第3話 ~ある日森の中熊さんに出会った~

「くっ…放せ!」


 僕はパワーハンドでレッドベアーを引き剥がそうとするが、重くて動かせない。


 ソニックブーツも馬乗りにされたら当然使えない、こうして思考している間も死の脅威が迫ってきているが、どうしようもない。


 幸い奴は獲物を前に余計な遊びをするタイプなのだろう、僕をすぐに殺そうとはしていない。


 一応衣服の下にはエアロシープの羊毛で縫われた肌着を来ているのだが、顔を狙われちゃ意味が無い、そして馬乗り状態は一番ダメな例だ。


 どういう心情なのかは図り切れないが、奴はやっと僕を殺そうと、鋼鉄でできたプレートアーマーすらまるで薄紙の様に切り裂いてしまう、鋭い爪を披露し僕に向かって振り下ろした。


 直後何かがレッドベアーに突進して来た様で、僕の身体の上から離れた。


 その隙に立ち上がり、何かを見る。


「ペッツ?助けに来てくれたのか!」


 そこには荷馬車に繋いであったペッツの姿があった、どうやら着けていたロープを嚙み千切って僕を助けに来たようだ。


 僕を見てペッツは自慢げに鼻を鳴らす、しかし現状は変わらない、実際僕の死が少し伸びただけである。


 再度覚悟を決めて、拳を構える――刹那…乾いた破裂音と共に、レッドベアーの頭に何かが突き刺さり、血をドロッと流し倒れた。


「いや~危なかったねぇ、もう少しで君死んでたよ?」


 僕の事を助けてくれたであろう人は、木の上から飛び降りてきた。


「ありがとうございます、お陰で助かりました」


「いいよいいよ、それにお礼だったらこの子にしてあげな、この子が知らせてくれなかったら、今頃君はアイツの腹の中さ」


「この子?あぁペッツの事ですか、もちろんコイツには後で、隣街に着いた時にたっぷりおやつをあげますよ」


「それは良かったねぇ……あっ俺はアルテンだよろしく」


「僕は、エヴィーです」


「良い名前だね、いや~俺任務とかのせいで1人でいることとか多いからさ、つい名乗るの忘れちゃうんだよ、にいに良く注意されてるんだけどね」


「任務ですか?」


「そ、今日この林にいたのはそれがあったからかな」


「何の任務何ですか?」


「あ~一般人には教えられないけど、もう関わっちゃってるしな、話しちゃお」


 アルテンは魔法で2つの土の椅子を地面から引き出すと、僕とアルテンはそこに腰掛けた。


「今日の朝俺宛に冒険者協会から手紙が届いたんだよ、それを見てみると、近くの林にいるはずのない魔物がいるから、討伐してきてくれって内容で、精巧なクマのスケッチと一緒に同封されてた、そして察しの通りその討伐対象が、君を襲ったレッドベアーだったってわけさ、コイツはね逃避個体と言って、何か大きな脅威から逃げて来た魔物なんだ、それは通常個体よりも警戒心が強く、突然現れた脅威にパニックを起こしてて、見境無く視界に入った魔物などを、襲って殺しちまう恐ろしい個体って言われてる、ぶっちゃけそういう個体は、やりにくい相手だから嫌いなんだけど、君を狩るのに集中してたのか、あっさりと俺の銃で撃ち抜かれてくれた、いや~本当に助かったよ」


「助けられたのは僕の方ですよ、それにしてもその長い棒の様な道具は何ですか?銃って言ってましたけど」


「あぁ、これは俺の故郷の国が開発した武器で、この引き金を引くと特殊な火薬に撃鉄?が下りて着火、その爆発で魔種が飛び出して相手に当たる、みたいな武器だ、俺もよく分ってねぇけど最低限分かる様に説明できる知識はあるぜ」


「なるほど、隣町に着いたら詳しく見させてください」


「分かったよ、でも暗くなってきたから隣町へは明日だな」


「確かに、いくら見晴らしの良い林でも光が無ければ進めませんね」


 どうやらレッドベアーに襲われたせいで、魔計を見るとその針は午後5時を指していた。


 時間的に隣町に辿り着くのは難しいと判断した僕らは、この湖の傍で野宿をする事に決めた。

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