第2話 ~まだまだ旅は続きそうです~
「ん?ハウンドドッグじゃないか、酷い怪我だ」
あの小川からかなり遠い所まで順調に走らせていると、道端に手負いのハウンドドッグが倒れていた。
「誰にやられたんだ?この傷…モンスターからだな」
ハウンドドッグはもう虫の息だったので、介錯してやると息絶えた。
このまま放置するともったいないし、何らかの害が発生する可能性があるので、隣街の冒険者協会で換金してもらう事にした。
ハウンドドッグの血を抜き、荷馬車に乗せ再度隣街に向かって走らせた。
この辺りを主な管轄にしている冒険者協会は、普通の動物なら換金してくれないが、魔物などは喜んで換金してくれる、本人の希望が無ければ素材達は、魔物肉専門店や防具店などに肉と皮が売られ、魔石などは大抵魔道具店や、魔石を触媒にして魔物を生み出す、魔物使いなどに売られる。
僕の場合、皮は色々荷馬車などの補強に使えるし、魔石は魔道具には必須なので、これら以外は換金してしまっている。
「ここら辺にコイツに傷を負わせた魔物がいるかもしれないな…」
ハウンドドッグは決して弱くは無いのだが、特に争った形跡は無いのを見ると、背後から隙を突かれたと考えるのが普通ではあるのだが、この林にハウンドドッグの背後を取れる程強い魔物はいないはずだ。
「一応荷馬車の周りにバリアを展開しておくか」
今使った魔道具は、プロテクトボックスという物であり、箱に付いているダイヤルを回すことで、最大半径40mまで守ってくれる、この魔道具は触媒を中に入れることで発動するのだが、その触媒が西の山脈に生息する、プロテクションドラゴンという魔物の鱗で、少し高価な物だが命には代えられない。
!
荷馬車に揺られる事30分バリアに何かが突進してきた、バリアの表面が波打ち、すぐに割れはしないがそれは時間の問題であった。
「なんだ?」
僕が後ろを振り向くと、そこにはすごい勢いでバリアを叩くレッドベアーがいた。
「レッドベアーがなぜここに?」
本来はここから北の方にある、もう少し寒い地域に生息するレッドベアーが、ここに出現するのは基本的にあり得ない事だから、完全に不意を突かれた。
「なるほどコイツに傷を付けたのはお前か!」
基本的にレッドベアーは自分が狩った獲物などに執着する傾向があり、その時の追跡力はトラッカー種と同じぐらいかそれ以上、きっとコイツのニオイを追って来たんだ。
「このバリアが割られる前にどうにかしないと」
ここまで接近されてしまえば、馬単体なら振り切れるが、荷馬車を引きながらでは引き離すのは無理だ。
かといってここに魔道具を置いて行くわけにもいかないしな。
「しょうがない、僕がやるしかないな」
ソニックブーツは履いてるし、パワーハンドの魔力残量も何とかなりそうだな。
ソニックブーツとは、北の大地に生息している馬の魔物の革を使ったブーツであり、ある革職人が生み出した特殊な製法により、魔物の特性を物に与える事ができる、それを使って作られた物なので、履くと疲れにくくなったり足が速くなったりする。
パワーハンドも同じ製法で作られ、南にある森に生息するオークの革を使って作られている、これを手に付けると自分の体重の3倍ほどの重量の物でも、持ち上げられるという装備品だ。
「ペッツ、しばらくここでじっとしといてくれよ」
僕はパワーハンドで強化した腕力でハウンドドッグを抱え、ソニックブーツで、レッドベアーより上回る速度を出しながら、バリアから飛び出した。
それに反応してレッドベアーが、こちらに向かって走ってきている。
「よし、掛かった」
僕は勝算が無い勝負には挑まない、地図によればここら辺には湖があるはずだ。
そこに行き、このフリージングボムでレッドベアーが入った所を凍らせば勝てる。
計算通り、僕が所有するソニックブーツのスピードなら、引き離せなくとも距離を保って逃げ続けられる、あとは湖を見つけるだけだ。
僕は道中レッドベアーを撒く様に走ってみたりと色々やっていたのだが、アイツはニオイだけを嗅ぎ分けて追ってきている様で上手く引き離せない、魔物が嫌うニオイを出す魔道具のニオイすら、嗅ぎ分けて来たのだからすさまじい。
そしてやっと湖を見つけたので、そこにハウンドドッグを投げ込んだ。
奴は一瞬迷ったのか、僕の方を向いた後即座にハウンドドッグに視線を戻し、湖に飛び込んだ。
すかさずフリージングボムを湖に投げ入れると、一帯が凍り付きレッドベアーもハウンドドッグを咥えながら凍っている。
「ふぅ、これで大丈――うお!?」
完全に凍らせたはずが、レッドベアーは氷を壊し、ハウンドドッグを僕の方に投げてきた、それを間一髪躱したが、既にレッドベアーはすぐ近くまで来ていた。
どうやら、湖に流れがあったせいで、表面の部分などしか凍らなかったようだ。
この距離で走り出しても簡単に追い付かれてしまい、レッドベアーの下敷きになってしまった。
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