第63話 前代未聞の進水式
クラーケンの全身に蔓を伸ばし、海原に巨大な蕾を作り上げる。全身を覆い尽くす蕾は、正にこの世のものとは思えない摩訶不思議な光景に違いない。普段のヤドリギを介した呼び出しは、このクラーケンでは大きすぎるため今回は特別なやり方で行っていた。
(…)
(……て)
(…起きて)
夢の中にいるような、ぬるま湯に浸かっているような感覚に支配されこのまま何もしたくないと体が言うことを聞かない。まだこのままゆっくりとさせてくれと四肢は動く事を拒否し、まるで金縛りにあったかのように感じる。
しかしどこからか、囁きが聞こえてくると、頑なに拒んでいた楔が無くなり無意識に目が開いてしまう。
(おはよう)
どうやら起こしてくれたのは、世界樹であるポポだ。だがこのような感覚は初めてでは無い、ドラゴンから人型に変わるために休眠していた時と一緒だ。そういえば、クラーケンを蕾に変化させている時にうつらうつらと意識が途切れていったのを思い出す。
「おはよう、結構寝てた?」
(うん、20日位。ぺぺが力を使い果たしたから体が強制的に寝たみたい。でもそのおかげで、準備は出来た)
どうやらここは蕾の中らしいが、肝心の呼び出す眷属がいないようだ。20日経ちポポも準備完了と言ってるのだが、これは一体どういう事だろう?
(最後に一番大事な名付けがある。最初にイメージした姿を思いだしながら、眷属を呼び出せば出てくるよ)
蕾の中は不思議な空間で、異次元とでも言えるだろうか?今はまだ自分以外の気配は感じ取れず、この蕾の中から本当にイメージした眷属が出てくるのか疑問に思えてしまう。今回は初めてのやり方なので、緊張が芽生えてしまう。ドクンドクンと煩いくらいに心臓が高鳴る中、ポポがフォローをしてくれる。
(大丈夫、問題ない)
ポポの言葉を聞き、深呼吸を繰り返していくと鼓動はいつものリズムを刻み落ち着いていく。
大事なのはイメージをしっかりと持つ事。
最初に思い浮かべたイメージは、イカのような大きな船だ。普通の船のように人が乗れて、自我を持ち水魔法を使って自由に航行出来る。いつかは、死の大海原を越えて西大陸まで行けるそんな頼もしい船が欲しい。
そんな願望の様な思いを浮かべていくと、透き通っていた空間が歪み始めると黒く染め上がり何も見えない漆黒を作り出す。一面を染め上げると次にジワジワと茶色のグラデーションが折り混ざる。
「─顕現せよ!大海の覇者、ハクア」
今まで不安定だった空間が、名付けと共に空間一面が一気にサーッと白く染め上がる。そしてグラグラと空間を揺らしながら、足元からあるはずの無い船首がゴゴゴと空間から出始める。
──巨大なイカの頭だ。
だがゆっくりなのは初めだけで、生まれるのを今か今かと待ち続けていたのか、急に天へと登るかの如く速さで巨大な蕾の
しかし勢いよく誕生した事もあり、天へと伸びた船首は
全長70mはありそうな大きさが、海面に急に叩き落とされてしまうと余波で恐ろしい大津波が起きてしまい、折角奪還したマガラカが地獄になってしまう。さらに強制的にハクアの船首に乗せられたこっちもタダでは済まない。
そんな不安とは別にハクアは何をしたのか分からないが、海面へ重力を無視しながらゆっくりと波を立てずに船首を下ろしていく。
そんなハクアを見ていると頭の中に、スッと情報が流れ込んでくる。
大海の覇者ハクア Lv71
力 450
防 520
早 240
賢 200
スキル:重力Lv5 水魔法Lv18 水耐性Lv18 火耐性Lv4
称号:フォレストドラゴンの眷属
(凄く大きいね)
「
(宜しくね)
「凄い出方だったね。これから頼りにしているから宜しく頼むよ」
「御意」
まさか足元から出現するとは思わず、そのままハクアの船首に乗りながら無事に進水式を終わることが出来た。だがあのまま海面に叩きつけられていたらタダじゃ済まなかっただろう。気になるのはハクアのステータスにあった重力というスキルが恐らく関係していそうだ。クラーケンを素体にした事もあり、そのまま引き継いだのかもしれない。
「「「「主人!」」」」
そんなハクアの事を考えていたら、ドレーク、エルジュ、ナギ、ヤエが乗り込んでくるのだが、ずっと蕾の外で見守っていてくれていたのか、かなり心配させてしまったようだ。
「やあ、みんな心配かけて済まなかったね。でもこうしてなんとか無事さ」
久しぶりに会う眷属に無事アピールをするのだが、何やら剣呑な雰囲気が辺りに漂い出す。
おかしい…、何かあったんだろうか?
(念話でみんな喧嘩中)
なんとか無事に新しい眷属を迎える事が出来ホッとしたのも束の間、まさか眷属同士で喧嘩が怒るなんて夢にも思わないのであった。
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