第62話 清閑なる海原に蕾一つ
クラーケンが海に潜り逃げたあと、エルジュのカウントダウンと共に急浮上し、海上に戻ってくる。皆もこのチャンスに全てをかけるように、一千人近い魔法使いがありとあらゆる魔法を打ち込みクラーケンへと吸い込まれていくと凄まじい重低音を響かせ、連鎖反応を起こし大爆発を起こしてしまう。
あまりにも強い威力に殆どの木船は転覆してしまい、風魔法使いや水魔法使いはなんとか自力で脱出できたのだが、他の魔法使いは大波に攫われてしまう。浮かび上がって来るものもいれば、波に呑まれて行方知らずも出て来る。
「水魔法使いは、すぐに海に潜り大波に攫われた仲間を助けよ!他に潜りに自信がある者は捜索に協力するのだ!」
ラズーシャはすぐに波に攫われた仲間の救出を命じる。大爆発を起こし、周りに煙が立ち込めクラーケンがどうなったかまだハッキリしていないため、まだ生きているのではないかと不安が残る。
「ナギも捜索に協力してきてくれる?こっちはエルジュとヤエもいるからさ」
「…御意」
少し不本意そうではあったが、なんとかナギにも捜索に参加してもらう。基本的に眷属達は、こちらを優先し他は二の次のため説得しないとなかなか行ってくれないのだ。
「ひゃあああ…。死ぬかと思ったすよ」
「はあはあ…。今日だけで何度死ぬ目にあったやら、聖樹国にいたら命がいくつあっても足りねぇなあ」
そんな中、傭兵のライクがバーモスを風魔法を使い救い上げたようで、なんとか生きていた様だ。なんだかんだ傭兵達は運が良い気がする。他のエルフ達はまだしも、フルプレートアーマーを着込んでいる者はこの海に飲みこまれてしまうと、他の助けが無ければ命は無いだろう。
救助活動も順調に進む中、立ち昇っていた白煙が収まり始め隠れていたクラーケンの姿がゆっくりと
「さすがにくたばっているよな…?」
「あれで倒せなかったら不死身っすよ…」
魔法の集中放火を食らったクラーケンは、動き出す気配はなく死んでいる様にも見える。頭の部分は特に酷く、かなり損傷し半分程になっている。
そして今まで見当たらなかったドレークが、クラーケンの横に急に海中から浮上してくる。その後はこちらまでやってくると、何があったのか報告をしてくれる。
「主人よ、クラーケンは魔法の攻撃により現在沈黙しており、もう起き上がる事は無いかと思われます」
「さすがドレーク、大勲章ものだね」
どうやら話を聞くと、クラーケンが海に潜り逃げようとした時に追いかけて、なんと体内に侵入し暴れた様だ。さらに戦闘中にクラーケンの魔力をチクチク攻撃した際に吸収し、最後の急浮上の時に使用したというのだ。眷属達は呼吸すらしなくて良いため、海の中でも普通に活動出来る様だが、長時間いると海水のせいで
そしてドレークの報告により辺りは歓喜に包まれる。都市を簡単に破壊する様な化け物を、死闘の末なんとか倒し切る事が出来た。波に攫われた者も無事に回収する事が出来、一件落着となるがまだ問題もある。
都市はクラーケンの大津波の影響にて壊滅的打撃を受けた、これの復興には多大な時間と資金がいるだろう。まあ、魔物もついでに屠れたと考え割り切るしかない。
「大将、倒したのは良いがこのクラーケンどうするんだ?」
「んー、そうだね。出来るかわからないけど、出来たら眷属にしようかなと」
「こんなでっかいの出来るんすか!?」
(かなり大きいから、時間はかかるけどやれる。ただ、ヤドリギだと容量的に無理だからぺぺと私で頑張らないとね)
これ程の大きさのため、かなり難しいらしいがなんとかやれそうだ。もし眷属として呼び出せたらかなりの戦力になるに違いない。
ただ、クラーケンが素体のためどうなるかまだ未知数である。取り敢えず皆で浮いているクラーケンを、港の方へと運ぼうとするのだが上手くいかない。
「ぺぺ様、どうやらこのクラーケンを移動させるのは難しいようです」
「さすがにみんな疲れ切ってるし、魔力もないだろうしねぇ。分かった、取り敢えず作戦は無事成功した訳だから、皆はそのまま帰投してくれる?クラーケンを移動させられないなら、ここでなんとかしてみるよ」
「ぺぺ様がそう言うのであれば…」
取り敢えず、皆を帰投させるが眷属達は帰らないようで、一緒にいてくれるみたいだ。そしてクラーケンの上に飛び乗ると、眷属にするための準備を行う。基本的には世界樹であるポポにサポートを任せるが、今回はどうやら色々してくれるようで、右腕に生えている世界樹の枝から蔓がでるとクラーケンに侵食していく。こちらもそれに習い、再生治療に使った蔓をクラーケンの傷口から入れて行く。
(この蔓を全身張り巡らせる、そこからさらに20日位はかかりそう)
クラーケンの頭が約30m程で足先まで含めると70mはありそうで、そして巨体なため蔓をそこまで張り巡らせるのも時間がかかりそうだ。ただ、シーアルバとのやり取り等は眷属であるアーバレスとエルフの女王ラズーシャに任せておいたから、こちらの作業に専念できる。
それから、クラーケンの体を侵食する事3日。日光浴だけで栄養を賄えるこの体は、こういう時に大変便利である。
(うん、全身に蔓を張り巡らせたから大丈夫。後はぺぺのイメージをしっかり持って集中して)
三日間集中していたが、然程疲れることもなくポポからOKサインがでる。そしていつもここからが大事な部分で、イメージしたものが眷属へと反映されていくためしっかりと形態を思い描く。折角港町が半分貰えるのなら、船型の眷属はどうだろうか。他の上級眷属は人型だけど、クラーケンを素体にする事もあり、イカのような船を思い描いていく。
(眷属は海水に長時間曝されると萎れるから、そこもイメージしないと呼び出した後大変な事になるから注意してね)
ポポの忠告をしっかり聞き入れ、意識を集中させていくと身体の感覚が段々と薄れていき、やがて無我の境地へと誘われていく。
その頃から、クラーケンだったものがゆっくりと蕾に作り替えられていき、海原には巨大な蕾が一つ生まれるのであった。
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