第59話 光明

 クラーケンが魔物達との戦闘により大津波を発生させた事で、こちらは必死になりながらもなんとか城壁上まで逃げ切る事に成功する。だが、周りの皆は城壁上から街を見下ろし絶望してしまう。城壁に阻まれゆっくりと水位は下がって行くが、建物は元の形をなしておらず瓦礫の山と化していた。いつも軽口を叩く傭兵のバーモスとライクは、この現状を確認するがさすがにいつもの軽口はでないようで、大人しくしている。


 「いやあ、危なかったね。まさかクラーケンがこんなにヤバいなんて、魔物達が試金石になってくれて助かったよ」


 「シーアルバの商人からクラーケンについて軽く聞いた事がありますが、出現した当初は貿易船や軍船すらも簡単に破壊したようです。それ以来、クラーケンに接近しないよう警告が出されていた様です。どうやら魔物達はクラーケンの強さを知らなかったようです」


 頼れるララシャが唯一会話を繋いでくれる。このまま、クラーケンをなんとか倒そうと考えるが今の所倒せる想像が全くつかない。陸地に上がって来るならまだしも、海の上で戦闘となるとさすがに地形が問題になり、港からでは魔法や弓矢では届かない可能性がある。敵の敵は味方として、クラーケンを見守って行くのはダメだろうか?まともにやり合っては、被害が甚大になるのも想像に難くない。だがそんな悲壮感が漂う中、一人だけクラーケンと戦うのを諦めていない者がいた。


 「なんとかなるかもしれません」


 声をあげたのはどうやらエルフの女王ラズーシャの様で、周りからは目を疑うような視線が集中する。


 「いやいや!?さすがにこの現状を見たら厳しいと思うんだが。一体全体何処にそんな根拠があるんだ?」


 「確かに普通に考えれば、クラーケンの縄張りである海の上で戦うなんて出来ないだろう。だが不可能を可能にするのが、魔法だ。直接戦闘は私と、ドレーク殿でやるから他は援護を頼む」


 バーモスがそんなの無理だとすぐさま反論するが、ラズーシャはどうやら勝算があるようで周りを落ち着かせていく。まさかドレークと2人だけで戦闘をするなんて誰も考えが及ばなかった。もちろん他のメンツは、援護に回るのだろうけど。


 「ラズーシャ様、クラーケンは私達とは生きてきた環境が違い戦った事のない化け物です。生半なまなかな作戦では返り討ちにされてしまうと思うのですが、勝算はあるのでしょうか?」


 「うむ。知らない者もいるかもしれないが、水魔法に関しては練度があるものなら水の上に立てて、走ることも出来る。さらに補助的に風魔法が使えれば尚良い。そしてその条件を満たすのはドレーク殿と私のみと聞いている」


 (エルフの女王は、私の実を食べた効果で土魔法、水魔法、風魔法の3つを使えるよ。他のエルフはあくまで女王のおこぼれを貰ってるから、1つの魔法を使えるみたい)


 ポポが補足を入れてくれるが、何気にラズーシャは凄いのではないか?ウチの眷属達も二つの魔法を使えるものはドレークとナギだけになるが、これは魔法を取捨選択した結果ではある。そして注目を浴びてるドレークのステータスが気になり久しぶりに見てみる。



暗緑の騎士ドレーク 

Lv61(冬眠前)→Lv63(現在)


力 210→220

防 260→280

早 140→140

賢 160→170


スキル:剣術Lv14 盾術LV14 水魔法Lv12 風魔法Lv7 水耐性Lv7 風耐性Lv3 火耐性Lv3


称号:フォレストドラゴンの眷属


 どうやら冬眠前よりドレークのレベルが2も上がっており、早さ以外のステータスと剣術と水魔法が1上がっている。基本的にヤドリギを介した栄養補給でレベルや技術に魔法が上がると思っていたのだが、一体どうしたのだろうか?


 (私が世界樹としての格が上がり実をつけられる様になったからかも?眷属を呼び出す時は手助けしてるから、後は魔物退治を頑張っていたのかな)


 眷属達が世界樹であるポポに敬服しているのは知っていた。元々フォレストドラゴンは世界樹の守護を司っていたので、眷属達はさらにその子分とも言える。まあ、強くなってくれているなら大歓迎だ。残念ながら、フォレストドラゴンは、ドラゴン族では最弱ではあるが、唯一体の大きさだけは負けないらしい。ただ歩くのは遅く火に弱く空も飛べないしブレスも吐けないとなると、ドラゴンの括りに当てはめて良いのか疑問が生じる。他のドラゴンは魔法としての属性を秘めているが、フォレストドラゴンはその例から外れる。木魔法なんてものは存在しないのだから、いかにフォレストドラゴンが特殊か分かるだろう。


 そして、エルフの女王ラズーシャが提案した作戦はドレークも異議がないようでやる気のようだ。他の皆は半信半疑であったが、ラズーシャのやる気と決意にほだされ決心したようだ。


 「詳細な部分は、クラーケン次第な所はあるが基本的に私とドレーク殿で相手をする、出来るだけ港方面に引き寄せねば皆も魔法や弓が当たらないからな。だが、移動しなかった場合はそのまま戦ってみるが魔力が尽きそうになれば撤退する、以上だ」


 「魔力が尽きたら皆で帰ろう、帰ればまた来れるんだからね」


 「しゃーねぇ、城壁上からチクチク攻撃するかあ。ライク、お前は突入しても構わんからな?」


 「いやいや!?普通に死ぬっすから!」


 ラズーシャにより光明が見出され、少しずつ場も明るさを取り戻し、士気が上がり始める。大津波で浸水した地域も崩れ落ちてないが、屋根位の高さまで水位が下がってくる。


 「では、このまま城壁上から港方面へ急ぐぞ!クラーケンは大津波の攻撃で疲れているかもしれん」


 ラズーシャの号令の元、再度港へと進軍を開始する。もしクラーケンを倒せたとしても、このマガラカを復興させるにはかなりの年数が掛かるかもしれないと要らぬ心配をしてしまう。シーアルバもこの惨状を見たら何というか…。

 

 (その時は全部貰っちゃえば?)


 いらないと言われれば全部貰おうか。だからと言って、タダでは済まないだろうけど。


 港へ向けて走っていると、先程はあまり気にしていなかったがこの時代では初めて見る大砲が城壁上に少し配置されている。魔法の使えない者でも扱えるため、かなり使えるのではないだろうか?他の皆は大砲を知らないのか興味もなく素通りしていく。


 そして走り始めて10分程経った頃、漸く港が近くに見えてくる。


 「西北方面に少し遠いが海上に大きな物がみえるぞ!」


 先頭を走っていたラズーシャがクラーケンらしき物を発見したようで、其方そちらを確認してみると、確かに1km程先に何か巨大な浮いているものがあるが、クラーケンかどうかは分からない。ただ、タコのような丸い感じではなくイカのような形をしている様に見える。


だが、悠長に見ていたせいかまさかクラーケンがこちらに気付いているとはこの時は知る由もなかった。


 「全員!回避せよーー!!!」


 

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