第65話 仲間を求めて

  この剣呑な雰囲気の原因を世界樹であるポポから聞いてみると、どうやら眷属同士で言い争いをしているようで口喧嘩にまで発展しているようだ。今までの上級木人は皆人型であったため、今回みたいに人型以外の上級木人は初めてのため馴染めていないのだろうか?


 (ハクアはなかなかのじゃじゃ馬娘)


 ポポはハクアをそう評価するが、普通に挨拶した時は別にそうは感じなかった。派手な飛び出し方もあり、ハラハラする部分もあったのは確かだが。ただ、同じ眷属同士仲良くしてもらいたい。実はハクアのステータスをみた感じ眷属の中で一番強いと感じる。あの巨大なクラーケンを素体にした事もあり、それこそパラメーターだけで言えばドレークを越すほどに。急に現れた末っ子が一番強いだなんて事は、やはり眷属達にとって認められない事象なのだろうか。しかし、仲違いは戦いの時に困るため1つ提案をしてみる事にする。


 「ほらほら、みんな仲良くね?眷属の皆は繋がりあっているから分かり合えるはず─とは言っても、急には難しいか。それなら、ハクアの力を見せてもらおうかな?今まで船なんて乗った事無かったし、このまま帝国の港街にでも行って貰おうかな」


 「御意、海の事ならなんなりとお任せ下さい」


 (火に水を注いだ…)


 ポポがため息をこぼすが、いまいちよく分からない。しかし折角海を安全に踏破する手段を得たのだ、これを活用しなくては話にならない。それと前前から少し気になっていたのだが、帝国にて別離し取り残されたザルバローレ達のことだ。ドラゴンの姿を見てしまい、恐れ慄き逃げ出してしまったのだが、今の人型ならば逃げないだろうから再開しても大丈夫なはずだ。それにシーアルバの商人であるウラゼーからは、ロズライ連合国が帝国へと本格的な戦争をふっかけ、魔物の対処に後手を取っている帝国の領土を切り取っているらしい。

 魔物が蔓延るこの時世に戦争をするなんて考えられない。このまま、帝国が魔物とロズライ連合国に挟まれたまま手遅れになる前に加勢したい所だ。陸路だと魔物の関係もあり、10日以上はかかるため今回はハクアで何日でいけるか検証も兼ねる。本当は西大陸へと行ってみたかったのもあるが、道程も分からないため今度ウラゼーに頼んで、死の大海原を越え西大陸を案内してもらうのも悪くないかもしれない。


 「じゃあハクア、このまま南へ進めばシーアルバがあるんだけど、そのままそこは素通りしてその先の帝国の港町へ行ってくれる?」


 「御意、この力お見せしましょう」


 ハクアはかなりやる気の様で、船首を南へ向けるとグワンと船首がウィリーするかの様に30度程上がってしまう。恐らく水魔法を使ったのか、さらにそこから急加速を感じ、思わずよろめいてしまうが咄嗟に眷属達が受け止めてくれる。


 なるほど…確かにポポが言う様にじゃじゃ馬というのは間違いないらしい。ハクアの事をうまく制御出来ればと思うが、今の事で難しい事がよくわかるのであった。





◇◇◇





 フォレストドラゴンであるぺぺが帝国へと向かっている時、別離したザルバローレ達は一時的に帝国の傭兵として臨時的に参加していた。

 帝国は巨大な魔物にマガヤール要塞を陥落させられてからは、運が見放したかの様に領土を減らしていく。魔物の勢いが活気付くのと並行して、長年の宿敵であるロズライ連合国が本格的に侵攻を開始したのだ。

 そして残念ながら今の帝国には満足に、二正面作戦を行えるほどの余裕はなかった。しかもロズライ連合国は見たこともない海賊を雇ったようで、陸だけでなく海からも攻めて来たためとても戦力を割く余裕もなく、港町も占領され海を使う事が出来なくなるのであった。



 暁炎の夜明け団長であるザルバローレは、自分の不運を呪っていた。何故あの時逃げてしまったのか今でも悔やんでいた。聖樹国のトップを森の精霊と信じ込んでいたのが、まさかのドラゴンだったのだ。事前に教えてくれたのなら、まだ心に余裕を持たせることが出来たのだが、現実はそう上手くはいかない。


 そしてザルバローレは第七騎士団の傭兵として、元ガリバリアル帝国領港湾都市ジャームを奪還する作戦に参加する事になった。しかし、戦争や魔物との戦いで第七騎士団は人員を補充する事も出来ず半分以下の3000人程まで減る事になった。それとザルバローレ率いる兵隊は300人となる。

 奪還するには戦力がいささか心許ないが、帝国も現状ではこれが限度だと言える。


 「ザルバローレ、すまんなこちらの戦いに巻き込んでしまって」


 「いやいやサナリー様、こちらこそ身を置かせてもらってる分は働かないとバチが当たるってもんですよ。しかし第七騎士団もかなり数が減りましたね」


 「ロズライ連合国だけでも油断できないのに、魔物と海賊までついてくるせいで補充もままならんよ。港湾都市ジャームを取られたせいで、制海権は海賊達にとられ物資の輸入も制限されてかなり厳しい所だ。だからこそ、今回の反抗作戦は必ず成功させなければならない」


 「ええ、分かってます。必ず作戦を成功してさせましょうや」


 そして、次の日には英気をやしなった全軍で反抗作戦に転じるのであった。

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