魔道具移動販売始めました。

アスパラガッソ

第1話 ~移動販売始めました~

 僕は昔から魔力が少なかった、その反面弟は順調に魔力を伸ばして、10歳になる頃には村一番の魔術師と呼ばれるようになった。


 そんな事だから、両親は僕には強く当たり、出来損ないだと罵られる日々が続いた。


 それでも弟は僕に優しく接してくれて、今ではもうそれ以外考えられない魔道具使いへの道を進めてくれた。


 魔道具は魔力が少ない、あるいは無い人達でも使える物でで、魔力が少なく魔法もろくに使えない僕にとって、その存在はとても素晴らしい物だと感じられた。


 そんなこんなで、すっかり魔道具にのめり込んでしまった僕は、大嫌いだった村を16歳で飛び出し、隣街の道具屋で仕事をしながら、せっせと魔道具を集めては研究し、集めては研究を繰り返した。


 そして街の道具屋で働く事約5年、先日勤めていた道具屋が潰れた。


 初めは、道具屋に勤めていたノウハウを生かし、魔道具屋さんでも始めて見ようと思ったが、ここは辺境の街であり、外からやって来る冒険者はもうほとんどいない、そしてそれを原因にして道具屋は潰れたのだ。


 なので、この街ではもう魔道具を買ってくれる人もいないだろうと思い、元々いろんな地方にある魔道具を旅しながら研究するのが夢だったので、もう不要になった魔道具を売る移動販売を兼ねて、少し旅をしてみようと考えた。


 思い立ったが吉日と言うので、早速街の馬車を売っている場所で馬車と周辺の地図をなけなしの金で購入、それに僕が研究してきた魔道具に関する資料や説明書、魔道具を詰め込み、数年過ごした街を懐かしみながら、移動販売の旅を始めた。


 !


「うーん、やっぱり自然は良いなぁ……道具屋で働いてた時はずっと籠り気味だったからな」


 街から少し離れた場所にある林へ繋がる道を、真っ直ぐ行った所に位置する剣山の林は、針葉樹がまばらに生えている林である、物騒な名前の理由は、針葉樹の鋭い姿を剣山に見立てた商人が名付けたとされている。


 林は密集して無く、比較的風が通って涼しい、見通しも良いので魔物などがすぐに発見できるのもいい点だ。


 この林には、FランクからDランクの魔物までしかいないので安全だが、その中でもDランクの魔物であるハウンドドッグが厄介で、数匹で群れを成し襲う習性を持っていて、油断すると囲まれ、過去にはこの街へ訪れようとした商人が被害を負ってしまう事件があった。


 僕は対策に、魔物全般が嫌がるニオイを出す魔道具を荷馬車に取り付けているが、たまにそのニオイが効かないのもいるので、ファイアロッドを常に腰に装備している。


 ファイアロッドはその名の通り、魔力樹と呼ばれる特殊な樹木の枝を杖にし、先端に火の魔石を埋め込んだ物で、魔力が少ない僕でも少し込めるだけで、ファイアーボールが先端から放たれる優れものである、威力もそこそこで冒険者なら誰でも最低一本は携帯をするようにと、冒険者協会から義務付けられている。


 色々な属性のロッドが存在するが、基本的にはファイアロッドが使われている。


 剣山の林に入ってから数キロ地点で、曲道を地図と睨めっこしながら進むのに疲れた僕は、近くの小川で休憩する事にした。


「なぁペッツ、これ今日中に隣街まで行ける気がしないんだが」


 馬のペッツに話しかけても、言葉が通じるはずもなく、呑気に草を食べている。


 隣町までは今日中に着く予定と地図には記されているが、旅初心者の僕がこの曲がりくねった道を攻略するのは難しく右往左往してしまっている、このまま辿り着けるとは到底思えない状況にため息が出る。


「はぁ、こんな事なら街にいる行商人に頼んで、後ろを追いかける様にして連れて行って貰えばよかったな」


 休憩している間も、夕暮れは刻一刻と迫って来ている。


「やばいな、魔計が午後3時をお知らせしてるぞ」


 魔計はもっともポピュラーな魔道具で、天体から発せられる魔力を感じ取る事によって、その時の時刻を知らせてくれるというものだ。


 万物には魔力が宿る、それはもちろん空に浮いている天体も同じで、初めにこの星に降り立った大賢者が、不思議な力で強力な魔力を緩和させる膜を作り、それを通して大地に降り注いだお陰で、我々は魔力に適応し使えていると、遠い昔村の教会で習ったが、僕にはあまり関係の無い話だった。


 僕の様に魔力が生まれつき弱い者は、不適合者と呼ばれ、前世に大罪を犯したせいでこの世に祝福されていないとされて、不適合者狩りというのがあったが、それは大昔の話で、今は不適合者にも不適合者の生き方があるとして、そのような野蛮な行いは無くなって行ったのだ。


 3時か、もうすぐ夕方じゃないか…移動販売の旅を正午始めたのが失敗だったな、思い立ったが吉日でもせめて明日まで待てばよかった。


「そうだな、そうこうしてる場合じゃない!もう十分休憩は取れただろう?出発だペッツ!」


 川沿いに放していたペッツを馬車に繋いで、僕は隣町へと馬車を進めた。

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