第64話 閑話 とある眷属達の二面性

 新たな眷属ハクアが呼び出される少しだけ前に遡る。


 聖樹国にいるアーバレスを除く他の眷属達は、海原に浮かぶ巨大な蕾を見守っていた。かつてないほどに巨大化した蕾は一体どんな眷族が呼び出されるのか皆で楽しみに待っているのであった。


 (ドレーク兄様、クラーケンの戦闘では凄い活躍だったね。主人もお喜びになっていたし良かったんだけど、エルジュ兄様と私にヤエはあんまり良い所無かったからなあ)


 (重畳ちょうじょう、次頑張れば良い)


 ナギはドレークにフォローされるが、あまり戦闘面では目立った活躍がない為不満が溜まっている。帝国で巨大な魔物と戦闘した時も主人を庇うしか出来ず、倒す事が出来なかったばかりか再起不能となる始末。


 (まだ、ナギ姉は良いじゃないか。僕なんて聖樹国の内政ばっかで、戦闘なんてからっきしだしねー。本当は僕だって主人のお側にいたいのにさ、他の皆はこの辛さ分かる?)


 (確かにそう考えるとアーバレスが一番の貧乏くじを引いてるか。エルフ族はまだ良いとして、獣人たちの面倒もみたり他国のやり取りもしたりかなり大変な事ばかりだもんね)


 ナギはアーバレスが一番苦労していると理解すると少し胸のつかえがとれる。今回のクラーケン戦では、第一勲功をドレークが取り第二勲功がエルフの女王ラズーシャだった事もあり焦ってしまうのだった。


 (けど、ラズーシャもポポ様から拝受した世界樹の実であんなに強くなるなんて…。伊達に長生きはしてないって事か)


 (ほっほっほっ、ナギに新たなライバル出現ですかな?)


 (べ、別にそんなんじゃないけど…。そうだアーバレス、シーアルバはどうなった?マガラカ奪還は報告したんだよね)


 エルジュに気にしていた事を突かれたナギは話題を逸らし、アーバレスにシーアルバの事を聞いてしまう。


 (まあ、マガラカ自体は奪還出来たのは良かったんだけど、都市は大津波により壊滅的な打撃を受けたからねぇ…。一応ウラゼー殿も喜んでたよ、なんせ首都シーアルバも攻撃に晒されていたから脅威が減るのは良い事さ。まあ入植する前に瓦礫の後片付けや家屋の再建でかなり日数がかかるのは間違いないね)


 この東大陸では、世界樹の加護が殆どか無くなってしまい魔物勢力が拡大していっている。そのため、他国では滅亡したり劣勢に陥っている。そんな中国同士戦争をしている馬鹿な処もあるのだから、人族は愚かとしか言えない。


 ナギはそんな風に他国の事を考えていると、急に巨大な蕾がゆらゆらと変化を始める。


 (皆、準備を)


 ドレークの言葉に皆は気を引き締める。漸く新たな眷属が生まれるのだ。男だろうか、女だろうか?どちらにせよ、下の子になるのだから可愛がってあげようとナギはその時まで優しい気持ちがあったが、その未来予想図は大きく裏切られる事になる。


 静かに佇んでいた波が、蕾を中心にさざめくように波が荒れていく。そして蕾がはち切れんばかりに膨れ上がると天辺から豪快に突き破り、何か巨大な物が勢いよく出て来る。


 ─その瞬間、新しい眷属ハクアの情報が色々とナギの方に無理やり染みこんでくる。


 (みんなー!お待たせー!最強無敵のハクア様が来たからには、大船に乗った気持ちでいると良いよー!)


 ナギはハクアの名乗り上げた内容にも驚いたのだが、それ以上に主人を先端に乗せたまま急降下してくるのを見ると思わず声をあげようとするが、急に落下速度が緩やかになると波も立てずにゆるりと海面に着地するのを見て安堵と共に怒りが沸き立つ。


 ナギ達はすぐに大きな船に乗り込むと、ハクアは主人に対して挨拶をしているのを確認する。だが普段は冷静なドレークやエルジュもお冠のようで、怒気を露わにしている。主人を危険に晒すなど言語道断、この末っ子はそんな事も分からないとは眷属として失格だ。


 (ちょっとー?今主人とポポ様に挨拶中なんだけど?礼儀のなってない兄姉けいしがいると辛いなあ)


 (ふむ、これは少々説教が必要ですかな)


 (ハクア、主人を危険に晒しなんと心得る)


 (危険なんかないよー?重力操作あるし、てかそんな事よりドレ兄、アタシの水魔法と重力奪った分返してよ。戦闘力食べるなんて酷すぎだよ)


 眷属としての心構えがなってないのは如何ともし難い。クラーケンの素体から呼び出された影響か、口調なんかも軽く腹が立ってくる。だがそんな剣呑な雰囲気を主人は察したのか、わざわざ仲介の声をかけて下さるのだが、こんな二面性を持った不出来な妹の本性を知ればさぞかし嘆かれるに違いない。

 仲良く出来ればそれが一番良いのだが、何故かクラーケン戦を思い起こさせ、拒絶反応を引き起こさせるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る