6話目
さて、朝から締められ、引っ張り回されたマリーだが、本番はこれからだった。
「や……やめてっ!!! これ以上物理的に無理よぉぉぉ!!!」
「妃殿下耐えられませっ!! 腰の細さこそ女の魅力!!
他に引けを取ってはなりませぬ!!!!」
と、ノアイユ夫人に檄を飛ばされ、コルセット締め付け地獄をたっぷり味わうさ中……。
錯覚?
いつの間にやら姿を消していた、あのふざけた悪魔が、長椅子に悠々と寛ぎ、ニマニマと笑っている💢
おのれぇ💢💢💢💢💢!!
一体どういうことなのか、周りの人間には全く彼が認識されていないらしいことが、さらにムカつく💢💢💢
しかし、そんな怒りも、宮廷人が持ってきたドレスで吹っ飛んでしまった。
「こちらのドレス、リヨン織物の技術を駆使し、さらにはダイヤモンドをふんだんにあしらった、未来のフランス王妃にふさわしい、最高級の逸品でございまする。」
と、流れるように説明されたそのドレスは……
ギンギラで、スカートがモッサリしてて……
コルセットの締め付けで十分ダメージを食らったマリーには、
ナニコレ……ドレス型の鋼鉄甲冑じゃない!?
着るの!? これを!?
加圧トレーニングをしろと!?!?!?
ムキムキになるわっ!!!
せめてもの抵抗にマリーは後退りするも、ガッツリ両脇を押さえられ、
「イヤぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」
抵抗も虚しく、甲冑ドレス装着。
重い。
当然ながら重い。
ダイヤって、こんなビーズみたいにそのへん貼り付けるものだったろうか?
ありがたみがないっていうか……重い。
それを……
「プッ!! ヤベーな? 18世紀フランスのドレス!! 鎧? 甲冑じゃん!!
オレちゃん絶対着たくない☆」
ギャハハハハハハハハハハハっ!!!
と、悪魔がビール缶片手に大受けしてやがる……。
あーーーーー💢💢💢💢💢
ムカつく!!!!!
ダイヤを弾丸代わりに銃にこめて、ヤツのどたまかち割りたいぃぃぃ!!!!!!!
「妃殿下!! お顔がっ!」
マリーの目は釣り上がり、口は歪み、鼻孔は膨れ上がって、青筋まで立てていた。
その顔を見て悪魔は、
アハハハハハハハハハハハハっ!!!
あっ〜〜ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!
顔よっ!!!!
顔芸じゃん!!!!!
と、両手叩いて笑い転げている。
キー〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!
マリーは、手近にあったものを悪魔の顔めがけてクリーンヒットさせるつもりであったが……
存外にこの体は虚弱であった。
「妃殿下!!!!!!!!」
マリーは卒倒してしまった。
そして……なんか頭が引っ張られる。
それに、香水か? なんかバラの香りがむせ返るほど……バラの香りは嫌いじゃないけど……
ここまで匂うと、鼻への暴力だ。
耐えきれず
ふ……ふぁっくしょいぃぃぃぃ!!!!
大きなくしゃみを一つでマリーは目覚めた。
「妃殿下!! お気を確かに!!!」
ノアイユがまた、バラの香りを鼻に押し当てようとするので、マリーがいい加減キレた。
「ちょっといい加減ににしてくれない!?!?
そのバラ臭いのっ!!!!!
第一病人に香りの強いもの嗅がせるとか、無神経だとは思わなかったの!?!?!?!?
イカれてるのも大概にしなさいよね!!!!」
周りが呆気にとられている。
それもそうだ。貴婦人たるもの大声で怒鳴り散らすなど、以ての外である。
それを、常に衆人環視の下に置かれるヴェルサイユでやってしまったのだから、気まずいどころではないのだ。
何でこんなに静まり返るのよ!?
そんなやっちゃいけないヤバイことしたの?
私。
マリーは若干不安になった。
そして……、ノアイユを見れば、彼女、信じられないものを見たと言わんばかりに、ショックを受けた顔で
「妃殿下……、恐れながら人目がございますゆえ、大変よろしくないかと……。」
マリーは周囲に目を向ける。
すると、辺りの貴族たちがヒソヒソと何か言いっていて、
「さすが、女傑の国は違いますのね……。」
等と、嘲笑めいたものまで聞こえる。
なるほど、理解した。
ここでは、完璧なお姫様人形になっていなければ、揚げ足を取られて、立場があるにもかかわらず、舐められる、つけあがられるのだ。
クソ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!
こんなことにいつまでもやっていられるかっ!!
マリーの闘志に火がついた。
必ずこのヴェルサイユ宮を破壊してやる!!
フランスの貴族連中をまとめて這いつくばらせやる!!!
あたしは、マリー·アントワネットじゃない!
21世紀アメリカ人のマリー·バートランドよ!!
マリーは姿勢を正し、椅子に座り直し、
「あら、小鳥のさえずりが少々うるさいようだわ。」
と、辺りをひと睨みした。
たったそれだけだったが、明らかに空気が変わった。
「皆の者、少々驚かせたようね。
続けなさい。支度は終わってないのでしょ?」
と、言うと、宮廷人達は慌てて準備を再開した。
この事によって、マリーの癇癪持ちだと言う噂は、噂ではなく、周知の事実として広まってしまった。
しかし……。
それは間違いなく、大きな変化を生む最初の波紋となるのだ。
そして、そのさざ波に、早くも変化をもたらした人物がいた。
「殿下、悪いことは申しませぬ、お早めに公娼をお持ちになられませ。」
と、マリーが癇癪を起こしたというこ報告の後に、廷臣からの進言をルイ·オーギュストは受けた。しかし、
「私は望まぬ。妃とは良く話しておく。」
と、ルイ·オーギュストは答え、彼を下がらせた。
元々、彼女と積極的に話すつもりはなかったのだが……。
どうも不審な点が多すぎる。
まずは、一夜にしてフランス語が劇的に上手くなった事。カタコトだった彼女がどうしてあんなにも上手かったのか?
2つめは、勉強熱心ではないと聞いていた彼女が英語を話せたこと。
それに、英語を学ぶこと自体はそう忌避されることでもないが、立場と状況を鑑みるに、誰が見聞きしてるとも限らぬヴェルサイユで平然と喋ってしまうと言うのは……ちょっとおかしい。
それほど愚かなのかと思えば、政略結婚の意味を彼女はしっかり把握していた。
どういうことなのか……。
そうして、披露宴会場の真新しい劇場につくと、彼女に、マリーと顔を合わせた。
「あら、ごきげんよう殿下。」
姿勢良く、堂々と佇むその姿は、やはり初めてあったときの可憐で儚い少女のそれではなかった。
別人だ。
まさか本当に……影武者と入れ替えわったというのか??
だがそんな隙は無いはず……。
「君とは、話すべきことが多くある。」
「えぇ。私も。ちょうどそのように思っていたところですわ。」
と、マリーの挑発的な眼差しに、ルイ·オーギュストはドキりとした。
広角は柔らかく上がっているものの、目がやたらに鋭い。
まるで、対等同志のような……。
「さぁ、参りましょう。」
マリーはルイ16世のエスコートを受け扉の前に立った。
French Revolution by American Girls アメリカ女子のフランス革命サバイバル戦記 泉 和佳 @wtm0806
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