第11話 集まった三人

 土曜日。


 俺は、里香さんの家に向かっていた。

 三人で集まろうということになっていたのだが、やっぱり休日の方がみんな楽だよね、ということになり今日、集まることになったのだ。


 三人で会うのは初めてなので、内心ではかなり緊張している。

 そんなことを考えながら歩いていると、背後から声が聞こえてくる。


「おーい」


 後ろを振り返ると、そこには満面の笑みで手を振りながら走ってくる夜凪ルナの姿があった。


「あ、ルナさん」

「やあ、葵くん! 今日は楽しみだね!」


 この人は本当に元気だな。

 というか、配信上でも夜凪ルナは元気なキャラなので、恐らく素の状態からこのように元気なのだろう。俺としても近くにこういう人がいると元気が出てくるから助かる。


 あ、でも、お互い外でVTuberの名前で呼び合うのは身バレに繋がるかもしれないからできればやめた方が良いよな。とはいえ、俺は夜凪ルナの本名を知らない。


「前に会ったときに言うべきだったと思うんですけど、VTuberとしての名前で呼び合うのはまずくないですか?」

「あっ、たしかに! じゃあ、改めてお互いに自己紹介しよっか!」

「はい、そうですね」


 俺たちは足を止め、互いに自己紹介をすることになった。


「まずは私からするね。私は、水橋かれん!」


 水橋みずはしかれん、か。

 とても可愛らしい良い名前だなぁ。


「俺は、西園悠太です」

「悠太くんね、改めてよろしくっ! 私のことはかれんって呼んでいいからね!」

「はい、わかりました。かれんさん」

「むぅ、さんはつけないでいいのに」

「流石に知り合ったばかりですから」

「それもそうだね。そのうち普通に呼び捨てで呼んでくれることを期待しておくよ」

「がんばりますね」


 お互いを名前を知れたところで俺たちは再び歩き始めた。


 ♢


「着いたねっ」

「そうですね。インターホン鳴らしますね」

「オッケー」


 里香さんの家に着いた俺は、インターホンを鳴らす。


 すると、ドアの前で待っていたのかと思うくらいの速度で里香さんがドアを開けた。

 もしかすると、本当にドアの前で俺たちが来るのをずっと待っていたんじゃないだろうか。


「さあ、二人とも入って~」


 俺とかれんさんは家の中に入り、里香さんの部屋まで連れられた。

 今日は三人で会うということ以外に何も決めていないので俺は何をするのかを知らない。


 あ、というか、涼はいないのだろうか。


「里香さん、涼は今いない感じですか?」

「うん、そうだよ。涼なら今日は用事があるってどっかに行ったよ」

「そうなんですね」


 涼は今日、用事なのか。

 つまり、俺は今日、男一人でずっとこの空間にいることになるのか。

 俺の心臓はもってくれるだろうか。


「今日はやっぱり三人で色々お喋りしたいなあって思ったから誘ったんだけど、大丈夫だったかな?」


 里香さんは俺とかれんさんを呼んだ理由を教えてくれた。

 三人で喋りたいから誘った、か。


 俺も里香さんとも、かれんさんとも仲良くなれたらいいなと思っていたので嬉しい誘いだ。


「私も悠太くんともっと仲良くなりたいなって思ってたから今日は仲を深めよーねっ?」

「はい、そうですね。俺も二人と仲良くなりたいと思ってました」


 今日は親睦会みたいなものになりそうだ。

 二人の配信上でのことなら結構知っていると思うが、普段の二人がどのような人なのかを俺はあまり分かっていないので、今日知ることができたらいいなと思っている。


「あ、二人ともちょっと待ってて」


 里香さんは何かを思い出したようで、駆け足で部屋を出て行った。

 何か持ってくるものを忘れたのだろうか。


 里香さんが部屋を出て行ったとなると、必然的にこの空間には俺とかれんさんの二人だけになってしまう。

 さすがにまだ緊張してしまう。


「もしかして、緊張してる?」

「まあ、してますね」

「じゃあ、里香ちゃんが来るまで少し先にお喋りしよっか」

「そうですね、そうしましょう」


 俺とかれんさんは里香さんが来るまでの間、先に二人で談笑しておくことになった。とは言っても何を話そうか。


「悠太くんはさ、どうしてVTuberになろうって思ったの?」


 俺が話題を模索していると、かれんさんが俺に聞きたいことを聞いてきた。

 たしかに、かれんさんは俺がVTuberになった理由を知らないのか。まあ、別に隠す必要もないし、言ってもいいか。


「実はきっかけは桃田ネルなんですよ」

「ええっ!? どういうこと???」

「実はVTuberになる前から桃田ネルのことを推してたんです。それで、俺もやってみたいなって思って、俺もVTuberになったんですよ」

「それは知らなかったし、ビックリしたなぁ」


 かれんさんは本当に驚いているようだった。

 まあ、こんな偶然普通起きないもんな。


 そんなことより、一つだけ気にになることがあるのだが、かれんさんと話していくうちにかれんさんと俺の距離が近くなっているのは気のせいだろうか。


「あの、かれんさん……?」

「ん? どうしたの?」

「いや、なんというか、近くないですか?」

「そうかなぁ。でも、いいじゃん。近いほうが仲良くなれるよっ」

「かれんさんが良いなら良いんですけど」


 たぶん、かれんさんはわざと俺に近寄ってきているのだろう。

 でも、まあ、嫌な気はまったくしないからいいか。


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