第44話 転換点

 ドレークから緊急の報告を聞き、心の臓がドクンドクンと激しいリズムを刻み出す。フォレストドラゴンになっても、どうやら心臓はしっかり機能している様で、落ち着きを取り戻すと少しずつ鼓動はおさまってゆく。

 聖樹国の防衛戦力はこういう時のために、しっかりと残してある。中級木人が4600体にオーガ級80体、ギガース級10体が主な防衛戦力である。そこから獣人達にエルフ達、さらにはエルフの女王救出作戦を無事終えたヤエもいるため、戦力に不足はないと思うのだがどうにも落ち着かない。

 今回のラスマータ王都では魔物同士で争いをしていた訳だが、もしかしたら魔物にも様々な派閥があるのだろうか。

 それともう一つ気になるのは、ラスマータ王都にいた住民達だ。確かな数は分からないが少なくとも60000人以上はいたのは間違いない。急な襲撃であったと聞いているため、住民が全員逃げきれているかわからないが、逃げた先は恐らく北のラスマータ側か西のシーアルバではないかと考えられる。南の帝国側へはこちらがやってくる時に遭遇しなかったため、避難民は西か北に行った事が分かるが、大量の避難民の受け入れはかなり難しい問題になるだろう。治安の悪化に食糧問題が起き、挙げ句の果てに暴動が起きてしまっては目も当てられない。聖樹国でさえ、拡張工事をしているがまだ完成までには時間がかかるから大量の避難民の受け入れは難しい。

 これからは魔物の問題だけで無く、避難民についても頭を悩ませる事は減る事はなく、増えるだろうと予想できるが正直考えたくも無い。まあ、ドラゴンがいる国なんてエルフ以外は、お断りだろうから幾分か気が楽になる。


 そんな暗い未来予想図は、頭の隅っこにおいやり、このままじっとしている訳にはいかないため、ラスマータ王都を後にして聖樹国へ歩みを進める。なんとかこのラスマータ王都から強行軍で行けば、2日ほどで聖樹国に着く事が出来るため急ぐ。


 「現在、巨大な魔物3体と交戦を開始したそうです。やはり耐久性が優れている様で、魔法はやはり効かず防御力も高いそうです」


 1時間ほど歩いただろうか、ドレークから新しい情報が入ってくる。先日戦った事のある魔物もかなり防御力は高い印象だったためおそらく同じ魔物のようだ。

 ただ、魔法の使わない巨大な魔物は数はそこまで多く無いためこちらとしては、魔法を使う魔物より戦いやすいかもしれない。どうしても木人は火魔法に弱い為に、それを使わないならまだマシなように思える。

 その後もドレークからは報告が入るが、木人が3割ほどやられてしまったが、無事巨大な魔物を2体を討伐したが、もう1体は撤退していったようだ。また城壁も少し壊れたようだが問題ないレベルだそうだ。

 

 ただ、魔物以外にまだ厄介な問題が2つある。


 1つ目は、自分という巨大なドラゴンが聖樹国に着いた時の獣人達の反応だ。これから執政官であるアーバレスから、獣人達に説明してもらうがどう転ぶか分からない。ここには別離した獣人隊長のムーラムもいない事もあり未知数である、最悪別の街に逃げて貰ってもこちらは構わない。

 2つ目は、ラスマータの大量の避難民だ。数万規模だとさすがにフォレストドラゴンでも食糧生産は厳しいし、何より治安が終わってしまうだろうから受け入れは不可だ。


 その後は聖樹国から危機は去ったため、少し大回りになるがラスマータの街からは離れて歩んでいく。そのためやや東寄りに来たが北西へ2日歩くと漸く聖樹国のシンボルである大樹が見えてくる。


 「はー、やっと聖樹国が見えてきましたねー!なかなかの強行軍でしたが、聖なる実のおかげで元気満々です」


 エルフのネイシャも聖樹国が見えてきて安堵している様だ。魔物を撃退した事は教えているが、やはり目で見たほうが実感が沸くのだろう。


 「本当に良かった。まあこれからどう転ぶか分からないんだけどね」


 「エルフ族は全員問題ないんですけどねぇ、こればっかりは獣人がどうでるかにもよるかなあと。まあこんな凄いドラゴンを見たらみんな大恐慌しそうですが、純粋に人にはドラゴンの恐怖が植え付けられているというか」


 この事はアーバレスに伝えたが、獣人達は多分ドラゴンを見てみないと分からないと言っていた。精霊よりも凄い偉いと説明したそうだが、上手く伝わっているか心配だ。このまま南拡張側には行かず、今回の主戦場だった東城門へ向かう。所々地面が陥没し、城壁も破壊されている所が何ヶ所もあるが大体報告通りだった。

 

 だが東城門周りには思いがけない事が、待ち受けるのであった。



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