街から道具屋へ、1カ月の小旅行編
第16話 ~暇と新たな旅路~
「おめでとうございます!これで今日から貴方はこの許可証さえ提示すればどこででも商売ができるようになりました」
あの戦いから数日後、僕は商業組合でクエストの報告と証拠品の提出をして、ついに許可証を貰う事ができた。
これでやっと当初の目的である、魔道具の移動販売ができるようになった。
「ありがとうございます」
「やったねエヴィー!俺もなんか嬉しいよ」
さて、これからどうしようか……このまますぐにでも魔道具の移動販売を始めてみても良いけど、僕まだまだ弱いからな。
みんなみたいに経験も少ないし、判断も遅いからこの先やっていけるかちょっと心配なんだよね。
!
「どうしたんだいエヴィー、せっかく許可証を貰ったんだからもっと喜ぼうよ!」
商業組合から宿へ帰ってきた後、一階の共有スペースでアルテンさんとしゃっべっていると、ふとそう言われた。
「そうですね!ひとまずは一件落着だし息抜きしなきゃですよね……まぁ僕はあの時寝てただけだけど……」
「そーゆーのはあんまり気にしない方が良いと思うよ俺は」
アルテンさんはそう言ってくれるけどやっぱり一人で移動販売をしていくには――
「だってついて行く事にしたからね~」
「え?」
「?いやね移動販売にだよ」
「え?え?」
「君と少しだけだけど旅をしてみて思ったんだ、俺の人生には君みたいな人が必要だったんだよ」
予想外過ぎて少し頭が追い付かないけど、僕はアルテンさんをダメ元で移動販売に誘ってみようかと思っていたからそれもあって更に驚いてしまった。
「何々?告白~?」
いつの間にか宿のカウンターから僕達のいるテーブルに来たサンジュさんは、突拍子もないことを口走る。
「あ、サンジュさん……って違うよ、俺はただ思った事を言っただけさ」
「それを告白って言うんでしょう~私結構詳しんだよね~」
「本当に詳しいのかなそれ……で、俺もついて行って良いかな?」
「も、もちろん!いきなりそんなこと言うからびっくりしましたよ!」
「そう?俺は途中からこれからもエヴィーと一緒に旅するんだなって薄々感じてたぐらいなんだけどな」
「ヒューヒュー」
「ちょ、サンジュさんやめてくださいよ」
サンジュさんの乱入で少しおかしな雰囲気になったけど、最終的にはアルテンさんが移動販売についてくることになった。
アルテンさんはいつも裏で色々やっているっぽいけど、それは良いのかと聞いたら「移動販売をしながらでもできるし、各地に移動してればいろんな情報も手に入るから」と言っていた。
これで戦力の問題は大丈夫だとは思うんだけど、やっぱり僕も強くならなきゃ。
!
「暇だね」
「暇ですね」
次の日、僕達は暇人になっていた。
「魔道具を売るにしても色々と決めることとかあるしですぐに始められない」
「あ、そういえばエヴィーちょっと前に同じようなことしてる人に、話を聞いてみたいって言ってたよね」
「あ~確かに言ったかもです」
「今から行ってみる?ちょっと遠いんだけどきっと楽しいよ」
「わかりました、それでその人ってどこにいるんでしょうか」
「この街から一カ月くらい歩いたら森の中に変な名前の魔法具店があるんだ、そこに行ってみようよ」
「一か月くらいって、それってちょっと遠いって言いませんよ……かなり遠いです」
「まぁでも暇だし」
「それもそうですね、じゃあ支度しましょう」
どうやらそのお店の店主は移動販売はしてはいるものの、通常の移動販売とは違いお店ごと移動してやっているらしい。
移動周期は300年ほどで、今は森の中で販売活動をしているとのこと、長寿種族の人かと思ったけどどうやら店主は人間で、アルテンさんがいつ頃から生きているか聞いたら秘密と言われたらしい。
だけど、その人はある日自分語りをさせてと言って「私は職業柄色々な国へ旅をして、そこで商売をして暮らしていたわ。今は違うけれど、昔は私が移動するのは私の意思では無かったの。移動するのはいつも国が滅んだ時、あの時ほど切ない気持ちになる事は……たぶん無いわ。大抵は人同士の戦争で滅ぶ、ただ一度だけ平和に滅んだ国もあったけど、ほとんどはそう……私はその度に人間とは何て愚かなのだろうって思ったりするけど、私も同種……ただ長く生きただけ……ただそれだけの人間なのよね」と話した。
それを聞いてアルテンさんは、途方もない時間を過ごしてきた人なんだなと、ただそれだけ思ったらしい。
もっと他に感想はあると思うけど、確かに想像が難しい事というか、規模が大きすぎる話はそこまで驚けない、感想が出てこないって気持ちは僕も分かる。
そんな人にこれから会えるってのは、凄く壮大で素晴らしいことだと思いながら僕は旅の支度を終えた。
「今回の旅は何も無いと良いですね」
「まぁそうだね、たまにはのどかな草原や森の中を、ゆったりと話でもしながら旅をしたいねぇ」
「それじゃあサンジュさん、行ってきます」
「行っておいでね~私も昔はあの店主さんのお店に世話になったから~よろしく言っておいてね~」
「よし、ペッツ久々の旅だぞ」
ペッツも心なしかいつもより元気そうだし、やっぱりいつまでも鎖に繋いでおくのも良くないな。
「出発!」
アルテンさんの掛け声で僕は馬車を走らせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます