第17話 ~森で会う人物にはご注意を~

「いや~助かりました……」


「大丈夫ですよ!気にしないでください」


「ところで。君はこんな森の中で荷物も持たずに何してたんだい?」


「それが……」


 どうやらこの男の話によると、5人の仲間と共にダンジョンに挑んだのだが、途中で仲間と離れ離れになってしまい、魔物に追われて逃げ込んだ先が転移罠の部屋で、運悪く引っ掛かってこの森に飛ばされたのだという。


「それは災難でしたね」


「えぇ本当に……それでここがどこか分からずに彷徨っていた次第です」


「君はダンジョンに潜っていたんだよね?そうしたらその名前とかってわかるかい?」


「私達が潜ったダンジョンというのが、実は私達で新しく見つけたダンジョンのようでして……名前まではわからなかったです」


「そうか、ダンジョンに入る前に冒険者協会とかに報告は?」


「2人の仲間が未探索のダンジョンというのに凄く興味を惹かれてしまい、勝手にダンジョンの中に探索に行ってしまったんです。それで中々出てこないのを心配して入った形なので、協会に報告などはしてないです」


「それはマズいね」


「やっぱりマズいですか……」


「そうだね。ダンジョンに報告せず入ると、ダンジョン内でトラブルが起きた際に派遣される、救助隊の出動ができなくなってしまう」


 ほとんどのダンジョンでは、別の探索任務に出ていた冒険者が、偶然手付かずのダンジョンを発見し、冒険者協会に報告した後冒険者協会側が、ダンジョンマッピングを専門とする冒険者に依頼して、そのダンジョンの拠点となる安全地帯を確保し、空間魔法によって簡易マップが作成された後に、更に奥のダンジョンを探索する為ダンジョン探索の依頼が冒険者協会に張り出されるという形となっているので、今回の場合のように、事前報告無しでダンジョンに挑んでしまうと、もしトラブルがあった際に誰にも気づかれず全滅してしまう危険性がある。


 奇跡的にダンジョン内から救助の要請が出来たとしても、ダンジョン内にどのような危険が潜んでいるかわからない為、要請を受けて救助しに来た救助隊が、入るに入れないという状況が生まれてしまう、なのでダンジョンを見つけた際は、必ず先に冒険者協会に報告をしなければいけないのだ。


「私はどうしたら……」


「エヴィー、街に戻っていいかい?」


「僕はもうそのつもりでしたよ」


「でも仲間が……」


「いいかい?今から俺達でそのダンジョンに向かっても同じことになるだけだ、だから一旦冒険者協会に戻るんだよ。それでいいよね?」


「わかりました……ことにしましょう」


 男がそう言った次の瞬間、男を中心に地面が青色に光り出した。


「?なんなんですかこれ!」


「引き戻しの罠だったか!エヴィー!この円から出ろ!」


「あ……」


 僕が円から出ようと走り出した時にはもう遅かった。


 光が強まり円の外の景色が見えなり、その光が止んだ時にはもう石造りの建物の中に転移してしまっていた。


「あ~これは本格的にマズいね。まさか引き戻しの転移罠だったとは……」


「なんなんですか?引き戻しの転移罠って」


「この罠はね、引っ掛かった人に魔法を掛けるんだよ。その魔法は、対象者が戻りたい、そう口に出してしまうと発動する。魔法に掛かった場所へ周辺の生物や物体諸共転移してしまうものなんだ。最近名前も聞かなくなってすっかりなくなったと思っていたんだが迂闊だった」


「あぁ聞いたことあるかも、古代都市の民間魔法ですよね」


「そうそう、魔法陣が無いと転移場所が不確定になってしまうのと、単純に使い勝手の良い簡単な魔法が生み出されてしまったせいで使われなくなった民間魔法だよ。まぁその後ダンジョンの転移罠として転用された結構不遇な魔法なんだよね」


「すいません!私のせいでこんなことに巻き込んでしまって!」


「いやしょうがないよ、ダンジョンや魔法罠に詳しくないと聞かないものだから……それに魔法大戦の時もすごい厄介で、対策するのも苦労したからね」


「!あの魔法大戦に行っていたんですか?奇遇ですね私も行ってました。と言っても後方で敵の装備などを拾い集めて、小銭稼ぎをしていただけなのですがね」


「前線は結構酷かったよ、それこそ敵の魔物も必死だから、初見殺しや不意打ちだらけだったよ。今思い出してもあれは戦いじゃなかったね」


「へ~そういえば魔法大戦の詳しい話とかあんまり聞いたことなかったな……ってしゃべっている暇なんてありませんよ!僕達結構ピンチですよ!」


「すいません……私冒険記者なんで、こういうことが起きてしまうと逆に平静を保てるっていいますか、なんか記者魂?が出てしまうんですよね」


「俺も最初は転移先の状況がどうなっているか分からなくて声張り上げちゃったけど、とりあえずは安心なので冷静でいようと思ったんだよね」


「まぁ確かにこういう危険な時こそ冷静にというのもありますよね」


「そういえばこの部屋って、君がその罠に引っ掛かった場所と同じ場所かい?」


「いえ、私がこの罠に掛かった部屋は洞窟のような場所で、こんなに整ってはいなかったです」


「ということは、罠は至る所にあるというわけか……みんな地面に警戒して探索をしよう」


 ダンジョンや危険地帯などの経験があるアルテンさんを先頭に、後ろに馬車に乗った僕とローグさん(冒険記者)それと馬車を牽くペッツという陣形で、このダンジョンを攻略しながらローグさんの仲間達を救出する作戦となった。

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