第60話 ピンチはチャンス

 エルフの女王であるラズーシャの叫び声が聞こえてきた所までは、良く覚えている。だがその一寸後にかなり強い衝撃が加わり、一瞬意識が途切れてしまったようだ。


 (大丈夫?クラーケンが攻撃して来たけど、なんとか眷属達が守ってくれたけど)


 どうやら、クラーケンの攻撃らしきもので城壁が破壊され下に落とされた様だ。助かったのは、眷属が庇ってくれたのとまだ下が大津波の影響で海が残っていたからのようだ。そして周りを見渡すと、多くの者は海に落とされていたのだがエルフの女王ラズーシャと眷属のドレークは、作戦通り海の上をスケートの様に滑っていきクラーケンの元へと向かう。

 なるほど、水魔法と風魔法を併用すると海の上をあんなに自由に移動できるのかと感心してしまった。


 「主人、ご無事でしょうか…?」


 「ヤエ、皆が庇ってくれたみたいでなんとか生きてるみたいだ」


 周りを見渡すとエルジュやナギを含め多数の人が海の上に浮いており、このままでは危ない。まずはエルジュとナギに触れてサクッと再起動させる。眷属の場合は、やられてもすぐに復活させられるためフォレストドラゴンもなかなか侮れない。自分が弱くても味方が強ければ良いのだ。


(クラーケンはひとまず任せて、周りの皆を助ける?)


 ポポの言う通り、すぐに助けねばならない。大津波の影響でこの辺りはまだ水位が完全に下がり切っていないため、溺死しない様に辺り一面を木を生やし足場にしていく。


 「主人よ、お見苦しい所を見せてしまい申し訳ありません」


 「いやいや、エルジュとナギ、ヤエのおかげで助かったよ。まさかクラーケンが超遠距離から攻撃してくるなんて一本やられたね。ただ、こちらもこれ以上黙って見てる訳には行かない、ドレークとラズーシャが頑張ってくれている間に立て直そう」


 「「「御意」」」


 衝撃で気を失っているだけでなく、手足が千切れたり腹部に穴が空いているものもいるためまずは応急処置の龍眼を食べさせていく。


 「竜眼で治らない重症人は今すぐに連れてきて、即死してなければこっちで治すから」


 「ぺぺ様助けて下さいっす!!バーモス副団長が!」


 傭兵のライクが半泣きになりながら、見るも無惨なバーモスを担ぎこちらまで泳いでやってくる。生きているのが不思議なくらいで、右半身が千切れ飛んでおりもう死ぬ一歩手前なのは誰から見ても分かる。そしてライクに言葉をかける暇もなく、すぐに右手から特殊な蔓を伸ばしバーモスの傷口から侵入させる。


 (魔物の栄養使っちゃう?)


 四肢欠損ですら、死んでいなければ治せてしまうフォレストドラゴンはやはり特殊だ。ポポが言った様に魔物の栄養を使うと、凄い速さで体が再生出来るため、今回は出し惜しみせずに使わないと間に合わない。

 生み出された蔓がバーモスの半身から侵入すると、ドクンドクンと脈動をし始める。それに共鳴するかの様に、バーモスも同じくドクンドクンと体がシンクロし脈動する度に体が徐々に再生されていく。


 「ああああ!!いてええええええ!!!」


 「痛いのは生きてる証拠さ、死の淵から生還おめでとう」


 ──そう、体を再生するのには対価が必要でそれは激痛である。体を無理やり引き伸ばされていく様な感じらしいが、ララシャの欠損を治した時の感想がそれだった。ララシャは冷や汗を垂らしながら叫ばなかったけど、バーモスは半身をやられたから仕方ない。


 「バ、バーモスさん!?良かった…っす」


 「ライク、泣くんじゃねぇよ!ったく、記憶が無いが死にかけていたのか…。大将本当助かったわ、この恩はなんとか返す」


 再生治療が完了し、バーモスは何も無かった様に立ち上がる。しかしフルプレートアーマーが左半分しか残っていないため凄く滑稽に見えてしまった。

 実はこの再生治療は1つ利点があり魔物の栄養を使用した場合、使った魔物の能力を一部引き継げる可能性があるため、バーモスは今回何かしらの魔法かスキルが運が良ければ付与されているかもしれない。

 

 なんとか負傷者の応急処置も終わり、クラーケンと戦っているドレークとラズーシャを見るが、クラーケンはやはり大き過ぎる。頭だけで30mはありそうで、足までなら一体いかほどになるのか想像もつかない。

 2人で錯乱しながら、縦横無尽に駆け巡る姿はまさに飛魚とびうおの様に見え、イカ足攻撃を上手く回避し肉薄していく。だがあまりの巨体なためか、攻撃をしてもあまり効いた様子が見えない。


 「あの二人も凄いですが、決め手がありませんね…。このまま長期戦になれば魔力が枯渇しています」


 「ラズーシャも援護できればして欲しいと言っていたから、したいんだけどここからじゃ届かないよね?」


 「魔法の飛距離では、ここからクラーケンまでさらに半分程進まねば当たらないかもしれません。出来ればさらに近い方が良いかと思いますが」


 魔法の有効射程までゆっくり行くとクラーケンに狙い撃ちされる可能性があるため、なかなか良い案が出ずに時間だけが過ぎていく。


 「主人よ、ドレークより念話が届きました。時は熟したと」


 眷属であるエルジュからドレークの言葉が伝えられる。こちらが劣勢だと言うのにドレークの言葉は一体どういう事だろうか?周りにいる皆も理解できていない様で、首を傾げている。


 だが、ドレークの言葉が嘘ではない事を少し後に知る事になるのであった。



 


 


 

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