第40話 フォレストドラゴン

 世界樹であるポポに、本来の姿に解放されてしまったまでは良かったのだが、まるで大型トラックに跳ねられ全身を複雑骨折にされてしまった様な痛みと身体のあちこちを刃物でグチャグチャにされたような、えも言えぬ痛みに耐えかね意識を手放してしまっていた。


 (………て)


 (……おきて)


 身体はまだ目覚めたく無いと駄々を捏ねているのだが、ポポの囁きに少しずつ意識がはっきりとしていく。どれだけ意識を失っていたのかさえわからなく数十秒か、恐らくそれ以上なのは間違いなさそうだ。

 身体の感覚がまだぼんやりとした状態で、ゆっくりと目を覚ますとまだ目のピントがボヤけたような感じが残っているが次第にはっきりと見え巨大な魔物の姿を捉える事が出来た。

 こちらがドラゴンになり体格がかなり大きくなった事もあり、目線がかなり高い。それに姿勢が立位では無く、四つん這いの形もありしっくりと来ない。首の可動域は広く長い為真後ろまで見渡せるので、自分の身体の大きさを把握する事が出来たのだが、体長20mはあるのではないか?生まれて半年経たない位でこの大きさは異常な気がする。また聖樹国の兵達は生きているものは目が合うと恐れ慄き腰を抜かしている。皆んなには悪い事をしてしまった…、精霊が実はドラゴンでしたで納得してくれれば良いのだが、しかし今はそんな事を気にしている場合じゃない。


 先程までは力強く攻めてきた巨大な魔物はこちらが変身するや否や、後ずさるようにこちらを警戒している。


 ドラゴンの攻撃能力と言えば、ブレスなのだがフォレストドラゴンは残念ながら吐けない。なので次点で噛み付くか、爪で切り裂くか長い尻尾で払うかになる。


 (毒なんかもあるよ)


 どうやらポポ曰く強力な毒を爪から出す事も可能なようで、この世界で一番強力な竜毒を生み出せるという。またこのドラゴンの身体には毒や麻痺等の異常は一切効かないとまで教えてもらえる。人型に比べてやれる事がかなり増えており、結構な無茶も出来そうだ。


 (火魔法が無いなら、負けはしない)


 ポポからお墨付きをもらい、ゆっくり一歩ずつ手足を踏み出し身体の感覚を上手く掴んでいく。じわりじわりと少しずつだがこの身体の動かし方が解ってくる。そのまま不器用ながらのそりと魔物に近づくと、その分だけ魔物は後ずさりする。明らかにこちらに怯えているのだが、いかんせん初めての身体のため歩く速度も上がらず、お互いの距離は縮まる事がない。見かねたポポは手助けをしてくれ、魔物の足元に大きな蔓を生み出し片足に絡ませて動けなくする。

 その生み出された蔓はかなり強度も伸縮性もあるため、なかなか外す事が出来ないようだ。


 (トドメを刺そう)


 魔物があたふたと蔓と格闘している間に、こちらは速度を上げ足がもつれながら不格好になるもなんとか魔物に体当たりをかまし、そのまま魔物を押し倒す。巨大な魔物が倒れ、辺りには物凄い地響きとズドンという重低音が響き渡る。

 なんとかこちらから逃げようと、魔物が振り回した腕がこちらの頭に当たり軽い痛みが走るが無視し、竜毒を垂らした爪を首元に差し込む。


 「グギャアアアアア」


 大きな声を張り上げた魔物は、ビクビクと数度身体を跳ねるとそのまま息絶える。竜毒の効果は絶大な事を確認し、ドラゴン姿での初めての勝利を噛み締める。

 しかし、周りを見渡しても聖樹国の兵達は逃げ出した様で、エルフのネイシャとこちらを庇い地に伏したナギしかいなかった。


 (ふぅ、なんとか勝ててよかった、ポポもありがとう。ただ庇ってくれたナギは大丈夫かな?)


 (力を与えれば大丈夫。その前にこの魔物を吸収しよう、ヤドリギは今回は呼ばなくて大丈夫)


 ポポに促され、いつもはヤドリギにて栄養を回収するのだが今回は無しで、このままドラゴンのまま吸収出来るようだ。すぐに吸収するようなイメージをすると身体から根が伸び魔物に取り付くと凄い勢いで栄養が流れ込んで来る。この魔物は魔法が効かないと聞いていたけど、その性能を少しでも引き継げれば有難いのだが。

 そしてあんなに大きい魔物が、1分もせずに皮一枚になるなんてドラゴンの吸収力は計り知れない。その後身体がやや大きくなり高揚感や幸福感に浸りながら、ナギの元に向かい力を分け与える。どうやら死んだわけでは無く休止中の状態だった為、すぐに起き上がってくる。


 「主人よ、不恰好な姿を晒してしまい誠に申し訳ありません」


 「いや、ナギのおかげで助かったよ。ドラゴンの姿に戻ってしまったけどなんとかなって良かった」


 取り敢えず、こちらは片付き落ち着ける状態になった訳だがドレークとエルジュは無事だろうか。そんな事を考えていると、唯一残っていたエルフのネイシャから話しかけられる。


 「あ、あの…もしかしてフォレストドラゴン様でしょうか?」







 

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