第12話 ~森のエルフ~

 濃い霧の中から完全に姿を現した魔物は目的のCランクで、ディシーブオークと言う。


 これもまた脳を完全にやられてしまっていて、ゴブリンと同様に筋力が強化されている。


 厄介なのが、ゴブリンとは違い自分の倍増した筋力に身体が適応しており、自壊による討伐は望めないという点である。


 既にこちらに気付いており、奥で細切れにされて地面に伏しているゴブリンをみて、少し動きを止めた後に僕達の方を向き直し、身体の奥底からビリビリと響くような咆哮を空に放った後に、こちらに走り出した。


「来ました、エヴィーさん構えてください」


 増えた筋肉のせいで若干通常のオークよりかは遅いが、その圧力は遠くからもよくわかるほど強烈な存在感を放っている。


 体長は3メートルほどでリーチも長く、体格も筋骨隆々でこの魔物を知らない人はオークの上位種として定められているオーガと見間違えることだろう。


 オークとの距離は大体15メートルで、もうすぐ僕達のいる場所に突進を仕掛けてくると予想して、少し引きながら火の魔種製の弾をオークに撃ち込み、表皮が燃えているが止まらない。


 そして僕の目の前まで近付いたオークは、そこに腕で薙ぎ払いを繰り出す。


 攻撃速度も低下しているようで、履いて来たソニックブーツのお陰で、軽々避けれた。


 薙ぎ払った位置にあった木などは、まるで小枝の様に吹き飛んでいった。


 一撃でも食らったらひとたまりも無いと、素人目でもわかるくらいに強烈な薙ぎ払い…アルテンさんと取引した武器が、近距離武器じゃなくて良かった。


 引き続きオークの表皮に弾を撃ち込んでいると、遂に限界が来たのか燃えながら地面に突っ伏して動かなくなった。


「やったか!?」


 どうやら完全に力尽きた様で、オークの身体はそのまま燃え尽きてしまった。


 今回は遠距離武器と、ソニックブーツによる距離を取った攻撃方法が上手くハマって、楽に討伐できた感じになった。


 やっぱり道具を使った戦い方が一番しっくりくるな…


「おめでとうございます、Cランクの魔物一体討伐達成です、では帰りましょう」


「あれ?討伐証明の部位とかは切り取らなくて良いんですか?」


「良いんですかって、エヴィーさんが燃やし尽くしてしまったじゃないですか」


「それもそうですが、何か証明になるものが欲しいのではないですか?」


「それはもうこちらで回収してあるので、心配しなくて大丈夫ですよ」


 そう言いながら肩に掛けたポシェットの中から、オークの指が詰め込まれた試験管を出して見せてくれた。


 いつの間に切り取ったのかわからなかったけど、証明になるものがあるなら安心だ。


「おっとエヴィーさん、この森は簡単に帰してくれそうに無いですよ、あっちを見てください」


「オーク…もう一体いたんですか」


 ビステルさんが指を指す方を見ると、またオークが一匹あらわれた。


「いや一体じゃないですね…1,2,3――6、いやどんどん集まってきている」


「これまずくないですか?」


 霧の奥からたくさんのオークが続々と僕達の所、いやオークの焼死体に集まっている。


「仲間の所に集まって来たんですか?」


「どうですかね、ディシーブ系統の魔物が統率や仲間意識を持つのは、聞いたことがないですが…」


 続々と集まって来るオークに対し警戒を強めていると、その集団の後ろに浮かぶ人が話しかけてきた。


「おやおや、オークなどの種は火に弱いとされているが、これほどまでとは…やはり鎧などを着せてあげるべきかのぉ?」


 白いローブに身を包み、鳥の嘴の様なマスクを付けたエルフは、右手に杖を持ち左手にディシーブランタンの実を持っており、目の前に降りてきた。


「どちら様ですか?今この森は貸し切っているはずですが、不法侵入者ですか?」


「ほっほっほ、面白いことを申すガキじゃのぉ…この森のこの植物はわしが作ったというのに不法侵入?あんたらはそれどころか不法占拠してしまってるじゃないか…ビステルさん」


 少ししゃがれた声でこの森の作成者を名乗るエルフは、ビステルさんを知っている様で、少し嫌そうな顔をして名前を呼んだ。


「!?どうして僕の名前を?」


「この森で貴方は有名人じゃからかの、度々森を貸し切って殺戮ショーをしているそうじゃないか」


「殺戮ショー?先ほど貴方はこの森のこの植物はわしが作ったと言いましたね?貴方のせいでこっちは迷惑しているんですよ、あとショーの配役を間違えていますよ…オークなどの種は繁殖力が高いので、すぐに増えてしまいますから…最近は毎日の様にソワレの役者として来てますよ」


「迷惑しているのはそっちの勝手じゃろ、わしが作った森の横に街を築いたのはそっちじゃろうに、配役の件に関してはこっちも悩んでるんじゃが…」


「ビステルさんあの人誰ですか?見たところエルフの様に感じますが」


「僕も知りませんよ、もっともお相手は僕の事を知っているようですがね、あれがこの森を作った張本人なら、エルフと言えどかなりの長寿ですね」


「コソコソ話すのは辞めてほしいのぉ…ご老体をほっぽって話されては、わしとて悲しくなるものじゃ」


「エヴィーさん街に行ってこの事を報告してください、ここは僕が引き受けます…長寿とは一度話してみたかったんですよ」


「それじゃビステルさんは?相手の出方も分からないこの状況で一人になったらまずいのでは?」


「大丈夫です…こういう状況には慣れています」


 ビステルさんはそういうけどやはり心配、だけど人には向き不向きがあると聞く、自分は今ソニックブーツを履いていて、ここから全力疾走すればすぐに報告することはできる。


 ここはビステルさんに任せて自分に出来る事をやる事にした僕は、全速力で街に走り出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る