第33話 僕は僕の意思で、世界の謎を解き明かす!

 



 僕だって、覚悟がなかったわけじゃない。


 それでも、狭い研究室の中で真人と二人で仮説を語り合って、いつかこの世界の謎を解き明かしたいなんていう、ふんわりとした決意と、危険と隣り合わせの覚悟では比べ物にならないことはわかる。


 僕達が目をつけられていないのは、何も知らないからだ。今なら引き返せるからに過ぎない。


 教授の言葉にすぐに何も返せずに横を向くと、隣に並んで座っていた全員が、神妙な面持ちで震える拳を握りしめていた。


 皆もわかっているんだ。ここからは謎解きごっこでは済まない領域に足を突っ込もうとしていることに。

 ふと、隅でかたかたと震える手を必死に押さえつけている莉奈の姿が目に入った。


 そうだ。これはもう、僕がこの世界の謎を知りたいだけなんていう問題ではなくなってしまった。僕のわがままで、皆を危険なことに巻き込むわけにはいかない。


 辞めようと思います。この日常を壊したくない。そう言おうとした僕の肩を、隣に座っていた真人が強く握った。


「お前、また何か余計なことを考えているんだろ? お前は、これからどうしたいんだ?」


「僕は……。皆を巻き込みたくはないよ」


「それが余計なことだっつってんだ。そういうの抜きにして、俺は、お前の覚悟を聞いてるんだよ」


「でも、これはもう、僕だけの話じゃないんだ。そういう次元の問題じゃなくて……」


「そういう次元? 何を今更言ってんだ。元々、この世界がおかしいって、この世界を相手にしようとしてたんだろ。教授に言われたからって、何も変わらないだろ」


「……でも、今まではそうかもしれない、という予想に過ぎなかった敵という存在が、明確に存在するんだよ? 僕達がその敵の意にそぐわなければ、消されることもあるかもしれないんだ……」


 真人が大きくため息をついた。


「あのなぁ、お前がリーダーだ。とは、言ったけど、それは皆がお前に従うってことじゃないんだよ。だから、巻き込むとかは気にしなくていいんだ」


「でも……。僕が続けたい、なんて言ったら、皆が辞めたいって言いづらくなってしまう。強制することはしたくないんだ……」


「思い上がんな! お前は、お前の意思でどうしたいのかを決めろ! 俺達だって、自分のことは自分の意思で決める。お前が辞めないっつったって、俺は辞めたければ辞めるし、他の奴らにだって俺が本音を言わせてやる!」


 真人の言葉に、僕はリーダーとして、全員の命運を握ったつもりになっていたことに気がついた。


「僕が、どうしたいのか……」


「おう。俺らのことまで勝手に考えるな。誰が辞めたって辞めなくたって、それは個人の問題だ。危険と背中合わせの選択だ、誰か一人に委ねていいもんじゃないんだよ。それに、どっちを選択したからって、それで人間関係の何かが変わるわけじゃない」


 僕の懸念していたことを全て代弁してくれたように思う。それくらい、真人の言っていることは尤もで、人付き合いが苦手な癖に、居心地のいい今の環境を崩したくないと僕は変に考え込んでしまっていたようだ。


「ごめん、真人。……僕は、少し気負いすぎていたのかもしれない」


 そうだ。

 僕がどうしたいのかなんて、そんなの聞かれるまでもない。

 僕の覚悟なら、ずっと前から決まっている。


「僕は、辞めません」


 僕は教授を真っ直ぐに見据えて、堂々とした態度で告げた。


「この世界がおかしいのなら、その理由を知りたい。誰かの意思がこの世界を捻じ曲げようとしているなら、この世界をあるべき姿に戻したい。……僕は僕の意思で、この世界の謎を解き明かしたい!」


 そう口にした瞬間、すっと、心の中にあった迷いが全て消えたような、そんな気がした。


 まるで宣言をするように、柄にもなく大きな声で告げる僕の姿を見て、にやり、と嬉しそうに隣に座っている真人が笑っていた。


「やっぱり、お前はそうこなくっちゃな!」


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