を応援するぜ。」
「いやそう言われても、なあ安慈」
「う、うん。真聖に怪我されても困るし」
「男じゃねえなあ。お前なら余裕で勝てるだろ。それに茉莉にかっこいいとこ見せたいだろ?」
「うっ。まあそうだけどさ」
「ここで勝てたら評価かなり上がると思うぞ。」
「そうか。じゃあ言ってみるか」
彼らは、竜也が部活をしている体育館へと向かった。
その道中、竜也の後輩とすれ違った。なぜか顔が腫れ上がっている。これから保健室に行くのだろう。真聖は嫌な予感しかしなかった。
体育館では、案の定竜也が後輩に暴行を加えていた。
「えー、あそこに行くのか...」
「お前なら大丈夫」
田口に背中を押され、竜也の元へ向かった。
その時だった。床が滑って綺麗にずっこけた。そして竜也と正面からぶつかった。
「あぁ!?」
「お前いつも授業邪魔してくるだろ!!!!やめろ!!」
誰もが思った。絶対言い方違うだろ。
その言葉は竜也の逆鱗に触れた。気がつくと右ストレートを食らっていた。
真聖はよろけながらもガードの姿勢を保った。
正直、勝つか負けるかは五分五分だった。なんせ相手は日本1の男だ。毎日筋トレをしている真聖でも体格的には同等なのだ。
本気を出さなきゃ負ける、真聖はそう悟った。
「なかなかやるじゃないか。この私と戦った人はみんな救急車送りだ。君はどこまでやれるかな」
「俺が勝ったらこれ以上ちょっかいかけるなよ」
「もちろんだ。 勝てたらな!!!」 👨🤜 🤛🧏
「ちょっと俺茉莉呼んでくる。」
そう言って田口は体育館から出ていった。
なぜ田口は2人を戦わせたのだろう。安慈はずっと疑問に思っていた。
田口が真聖と茉莉の関係を応援するはずがない。なんなら壊したいはずだ。
真聖は気付いていない本当の理由。
――茉莉を失望させるためだ。田口は最初から真聖が勝つなんて思っていなかったんだ。その上で戦わせて、茉莉が幻滅したところを狙う。そんなとこだろう。
なんで気づかなかったのだ。真聖に勝ち目はほぼない。
実は、真聖は人と戦ったことがない。なんなら格闘技に全く興味がない。
相手の攻撃に上手く対応できるか―――無理だな。
すまない、骨だけは拾ってやるからな、真聖。
上段回し蹴りを食らった。なんとか腕で止めたものの、反動で5メートル飛ばされた。意識が朦朧とするが、やるしかない。起き上がって打開策を考える。
竜也の強みは、何と言っても攻撃力だ。まさにaggressiveなのだ。
なら、こちらもaggressiveになればいいだけの話。
まずは一発。顔にアッパーを決める。だが、全く動かない。
「そんなパンチじゃまだまだ勝てないぞ!」
竜也から10連続のパンチを食らった。身体が燃えるように熱い。おそらく背中から血が流れている。この筋肉がなかったら骨折していただろう。
間合いを取ろうと下がり始めた瞬間、茉莉の声が聞こえた。
なんて言っているのかわからない。声は耳に入っているが、うまく脳内で変換されない。
どうすればいいのか。落ち着いて考える。
目の前の強敵を倒す方法――攻撃無効化を持った敵をどうやって倒せばいい?
それ以上の一撃を出すしかない。
加藤先生のグーパン、通称kato arm。昔、教室に入ったハエを跡形もなく粉々にしてしまった技だ。繰り出し方は脳に焼き付いている。相手の身体に触れた瞬間に腕を回転させ、威力を増大させるのだ。
これなら、あいつに効くかもしれない。確証はないけど。
全ての力を込め、足を踏み込んだ。
真聖の一撃は、竜也の顔に直撃した。漫画とかでありそうな、綺麗な右ストレートを見事に決めた。その衝撃で竜也は壁に激突、そのまま地面に倒れ込んだ。
真聖は動けなかった。身体が痙攣している。足を動かそうと思った次の瞬間、その場に倒れ込んだ。
その後、真聖と竜也は生活指導になった。反省文を原稿用紙10枚程書かされ、竜也に関しては部内での暴行も相まって退学処分となった。
また、茉莉に関しては真聖の強さを改めて知り、好感度が上がったという。
「まさか真聖が勝つとは思わなかったよ、俺も含めて」
「安慈には信じてほしかったなー」
「いやーでも改めてお前すごいな」
「筋肉は全てを解決する、俺の好きな名言なんだ」
こいつ...やるな。安慈には真聖の笑顔が輝いて見えた。
ちなみに、田口は安慈の密告により計画がばれ、茉莉に嫌われることになりました。
鏡の向こうの君と おこめ @ryotarrrrrrr
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