短編『ある魔道具店の店主のお話』

 今日は私の昔話を聞いてってくれるかしら?それじゃあ話すわね。


 私には前世の記憶があったの、それは私の暮らしている村とは比べ物にならないくらいの生活水準で、とても平和な国に住んでいた記憶。


 その世界では私は10歳で殺されている、だけど物心がついてからの数年間はよく覚えていたわ。


 勿論前世の私が最後に思った事も覚えている、その時はただ「もう少し長く、いやできれば永遠に生きたかった」ただそう思っていたの。


 前世では父親が作家で、よく魔法の世界の小説を書いていた、この世界はその小説の世界と同じような場所で、私はその世界観が好きだったわ。


 その小説にはたくさんの魔道具があって、そのどれもが興味深いもので、そんな魔道具が普通にある世界に生まれたの。


 私はそんな世界でただの魔道具好きの女の子として生きていたわ。


 私の村の近くには山に埋もれた遺跡があった、そこは村の掟で立ち入りが禁止されていたのを覚えているわ。


 そして子供と言うのはそういう所に限って入りたがるものなのよ、ある日いつものように遊んでいると、グループのリーダーのような存在の男の子が「あの遺跡の中を探索してみよう!」と言い出したわ。


 だけどその時私達は「危ないよ」とか「やめようよ」と言って反対してたわ。


 それでその男の子が怒って、そこから行方不明になったの。


 私達は「きっとあの遺跡の中へ入ったんだ」と思い、数日経ったある朝遺跡の中へみんなで忍び込んでみる事になったの。


 結果から言うと村は消えたわ。


 私達が遺跡の中で見つけたのは危険な魔道具ばかり、でもその時はそんな危険な物とは思わずに、興味があるものを手当たり次第にいじっていたの。


 そしてその中で一際大きな魔道具を見つけた私は、それについていたボタンを押してしまったの。


 それが原因で私以外の村の人全員が死んでしまったわ。


 私は遺跡で見つけたある道具の効果で、その惨事が起きる少し前に不老不死のような身体になっていたのだと思う、なぜならそんな惨事が起こっていても私だけ無傷だったから、こんな形で前世の願いが叶うとは思ってもみなかったけどね。


 そのおかげで何年も生き埋めにされても生きていられたわ、でもその間お腹はちゃんと空いてその苦痛はとてつもなくて、もういっそ殺してくれと誰もいない土の中で誰かに願っていたのを覚えているわ。


 途中から空腹すらも何も感じなくなった。


 そしてある日、私に覆い被さっていた土は大波によって取り除かれて、私は何年、何十年それとも何百年ぶりかに再び陽の光を浴びる事が出来たのよ。


 後で分かったんだけど、あの大波は世界規模で次々に色々な国を飲み込んでいったものらしくて、それに対してみんなは相当な恨みを募らせていたけれど、私はあの大波に今でも感謝しているの、だってあの大波が無かったらきっとまだ土の中だったと思うから。


 最初は何もかも知らない事ばかりで、周りの人が扱う言語や道具全てが謎だったわ。


 疑問は絶えず、色々な人に拙い覚えたての言葉で質問してたのを覚えているわ。


 幸か不幸かあの大波で世界のほとんどの国々は大惨事、それに伴って色々な国から被害が薄い国へと難民が流れ込んだの、だから住所出所共に不明の私でも受け入れられて、目覚めた数か月後には昔の生活水準の10倍は良い環境で、温かい住処で温かい食事を温かい家族達と食べていたわ。


 その頃は何十年か生き埋めにされていたせいか、ほとんど感情の起伏が無くて常に暗い顔をしてたわ。


 家族達は何も知らない私に色々教えてくれたわ。


 言葉や立ち振る舞い、一人で生活する為の術やこの世界の話まで、色々な話を聞いて学んで過ごしたの。


 そんな中でやはり私は、再び魔道具と出会いそれにハマってしまうの。


 そして私が周りの人と違うと気付いたのは、その生活を始めて数日も経たない内だったわ。


 あれから数十年が経ち、容姿の変わらない私を最初に気味悪がったのは、温かく歓迎してくれた家族達だったのよ、酷いでしょう?


 何も言わない、だけど私には透けて見えたわ。


 そしてある日、どこからか現れた魔物達が国中を焼き尽くしていったの。


 またしても一人生き残ってしまった私は途方に暮れたわ、逃げて逃げてそこがどこかも分からないほど遠くに逃げた後、私は森の中で気絶したわ。


 次に目が覚めると知らないベッドの上で、起き上がると隣に女の人が座っていたの、ビックリしてヒャっと声を上げると彼女は目を開けて、私を見ると黙って隣の部屋に行ってしまったわ。


 その時私は混乱してて、あの人に連れ去られてここにやってきたと勘違いをしてしまって、あの人が隣の部屋に行ったのを確認した後、出口を探し始めたの、そして部屋の中を探索している内に一冊の日記を見つけたわ。


 ペラペラとページを捲って中の日記を読んでみると、どこか懐かしい文字で何かが書いてあったの、そして記憶を頼りに思い出して行くと、この文字が何なのか分かったわ。


 それは漢字と言う文字で、前世で私が住んでいた日本という国の文字だった。


 それに気づいて驚いていると、あの人が隣の部屋から戻って来て、手には湯気が立ったスープを持っていて、それを私に飲ませてくれたの、あのスープの味は今でも鮮明に覚えているわ。


 そしてスープを飲み干した後、記憶の中の言葉で「助けてくれてありがとう」と言ったの、そしたらその人凄く驚いてて、その後すぐに質問攻めにあったわ。


 だから私は覚えている限りの前世の記憶を話したの、そうしたらその人泣き出してしまって、余程同じ記憶を持っている人を探し求めていたのだと思った。


 彼女の名前は美穂と言って、私のように前世の記憶を持っているとかではなく、どうやら20年くらい日本で生活していた美穂は、突然この世界に飛ばされた、らしい……だから私とは違っていたけれど、やっぱりこの記憶の世界は本当にあったんだと感動したわ。


 そして美穂は元の世界に戻りたいと強く願って、この世界で魔法や魔道具の研究をしていたの、どうやらこの世界に飛ばされる直前、魔法陣のようなモノが見えたらしくて、それらを研究すればいずれ帰れるはずと話してたわ。


 私も元々は魔道具好きの子供だったから、助けてくれたお礼にその研究を手伝う事にしたの、その話をすると美穂は喜んでくれたわ。


 それから10年ほど経ったある日、美穂が「どうして貴女はちっとも老けないの?」と質問して来た。


 それを聞いて少し息が詰まったけれど、正直に話した方が楽だと思って、思い切って私の身体の事を打ち明けてみた。


 私は昔のトラウマで自身の身体の話は極力避けてきたけれど、やっぱり気付いてしまう日が来ると思っていた。


 美穂に身体の事を話すと「羨ましいわ」と言ってくれたの、意外な反応にビックリしていると「貴女は貴女なのだから、その程度の事で恐れたりしないわ」と言って抱きしめてくれたわ。


 そしてその10年後に彼女は亡くなったの、自分の死期を悟った彼女は日に日に弱っていき、最後に「羨ましいわ」と言って亡くなった。


 美穂を火葬して骨の欠片を拾っている時に決心したの、美穂の為にも絶対に元のあの世界に帰る方法を見つけて、美穂を美穂の言っていた思い出の場所に撒いてあげようと。


 だけどそう簡単にいくわけもなかったの、美穂が死んでから800年くらい経っても、研究は進展せずに完全に詰まっていたわ。


 結局あの世界に帰る方法は今でも見つかって無いの、まだ研究はしているけれどもやっぱりどうしても越えられない壁というものを痛感したわ。


 そうして無駄に作った魔道具や、研究済みの魔道具が部屋に積み重なっていったの、それをしまい込むために研究の副産物である、部屋拡張器(仮)をその時初めて起動したわ。


 これは今も起動しているかなりの古株の魔道具なのよ、効果は起動すると部屋の内部が拡張されるのだけれど、家の外観は変わらないのよ、つまり外観は1階建ての家だけれど、内部は6階建てみたいな感じ、分かりやすく言うとね。


 そういえば研究をしていた時には良くお客さんが訪ねて来てたの、まぁお客さんが来るのは仕方ないわ。


 だってあの家は別に隠れ家みたいな感じに建ってなかったし、森の入り口付近だったから。


 あの時は研究が詰まってたけど、お客さんのお陰で意外と楽しかったわ。


 まぁ途中から魔王との戦争が始まってめっきり来なくなったんだけどね。


 お客さんが教えてくれなかったら危うく戦禍に巻き込まれていたところだったから、感謝してるわ。


 それが原因でこんな移動式の家になってしまったのよね。


 私が生きている間に、もう人間は4回くらい魔王と戦争してるけど、必ず人間側が勝つのだから凄いのよね。


 まぁ私はほとんど蚊帳の外だから、内部の詳しい情報は知らないけれど、魔王は千年周期で復活を繰り返しているんだっけ?


 そういえば最近も戦争したのよね、これで5回目かしら?


 あれ、これの前の戦争って100年前くらいよね?周期が大分短くなってないかしら?


 ところで魔王は復活した時にその前の記憶とかって残ってるのかな?


 え?魔王は全員別人なの?魔王って概念だったの……じゃあ昔の魔王はもういないのね、ちょっと寂しいわ。


 あ、そうそう今回の戦争では私の友人が活躍したんだよ、凄いでしょ?


 ……って、話が脱線したわね。


 えーとどこまで話したかしら……あぁそこね。


 それで溜まりに溜まった魔道具をどうにかして処分しようとしたんだけど、処分するのも大変で、ならば私が作った魔道具を必要な人に売れば良いんだと考えたのが、私の商売の始まりなの。


 まぁ後は変わらないわ、研究を一旦取りやめて魔道具を売り捌いて今に至るわ。


 え、適当ですって?しょうがないじゃない、最近は物忘れが激しいのだから、きっと単調な事をやり過ぎて、中身の無い記憶ばかりだから脳に定着しずらいのよ、多分。


 思ったより長話をしてしまったわね、そろそろ良い時間じゃないかしら?じゃあまた明日ね。

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