第12話 同棲のお誘い
「ねえ、お二人さん……?」
いつの間にか里香さんは戻ってきていたようで、俺とかれんさんの距離が近いことに違和感を感じている。
俺は慌ててかれんさんから距離をとる。
だが、かれんさんは再び俺との距離を詰めてくる。
「ちょ……っ!」
「ええ~、いいじゃんっ」
それを見ていた里香さんが俺たち二人を指差しながら言う。
「仲良くなるのはいいんだけど、二人とも距離が近すぎるよ!」
ここでようやくかれんさんが俺から少しだけ距離をとった。
それでも、近いことに変わりないのだが。
かれんさんが俺から距離をとったのを確認した里香さんは部屋の中央に配置されている小さめの机の上に取りに行っていたものだと思われる色々な種類のお菓子とジュースを置いた。
「ありがとうございます!」
「ありがと~」
俺とかれんさんは里香さんにお礼を言った。
「せっかく来てくれたんだから、これくらいは用意しないとね。遠慮しないで二人とも食べていいからね」
里香さんの用意してくれたお菓子を食べながら話す。
「そういえば、里香さん俺の個人配信も見ててくれたんですね。かれんさんは何故かずっとコメント欄にいましたけど」
かれんさんと初めて会った日に行った個人配信についての話をする。
二人ともその配信を見てくれていたらしいので俺はかなり嬉しかった。
「そうだね。私はコメントこそしなかったけど、ずっと見てたよ。まさか、かれんに会ってるとは思ってなかったけどね」
「あははっ、あれは本当に偶然だったけどね! もしかしたら、本当に私と悠太くんは運命の赤い糸で繋がってるのかも!」
「何言ってるのかれん!」
「冗談だよ~」
かれんさんは里香さんをからかいながら楽しそうにしていた。
この二人、同期ということもあって本当に仲が良さそうだ。この二人の絡みを見れている俺は世界一の幸せ者なのではないだろうか。
おっと、一瞬、VTuberファンとしての自分が出てきてしまった。
「あっ、そうだ! 今度、三人でコラボしない?」
突然、かれんさんがコラボの提案をしてきた。
俺としてはむしろお願いしたいくらいの提案だったので、即決でその提案を受けることにした。
「二人がいいんだったら、俺はコラボしたいです!」
「さすが悠太くんっ! 里香ちゃんは~?」
かれんさんは里香さんにも聞くと、里香さんは「もちろんっ!」と、ぱあっと花が咲いたかのような笑顔で答えていた。
そんな笑顔を見ると、俺は三人でのコラボを必ず成功させよう、と心の中で誓った。
俺たちはその後も談笑を続けた。
「あ、里香ちゃん、お手洗い借りてもいい?」
「うん、いいよ。場所は分かるよね?」
「うん、ありがと」
談笑を始めてから約1時間が経ち、かれんさんがお手洗いに行ったこともあり、今この部屋は俺と里香さんの二人だけの状態になった。
二人きりだから緊張するかと思ったのだが、さすがに1時間も話していたからか緊張はほとんど感じなくなっていた。
そんなことを考えながら里香さんのほうを見てみると、俺になにかを言いたそうにもじもじしている。
俺に何を言いたいのだろうか。
俺は直接聞いてみることにした。
「里香さん、俺に何か言いたいことがあるんですか?」
「えっ、うん」
「かれんさんがいないと言えない感じの話ですか?」
「いや、そういうわけじゃないよ。一応、かれんにはもう伝えてて、あとは悠太くんに話すだけなんだけど、なんか緊張しちゃって言い出せなかったの」
緊張するような話?
なんだろう。
かれんさんにはもう伝えているのか。
もしかして、かれんさんは里香さんが言い出すタイミングを作るためにお手洗いに言ったのでは?
そんな考えが浮かんでしまった。
「そうだったんですね。今は、言えそうですか?」
「まだ少し緊張するけど、言える……と思う」
里香さんは顔を赤くして明らかに緊張しているようだったが、俺は何も言わずに里香さんから話し始めるのを待った。
里香さんは一度、深呼吸をしてから俺を見つめる。
どうやら、話す決心がついたようだ。
里香さんは俺から目をそらさずに話し始める。
「あのね、悠太くん」
「はい」
「私ね、この家を出ることにしたんだけど……」
「……は、はい」
里香さんがこの家を出る。
つまり、一人暮らしを始めるということだろうか。いや、だとしたらどうしてそれを俺に伝えるのに緊張するんだ?
俺は困惑したが、里香さんは話を続ける。
「それで、悠太くんに聞きたいことがあるの」
「はい、なんでしょう」
「私と一緒に暮らさない?」
俺は一瞬、脳の思考が停止した。
俺の聞き間違いか?
一緒に暮らす?
俺が?
里香さんと?
待て待て、理解が追いつかない。
え、同棲ってこと?
付き合ってはないから同居か?
いや、そんなことはどうだっていいんだ!
どうして、俺と一緒に暮らすという考えがそもそも出てきたんだ!?
かれんさんには伝えたって言ってから、止められなかったってことなのか?!
「里香さん、本気ですか?」
「うん、本気」
「でも、それってリスクが大きくないですか? 俺はいいんですけど、里香さんはまた炎上しちゃいませんか?」
「たしかに何かと言ってくる人は出てくるかもしれない。でも、続けていけばきっと視聴者の男女比率が男性5割、女性5割に近づくとおもうの。私、SNSで視聴者の反応とか見たりするんだけど、私の女性視聴者って、意外に男女の組み合わせを好んでいる人が多いみたいなの」
「なるほど。でも、本当にいいんですか?」
「私は問題ないと思う! もし、また炎上してしまっても前のように落ち込んだりはしないようにする」
どうして、こんなリスクを負ってまで一緒に暮らしたがるのだろう。
もちろん、俺としてはこの提案は嬉しい。推しから一緒に暮らそうと言われたんだ。嬉しくないわけがない。
だが、何か引っかかる。
リスクがあまりに大きすぎる。
「なんでそこまでして、俺と暮らしたいんですか?」
「えーっと、それは……」
里香さんの反応的にやはり他の理由がありそうだ。
「それは?」
「……悠太くんのことを好きになってる自分がいるから」
里香さんは顔を赤らめながら俺から目をそらした。
炎上中の推しVTuberを救ったら、なぜか同棲することになりました 夜兎ましろ @rei_kimura
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。炎上中の推しVTuberを救ったら、なぜか同棲することになりましたの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます