第11話 ~クエスト開始~

「薬草を服用しましたね?では、クエスト開始です!」


 商業組合で受けたクエストを消化する為に、組合から当てがって貰った、眼鏡を掛けた赤髪の青年「ビステル」を監視員に、僕は街の南の門から出てから、数キロ先に位置する、迷霧めいむの森にやって来た。


「それにしても、その武器大きいですねぇ!」


「大きいですけどかなり軽いですよ」


「ふぅむ、重力魔法とか使ってるんですかね?」


「まぁそんなところです、やっぱ意外と使われてる技術なんですね」


「まぁ重力魔法ってそんなイメージですからね、重くするか軽くするかですよ!」


 クエストの内容はCランクの魔物一体の討伐で、丁度この迷霧の森の平均ランクがCランクなので、この森がクエストフィールドとして最適と組合が判断したので、大抵の場合はここで行われる流れとなっている。


 例外としては、魔力に耐性の無い身体の持ち主や薬草にアレルギーがある人は、この森以外での討伐が認可される手筈となっているが、現代に生きる生き物の全般は、魔力や薬草に対して耐性があるので、これはかなり稀だ。


 薬草アレルギーは、1億人に1人の確率で存在するので、これが原因で別の場所へと移動になる事が多い。


 ちなみにこの世界の全人口は、確認されている範囲で言うと、大体50億人程度である。


 過去に魔力に耐性が無いという珍しい理由で、一名だけ例外が適応された人物が存在する、それはエルフの原種個体の、フィルバーというエルフである。


 彼はエルフの身でありながらも、魔力に耐性が無く、魔法などが使えない身体の為か、商業の道へと歩みを進めたと本人が言っていた。


「しかし大丈夫なんですか?この森は何かと怖い文献ばかりあったのですが」


「あぁ、この森に向かう前に色々と調べられたんですね」


「はい、この薬草の対策をした程度でランクが下がるとは思えないのですが……」


解惑げわくの薬草は、神秘の森という北の国が所有する森の木から取れるモノで、その効果は薬草の専門家のお墨付きです!この薬草を導入してからは、死亡率が90%から30%まで下がったんですよ」


「それでもかなり死亡率高くないですか?」


「そりゃあ魔物が出ますからね、それもCランクです…Bランクの冒険者でも油断すると死んでしまいますので、死亡率は高いです!」


「話は変わりますが、やっぱり幻惑の危険度って高いですか?」


「そうですね、幻惑の効果としては、本人の嫌がる幻覚や幻聴などを見せる、更に長時間吸い込むと脳にまで影響してきて、何かに触られる感覚や痛みが発生します、痛みは例えるなら錆びた刃物などで切り刻まれる感覚に近いと言われてるんですよ!」


「うぅ、聞いただけでゾッとします……ちなみに誰がその痛みを報告したんですか?」


「それを聞くとはわかってますねぇ……実は僕の推しであるエルンヒルデさんという不死族の長が、この森に調査しに行ったんですよ!彼女は痛覚に対してとても関心がありまして、痛みに対しては凄く積極的なんですよ、そして彼女が書く痛み日記というのが凄くて、これは近所の書店に売ってると思うんで――」


「ビステルさん、静かに…魔物が出ました」


「おぉ、あれはディシーブゴブリンですね、この森の環境に適応したゴブリンです、知ってますか?体表に染み込んだ幻惑作用の液体のせいで、あのゴブリンは紫色になっているんですよ!」


「ちょっと気付かれますよ!黙ってて下さい!」


 そういえば商業組合から言われたっけ、監視員不足のせいで急遽代役を用意したので、少し難のある監視員が派遣されるかもしれませんって!


「ははっ、もう手遅れの様です」


 ビステルさんがそう言うと、喋り声に気付いたゴブリンがもうすぐそこにいた。


 少し息の漏れる音がしたその瞬間、棍棒が僕達二人の間に振り下ろされた。


 それを後ろ跳びで回避した僕達は互いに武器を構える。


「やっぱりすごいですね!威力!エヴィーさん!知ってますか?あのゴブリン、幻惑作用に脳が侵されたせいで、筋力が通常のゴブリンの3倍くらいあるんですよ!でも自身の筋力に耐えきれなくて、腕が壊れてしまうことがあるんです!」


「そんなこと言ってる場合じゃ」


「まぁこれは低ランクの魔物なので、クエストに関係ありません、ですから僕が代わりに殺しておきます、エヴィーさんはあの奥にいるCランクの魔物に集中してください」


 ビステルさんが指を指す方向を見ると、濃い霧の奥から少し大型の魔物の人影が近付いているのがわかった。


「じゃあ、本格的にクエスト開始ですね頑張って」


 いつの間にか隣にいたビステルさんを見ると、服の至る所にゴブリンの返り血が付いていて、さっきよりかは落ち着いたようで、スンとした表情でクエスト開始の合図を出した。

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