【第一回】噂のあなたにインタビュー!【闇の勇者】
燕子花
病んでる勇者、闇勇者
皆さん、こんにちは。
この完全没入型VRMMORPG「エターナル・マスカレード」略して「エタマス」にてさまざまな情報を配信しております、西のコンビニです。
今回は新企画、題して「噂のあなたにインタビュー!」をやっていきたいと思います。
──お、西野じゃん
──待ってました!
──新企画?
──前回は毒キノコの食べ比べだったっけ?
──今回のは普通っぽいな
この企画は、最近噂のちょっと気になるけど近づくのは危険……かもしれない! そんなデンジャラスでバイオレンスな有名プレイヤーの素顔を暴いてしまおう! ……というものです。
──誰だ普通とか言ったやつ
──PKされて終わりじゃね?
──さすが西野、わかってるじゃん
──そこにシビれる!
──憧れるぅ!
コメントも盛り上がってきましたね。
今日は第一回ということで、エタマスのプレイヤーなら誰でも知っているであろう、あのお方をお呼びしております。
えー、第一回の有名人はこちら!
闇勇者こと職業、闇の勇者!
プレイヤー名、ああああ氏です!
──こいつ死んだわ
──骨は拾ってやるよw
──第一回目にして最終回になるわけか
──いやでも今ならワンチャン……
──闇勇者、最近はまともじゃない?
ああああ氏、今日はよろしくお願いします。
「よろしくもなにも……なにこれ。配信? 聞いてないんだけど……てかなに? いきなりきてなんの用? 俺これから攻略に戻るところなんだけど。え、これ着いてくる感じ?」
──勇者、大 困 惑 !
──西野おまえ……w
──お呼びしたとは何だったのか
──ここでPKしないあたり、勇者も丸くなったな……
──これまじで話聞けるのでは?
攻略のお邪魔はいたしません。
その代わり、ここで少々お時間をいただきます。
「は? 普通に嫌ですけど……」
いくつかああああ氏にお聞きしたいことがありまして。
とりあえず、呼びづらいので闇勇者とお呼びしてもよろしいでしょうか?
「よろしいわけないよね、やめてくれる?」
あ、もしかしたら皆さんの中には、彼がなぜ闇勇者と呼ばれているか、ご存じない方もいらっしゃるかもしれませんね。
ご説明します。
「しなくていいよ……知らないなら知らないままでいいよ嫌がらせかよ」
──親切心じゃないのはたしかだな
──やめたげてよお!
──いま、知られざる勇者の秘密が暴かれる……
──みんな知ってるんだよなぁ
闇勇者ああああ氏は、元は平凡な農民を職業にして村人Aに成りきり、エタマスの世界を楽しんでいました。
初めから勇者というわけではなかった彼ですが、ワールドチャットではすでにその偉大なプレイヤー名から勇者と呼ばれ、親しまれていましたね。いやー懐かしい。
──楽しそうだな、西野だけ
──隣の勇者、すげー嫌そうで草
ちなみにですが、闇勇者さん。
プレイヤー名にああああを選んだ理由、お聞きしても?
「……理由なんてないよ。なんとなくこれにしたら、誰とも被ってなくて使えちゃったんだ……ねぇその顔やめてくれない?」
──この生暖かい目よ
──絶妙に腹立つ顔だなw
──つねに笑顔! 配信者の鏡だね!
──↑笑顔にも種類があってだな?
──喧嘩売ってるとしか思えねぇ顔だな
黎明の国の小さな村でスローライフを満喫していた闇勇者さんでしたが、ある日を境に激変します。
あの日、なにがあったのか。
なにが勇者ああああを変えてしまったのか。
皆さんもあの日のことは、今もなお忘れられずにいることでしょう。
あの日、我々は管理AIの宣言によって、ようやく気がついた。
このゲーム、エターナル・マスカレードの世界からログアウトできないということに。
ゲーム発売から約半年後のことでしたね。
あのときの衝撃は、私もよく覚えています。
なにせ我々は皆、ゲーム発売の初日からプレイしていた同志。
それが揃いも揃って半年間、一度もログアウトしていなかったことに、元凶たる管理AIに言われなければ気がつかなかったのだから。
なんて間抜けだったんでしょうね。
──やめてくんない?
──おい流れ弾w
──なんだその「やれやれ」みたいな顔
──お前もその間抜けの一人だったんだからな?
ログアウトできず、死ぬこともできない。
そんな世界に閉じ込められたプレイヤーたちは、その多くが発狂した。
闇勇者は、そのうちの一人だった……そうですね?
「ねぇもういい? これ俺、律儀に付き合う必要ないよね? もう行くよ?」
おや、なにかお急ぎの用事でも?
「今から魔王城の攻略だよ。取り巻き連中を一体でも多く倒すんだ」
なるほど。
では配信から逃げるわけではないと?
「そもそも俺、撮っていいなんて許可してないし……だいたいさ、誰にだって思い出したくないことの一つや二つ、あるでしょう?」
つまり……自暴自棄になってクワを片手に暴れまわっていたら倒したのが偶然すべて敵性プレイヤーと魔物で? 意図せぬ強制ジョブチェンジであだ名勇者から本物の勇者になって? でもなぜか勇者の前に闇がくっついていて、その理由を考察したどこかのプレイヤーがワールドチャットに「病んでる勇者だから闇の勇者なんじゃね?」と書き込んだのをきっかけに闇勇者と呼ばれるようなったことを、闇勇者さんは思い出したくないと?
……そういうことですか?
「……、…………ッ」
──勇者、エサ待ちの鯉みたいになってるぞ
──でも勇者の黒歴史、こんなもんじゃないんだよな……
──そしてそれをワールドチャットで晒されてるから俺ら周知の事実っていう
あ、違いました?
じゃあ、あれですか?
言わなくても発動するのに、わざわざスキル名をクールな感じに呟きながらスキルを使っていたやつ。
それとも、複数のスキルを併用することでわざわざカッコいいエフェクトを出して戦闘風景を華やかにしている方だったり?
あるいは戦闘終了後、わざわざ死屍累々のど真ん中でたたずみ、狂ったように高笑いしていたこと───
「ぁぁあああああッ……ぅがあああああ!!」
──あw
──P K 達 成 !
──西野ざまぁwww
──発狂してる闇勇者、久しぶりに見るな
──さすがのワンパンキル
──勇者、成長したね……
──↑スキル名、呟かなくなったもんな……
──↑エフェクトも控え目になったよね
──↑なくならないあたり、もう無意識でやってるんだろうな
──あれ、勇者どこ行った?
──ほんとだ、いない
──いつの間にw
──いじられてるけど、やっぱりハイスペックなんだよな
──勇者だしね……いや闇の勇者だったかw
【自動メッセージ:配信用カメラの所有者が戦闘不能により拠点へ転移しました。今回の配信はこれで終了いたします】
【第一回】噂のあなたにインタビュー!【闇の勇者】 燕子花 @twinkle
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます