第9話 突撃!隣の研究室!

 



 僕と真人がグループチャットに参加したのと、ほとんど同時に二人から返信が返ってきた。


『あれれぇ、新人さんだぁ。この名前って〜もしかして、有名人の二人かなぁ? よろしくねぇ〜』


『はじめまして、ミキです。宜しくお願いします』


 ミキという名前の人は、とても丁寧な印象で、真人が軽く挨拶を返すと全て敬語で返ってきた。

 もう一人の方は語尾を伸ばすのが特徴的で、ふわふわとしたのんびりとしている口調だった。名前を見ると、ひらがなでゆうと表示されている。この人の方が、女の子なんだろうか。


『文字だと性別がわからないな。ゆうの方が女性なのか?』


 真人の質問に、ゆうが質問で返す。


『二人はどっちが女の子だと思うの~?』


『やっぱり、ゆうが女の子かな?』


『ぶっぶー! 残念でした~。正解は、ミキちゃんが女の子だよ〜。あいむ うぃーなー!』


 正解を聞いてからも、どうにもこの口調が男のように感じなくて戸惑っていると、ゆうが急に真面目な口調で言った。


『ねぇねぇ、ひめかちゃん。この二人をここに呼んだってことはさ〜ボクらに用事があるんでしょ? そろそろ、ボクらの出番なのかな?』


『そうです。お二人が良ければ、恭哉くん達と一緒にお話がしたいなって思って……』


 姫花がそう言うと、ゆうは即決で、今から研究室までいくねと言って、強引にミキのことを誘った。


『いいね、いいねぇ。皆で一緒に謎を解明しようよ! ミキちゃんも来てくれるでしょ〜? ふふっ、会ってみたいと思ってたんだよね〜』


『ゆうさんが一緒なら、私も行きますよ。人付き合いが苦手なので……。長年ネットでお友達として付き合ってくれているゆうさんがいれば……安心です』


 念の為、僕達といると変人扱いをされるかもしれないと伝えると、ゆうは元々変わり者だと言われているから大丈夫だと言い、ミキの方にも普段は一人でいるので気にしませんよ、と言われた。


『せっかくだから、合言葉決めちゃおっか〜。じゃあ、突撃! 隣の研究室! で。じゃあ、また後でね〜』


『急いで行きます。それでは、また後で』


 嵐のような人だな……。勝手に合言葉なんかを決めて、いい逃げしたゆうに続いて、ミキもすぐにログアウトした。


 なんだか、不思議な関係性の二人だったな。

 実際の二人がどんな人なのか、四人で想像しながら話していると、あっという間に時間は過ぎていった。

 時計に目を向けると、チャットを終えてから、もう15分程の時間が立っていた。


 校舎から研究室へ来る最短ルートは約10分程で、遅くてもそろそろたどり着く頃のはずだ。


 コンコン。


 そんな事を考えていると、ドアが軽くノックされた。


 どちらが先に来たのだろうか。

 どうぞ、と一言だけ声をかけて入ってくるのを待つと、バタンと大きな音を立てて、躊躇いなくドアが開いた。


「突撃! 隣の研究室~!」


 のんびりとした声で、一方的に決めた合言葉を言いながら、絵の具のついたツナギを着ている青年が入ってきた。

 ご丁寧にお茶碗とお箸を持って立っているけれど、そのネタの小道具のつもりなのだろうか。


 見るからに独特な雰囲気を持つ彼を、両手に持たれたお茶碗とお箸が更に際立たせている。


 おそらく、この明るい髪の青年が、合言葉を言い逃げしたゆうさんなのだろう。


「あれぇ、全然ウケてないなぁ。このネタ、面白くなかったかな〜?」


 残念そうにポリポリと頬をかいている青年に、皆を代表して僕が問いかける。


「えーと、君がゆうさんかい?」


「そうだよ〜。ボクの本当の名前は優斗ゆうとっていうんだ、よろしくねぇ」


「優斗さんか。僕は恭哉、よろしくね」


「呼び捨てでいいよ、恭哉くん。ボクも気楽に呼ばせてもらうから」


「あぁ、わかった。そうさせてもらうよ」


 簡単な自己紹介を済ませると、僕に続いて、莉奈と姫花も軽く挨拶を交わした。


「こっちの元気そうな子がリナちゃんで、こっちの大人しそうな子の方が、ひめかちゃんであってる?」


「正解! あたしが莉奈で、こっちが姫花であってるわ!」


「……よろしくね。優斗くん」


 対照的なテンションで挨拶をした二人と、笑顔で握手をすると、優斗はきょろきょろと研究室の中を見渡した。


「二人とも、こちらこそ、よろしくね。ところで……ミキちゃんはまだ来てないの?」


「……ミキの前に、俺にも一言触れてほしかったけどな」


 一人だけ名前を聞かれなかった真人が、ふてくされたように言う。


「あ、ごめんごめん。真人くんだよね?」


「あぁ、俺のこと知ってたのか」


「恭哉くんと真人くんは、とびっきりの有名人だからね。真人くんは構内でもたまに見かけるし」


「……まぁ、恭哉は構内じゃ滅多に見られないからな」


「そうそう。だからつい、真人くんのことは知ってるつもりになってただけで、悪気はなかったんだ」


 許してよ、と軽くウインクをして謝る優斗に、真人はやれやれといった感じで頷いた。


「悪気があって無視した訳じゃないことくらいわかってるよ。まぁ……真人だ、俺も呼び捨てでいいぞ。よろしくな」


「よろしくね、真人くん」


 和気あいあいと盛り上がる皆を横目に、僕はいそいそと優斗の分の紅茶を用意した。



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