ささくれの作り方

西園寺 亜裕太

第1話

「見てー、ささくれできちゃったぁ」

教室で自分の席に座っていると、実花がわたしの方にやってきて、人差し指を向けてきた。たしかに、爪の下は少し皮がむけていて、痛そうなささくれができていた。


「ほんとね。大変だわ」

素っ気なく返しておいたら、実花は頬を膨らます。

「ねえ、もっと心配してよぉ。痛いんだからぁ。消毒液とかないのぉ?

甘えたような間伸びした声で尋ねてきて面倒だから、「唾でもつけておいたら?」と雑に返す。


「唾かぁ、りょうかーい!」

実花は「えいっ」と言って、躊躇なくわたしの口に人差し指を突っ込んできた。自分の唾をつけなさいよ、と言いたかったけれど、実花の指が口に入っているから、間違えて噛んでしまいそうで何も言えなかった。


「とりあえず、なーちゃんがささくれ舐めてくれたら治るかなぁ?」

ジッと、期待するような目で実花に見られてしまったから、わたしは仕方なく、しっかりと実花の人差し指を舐めることにした。


「くすぐったいなぁ。うちのワンちゃんみたい」

実花が楽しそうに笑う。飼い犬と一緒にされて恥ずかしかったから、わたしは口を開いて、実花の指を離した。


「まだ、ささくれ残ってるよぉ」

「そんな一瞬唾をつけただけで治るわけないでしょ?」

「長時間舐めないといけないんだねぇ」

「いや、そういうわけじゃ……」

ささくれって唾をつけたら即治ったりするようなものではないのだけれど……。


実花は今度は先ほどまでわたしが舐めていた指を自分の口に含んだ。

「初めから自分の唾でやりなさいよ……」

「なーちゃんの唾の方が効きそうだし」


「なんでよ……」

「なんか自分の唾よりも、大好きななーちゃんの唾の方が効果ありそうじゃない?」

「そんな発想したことないわよ」


わたしはため息を吐いて内心呆れたふりをしつつも、心の中でドキドキしていた。今わたしのこと大好きって言ったよね……?


「ねえ、その大好きって、友達としてってこと?」

友達よりも、もっと大事なものであって欲しかったから、否定して欲しいと思いつつ尋ねたのに、ノータイムで「そう!」と頷かれた。

「大好きな友達のなーちゃん!」


自信満々に言われてしまって、わたしはため息をついた。まあ、そうだよね。この子がわたしのことを愛してくれているところがまったく想像できなかった。


いつまでも続きそうなわたしの一方的な片思いだ。この子といたら、わたしの心がささくれてしまいそうなんだよなぁ……。

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ささくれの作り方 西園寺 亜裕太 @ayuta-saionji

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