とある主従のはなし

べるがりおん

とある主従のはなし

 草履を履いたら生温かい。ふと脇を見やると最近雇われたらしき小者が控えている。その貧相な顔にピンと来た。こいつはアレだ。アレしたに違いない。

「おい、新人」

「は、はい!」

 俺の呼び掛けに小者はビクビクしながら応じた。ビクンビクンだったら即座に殺していただろう。

「お前、この草履を尻に敷いて座ってただろう?」と問い掛ける儂に対して、

「い、いえ、めっそうもござりません!」と必死に全身で否定してきやがる。異議ありかよ。なら、畳み掛けてみるか。

「ならよー、なんで草履が生温かいんだ? あ? 馬鹿にしてんの? お前の雇用主だぞ?」

「…わ、私はその草履を懐で温めていたので」

 その言葉に、俺の時が一瞬止まった。

「なんで?」

「は、はい。履いた時に冷たいかなー、と思いまして…」

「証拠は?」

「この通り私の身体に泥が付いているのが証拠かと存じます」と言って上半身裸になる。見れば草履の形に泥っぽい汚れが付いている。顔に付随して身体も貧相だな、こいつ。

「なるへそな。まあ、その事は解った。解ったけどよー」

「はい?」

「人肌で温められた草履を履いた俺の気持ち分かる?」

「い、いえ」

「好みでも無い男の直肌で温められた俺の生理的嫌悪感だよ! まだ尻に敷いて温められてた方がマシな感じだよ。それなら服という緩衝材があるからな!」

「…」

「誰かある!」

「はっ! ここに!」

 呼び掛けに応じてすぐさま駆け付けてきた者に対して俺は命じた。

「こいつ放逐しといて」

「はっ、直ちに!……ほら、こっちこい!」

 絶句と呆然の混じった表情を浮かべた小者は力無く引っ立てられていった。まあ、正直に言ったから命だけは助けてやることにした俺って優しくない?

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とある主従のはなし べるがりおん @polgara

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