第66話 大海の覇者

 普通の船とは比べものにならない程の速度を出しながら海原を南下していく。途中でシーアルバの首都を通過した時は、他の漁船や貿易船を驚かせてしまった可能性がかなり高い。なんせ時速100Kmは出ている中で、みたこともないイカのような船が急に現れてしまったら驚かずにはいられないだろう。


 (ハクアはみんなに良いとこ見せようとして、張り切ってる。これは止められないね)


 処女航海もあってか、ハクアはかなり張り切っているようだ。周りの船なんて軽く突き放してしまう、おそらく世界で初めて魔法で動く船とも言えるかもしれない。かなり苦労してクラーケンを倒した甲斐があった。


 だが速さがある分快適とは程遠く、吹き荒ぶ風の中早くも目的地と思われるガリバリアル帝国領港湾都市ジャームを遠くから見る事が出来た。


 「ハクア、ありがとう。多分あれがジャームだと思う。ちょっと減速してゆっくり行こうか」


 「御意」


 ハクアが満足したのか、このままのスピードで突っ込むという事態は避けられゆっくりと港へと近づいて行くが、何やら様子がおかしい。

 港は遠くから見ても、家屋が所々破壊され瓦礫が辺り一面に広がっている、そして何より帝国では無い旗が立て掛けられているのを確認出来た。


 「あの旗って帝国のではないよね?」


 「帝国では無いかと思われます、恐らくロズライ連合国辺りではないかと」


 こちらの疑問に、エルジュが答えてくれるがまさかここまでロズライ連合国が攻めてきてるとは思わなかった。


 「うーん、ロズライ連合国とは敵対してないとは言え上陸するのはちょっと不味いかな?」


 「御心のままに」


 眷属達はあまり気にせずに、好きな様にして下さいという感じだがロズライ連合国とは言葉が通じない可能性も高く、あまり良くないかと考えていると急に港から五隻の軍船らしきものがこちらへと向かってくると、ドォーンと頭に響く様な音を立てながら大砲を次から次へと打ってくる。

 だが、眷属達は慌てなかった。予想してたとばかり連携しながら魔法で大砲の弾を撃ち落としたため問題は無かった。こんな芸当出来るのはウチ位しか無理そうだ。


 「やりますか?」


 「うーん、こっちをクラーケンと思ったかも知れないし、殺さずに無効化出来るならお願いしようかな?」


 「御意」


 そう言うと、ドレーク、ナギ、ヤエは飛び降りるとすぐに相手の船へと魔法を使いながら肉薄し、船内へと飛び移っていく。


 「主人よ、御希望あれば一瞬にしてあの船を海の藻屑とさせますが」


 「まだ相手が誰だか分からないからね、今の所はまだ様子見といこう」


 「…御意」


 (ハクアは、もっと良いところを見せたかって言ってるよ)


 確かにいきなり大砲を打って来たから、破壊してしまっても良いかもしれないがあまりにも情報が足りていない。それにあの船は聖樹国にとって利用価値がある、折角港を貰えたのに船が無いなんて価値がかなり下がってしまう。そのために出来れば鹵獲したいというのが心情だが、誰も船なんて操作した事がないためどうなるかまだ分からない。


 その間にもドレーク達は、一人ずつ船に乗り込み終え制圧を開始する。今までは魔物が相手だったため容赦なく倒せたのだが、人間が相手だと今の所極力殺したくはない。だがしかし気を取られている隙に、残り二つの軍船がこちらへ向け前進してくるではないか。


 「うーん、このまま乗り込まれても面倒だし、ハクアあの二隻破壊出来る?本当はやりたくないんだけど」


 「御意」


 やや嬉しそうな声色で返事をするハクアだが、どうやって破壊するのかを見ていると、恐ろしい事にこちらに来る二隻の周りの海から、槍の様な水が何千も出現すると軍船を串刺しにしたかと思うと粉々に砕け散ってしまい海へと沈んでいく。

 先程ハクアが言い放った海の藻屑の話は誇張でもなんでもないのが証明されてしまった。初めての戦闘だから気合いが入ったのかもしれないが、末恐ろしいものを感じてしまった。


 「いやあ…、さすが大海の覇者なだけはあるね」


 「これくらい容易い事です」


 (ハクアはかなり上機嫌、力を見せれたと喜んでるね)


 こちらは一瞬で終わってしまったが、ドレーク達も順調に戦力の無力化が出来ている様だ。だが、ロズライ連合国にしては敵対者は海賊じみた格好をしていた。もっと友好的に出来ればと思ったのだが、こうなっては仕方ない。

 それから20分もしないうちに、ドレーク達は戦力を無効化し捕虜も大量に確保したと連絡が入る。やはりこういう事は、ハクアよりドレークの方が使い勝手が良い。


 なんとか3隻の軍船を鹵獲し終え、これからどうするかと考えていると、急に都市の方から大きな爆発音がきこえてくるのであった。

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