第56話 港湾都市マガラカ奪還作戦(1)

 「全隊!マガラカへ出発するぞ!」


 部隊編成も整い黄昏時の中、ようやくシーアルバ領土のマガラカへと出発する。 本作戦はエルフの女王ラズーシャが全体の指揮を取る。彼女のやる気は、周りに波及はきゅうし相乗効果を生み出している。傭兵団である暁炎ぎょうえんの夜明けは、報酬の良さもありこちらもやる気に満ちている。団長であるザルバローレが不在ではあるが、副団長のバーモスと臨時参戦であるが傭兵組合長のララシャがいるため規律もしっかりしており安心できる。


 また今回の作戦では、ある程度優秀な人員のみで構成されており、中級以下の木人も含まれていないためそちらは聖樹国防衛に回している。そのためか、今回はエルフ1000人と傭兵40人、最後に眷属の4人になる。

 そして参加する全員に竜眼を3つずつ渡しており、輜重しちょうを担当する部隊はかなり少なくなる。殆どの作物を、瞬時に実らせる事が出来るフォレストドラゴンとサポートに世界樹がいる故に、出来るチートである。そのため夜間行軍を敷く事になるが、竜眼の疲労回復効果もあるため問題なく行える。行軍中には軽い休息や仮眠も交え、2日目の深夜にはマガラカ近辺に着く事が出来、偵察任務についていたヤエと合流を果たす。


 「主人よ、お待ちしておりました」


 「ありがとう、状況は報告に聞いていた通り変わらず?」


 「3000規模の魔物が出入りを繰り返しシーアルバ首都方面へと戦力を出しております。ですので南城門付近は、警戒度が強い為侵入は難しいです。逆に竜魔の森側である北城門は、以前行われた攻城戦の被害もあり警戒度は低くそこまで侵入は難しくありません」


 「では事前に立てた作戦通り、夜明け前にマガラカ北側へと移動を開始し、北城門の城壁を風魔法使いで強襲し城門を確保する。その後はドレーク、エルジュ、ヤエの3人は南門方面を目指し、他の皆は北城門占領後は魔物を殲滅しながら東門へ行き、その後は南門へ行こうか。もし捕虜がいるならば、助けれたら良いんだけど今回は速さが大事だから、優先順位を間違えずに。そして戦闘が開始したら頑張っていこう、戦闘指揮はラズーシャに任せるから宜しく頼むよ」


 「お任せ下さい!各隊、作戦時間まで余裕がある為小休止だ。本番だから、気を抜きすぎるんじゃないぞ」


 ラズーシャはそう言うと、部隊に休息を与える。気の張りすぎは良くないため楽にさせるが、エルフ達はスタンピードの生き残りの猛者のため、全く問題ないだろう。傭兵に関しても、同じことが言える。


 「ライク、作戦まで時間あるから賭け遊戯ギャンブルで時間潰そうぜ!」


 「おー!良いっすねー!今回は負けないっすからね!」


 傭兵達は、賭け事の遊びや仮眠をする者等様々なようでとてもリラックス出来ている。しかし、女王はそんな傭兵達を辟易としながら見送るのであった。






 そして数刻後、作戦開始の時を迎える。


 全隊ゆっくりと出来るだけ音を鳴らさない様に移動していく。魔物は人間とは違い夜間でも普通に見えているため、夜の戦闘ではこちらが大分不利になってしまう。そのため夜明け頃に北城門に着くよう行動する。この辺りはあまり大きい木はなく、草原地帯のため見つかりやすいため2列縦隊にて進む。

 そしてゆっくりと中腰になりながら北側から回り込み、北城門まで後700mと来た所で薄暗いながらも空には青藍色が見え、夜明け前を告げる。


 ──作戦開始だ。


 声は出さずに、合図を送り合うと風魔法使いとラズーシャを先頭にゆっくりと、城壁へと歩みを進めていく。城壁上にはここから確認した限り、魔物の姿は見えない。

 そのまま先頭はすぐに城壁へと辿り着き、風魔法使いが奇襲をかけるためにふわりと城壁上まで飛び上がる。


 「ッ」


 聞こえるか聞こえないか微妙な声がこちらまで届いたが、どうやら見張りが床に寝ていたらしくサクッと殺したらしい。自分達が攻め返されるとは思っていないのか、かなり油断し切っている。

 そして上が安全だと確認できると、エルジュが土魔法を使い階段を作成して皆を城壁上まで登らすと、そこからドレーク、エルジュ、ヤエは南門を目指し別行動となる。

 城壁上から都市内を見渡すと、残念ながら眼下には魔物がウヨウヨといる。しかしここからがエルフ達の本領発揮となる。皆が弓矢を取り出し今までに出来なかった矢に魔法を纏わしていく。そしてラズーシャ自ら第一射を放ち、魔物を討ち取ると全エルフがすぐさま後を追うように矢を解き放つ。


 「グギャアアア!」

 「ギャッ!?」

 「ッ!?」

 「ヒギァ…」


 魔物達の絶叫が、都市内に響き渡る。


 エルフ達の雨霰の攻撃により瞬く間に600体程を血祭りに上げると、これ以上は声を潜めずにゲリラ戦へと移行していく。


 「よし!風魔法使いは城壁から援護だ。他は地上へ降り城門を確保するぞ!今なら魔物共は油断しているから、簡単に打ち取れるぞ!」


 「おうおう!お前達!エルフ達ばっかにこれ以上良いとこ取られるんじゃないぞ!報酬を追加で貰うにゃしっかりと働かないとな。北城門は俺らで確保するぞ!」


 「「「応!!!」」」


 ラズーシャの激に、バーモスは刺激され傭兵達を煽りながら鼓舞し、自らも先頭に立ち戦場へと雪崩れこんでいくのであった。

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る