第13話 ~森の病~
おかしい、あそこから随分と走ったのに森から出られない、もしかして森に入る時に飲んだ薬草の効果が切れてきているのか?あの薬草は一日は余裕に効果が持つはずなのに、マズい…きっとあのエルフの老人のせいだな、それに入り口で飲んだので最後だったから備蓄が無い。
あの薬草の生えている北の国の人々は警戒心が強くて、薬草を出し渋る事が多い、そのせいか解惑の薬草は、その生産量からは想像もできないくらいに輸出や貿易の数が少ないと読んだことがある。
薬草の効果が切れてしまうということは、死亡率は30%から90%に跳ね上がってしまう、いつもなら必需品は2~3個多く持っていくけど、今回は監督が付いているというのを聞いて安心してしまった。
ビステルさんなら備蓄があるだろうが、せっかく逃がしてくれたのにあそこに戻るわけにはいかない。
だけど、幻惑の効果で出られなくなっているというのなら、森の脱出を目指すよりもビステルさんの援護に行った方が賢明なのではないか?
「エヴィー」
え…アルテンさん?いや、これは幻聴だ…声は似てるがこれはアルテンさんじゃない!
「エヴィーエヴィー」
無視しよう、そうしないと…気を抜くと返事をしてしまって、きっともう戻れなくなってしまう。
「エヴィーエヴィーエヴィーエビーエビエ…」
声が聞こえなくなった…僕の存在に気付いてないのか?とりあえずやり過ごしたと思うけど、頭がクラクラしてまともに思考ができない。
早く出ないと森か…ら出ないと。
「ペッツ元気にしてるかな、最近かまってやれてないな」
「宿に帰って研究したい」
「今日のご飯は何にしようかな」
なんだ、周りから僕の声が聞こえて来る…思ったより…侵食進むのが早い。
「眠い…疲れた……もう寝てしまおうかな」
「そこの木で寝転がったら気持ちよさそうだ」
「おやすみ、僕」
!
「ほっほ、意外とやるのぉ…しかし片腕で何ができると申す?」
「丁度ハンデが欲しかった…ご老体に二本腕は脳の処理がっ、追い付かなそうだったからね……」
「ハッ!ガキがイキがるのもそこらにしておくのじゃな、やせ我慢も見え見えじゃぞ?それにまだわしに辿り着いてもいない、脳の処理が追い付いていないのはそっちの方じゃぞ」
戦闘を始めてから5分程度が経った頃、ビステルは左腕を、森の奥から無限に出て来るオーク達に千切られ、顔を歪めながら老人を睨む。
対して老人はまだ傷一つ付けられてはおらず、白いローブには返り血一つも付いていない、オークの補充はまだまだ十分のようで、空中に浮きながら嘴のマスクの下で余裕の表情を見せている。
「そういえばあのチビは今頃森で倒れているじゃろうな、ちなみにわしの役者はオークやゴブリンだけじゃないぞ?チビの所にはディシーブ化させたハウンドドッグを向かわせた、きっと幻覚幻聴の中じゃあそれが幻覚幻聴なのかすら気付かずに嚙み殺されるじゃろうな」
最近の森の活動具合を見て、そろそろ何か異変が起きるのではないかと思っていたんだが、流石にこの規模は想定していなかったな……エヴィーさんは無事だろうか、いや今はそんな事考えている暇は無い。
予め対策を立てておいて良かった…そろそろ森に入って2時間は経つ、大抵の場合このクエストは1時間程度で終わる、だがたまにトラブルとかが発生して1時間を過ぎてしまう、その対策としてトラブルを見越して街にいるランクの高い冒険者を派遣する決まりとなっている。
今回募集したトラブル解決係はあのアルテンさんだ、あの人ならきっとこの老人も倒してエヴィーさんも救ってくれるはずだ。
「うむ、その時間稼ぎのような立ち回り何か考えがあるのじゃろ、しかし無駄じゃよ…森の周りには既に大量のオークが配備されておる、もしあれらを倒したとしても、ガキ2人を救い出す時間なんぞないぞ」
「分かっていなそうですね、長寿とてその程度の情報網ですか…ガッカリです」
「よくしゃべるガキじゃな…やはり死の間際で余計な考えが脳をフル回転しているようじゃの、そろそろ終演の時間じゃな、随分と楽しませてくれたのぉ…褒美に盛大に殺してやろうかの」
老人はこの一連の演劇を終わらすように、名残惜しそうに上げた手を下すと、控えのオーク達が一斉にビステルの所へと走り出した――その瞬間、一筋の光が老人のマスクへと直撃、マスクが壊れて皺が刻み込まれたその顔が現れる。
「何じゃ!?他に仲間がいたのか?オークよわしを守るのじゃ!」
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