第38話 帝国の意地

 皇帝と別かれた後は、第七騎士団のサナリーと合流するために城から出る。城の外に出るとサナリーとガナッド、さらに第一騎士団の副団長がこれからマガヤール要塞へ向けての簡単な打ち合わせをしていているようで、その背後には先程こちらを包囲していた第一騎士団が列をなし出撃準備をしていた。


 サナリーは城から出てくるこちらを見つけると、すぐにこちらに寄ってきて声をかけてくる。


 「精霊殿、先程は助かった。聖樹国と戦争となるかと肝を冷やしたぞ」


 「不慮の事故とは言え色々と有りましたが、また仲良くやりましょう。それと皇帝陛下から、マガヤール要塞に一緒に同行しても良いと言われまして、助力のため第七騎士団に同行しても良いですか?」


 「こちらとしては、有難いが良いのか?」


 「もちろん、足手纏いにはなりませんのでお願いします。聖樹国に帰るにしても、色々と気になる事が多いですので」


 「助かる。正直な所マガヤール要塞を魔物に攻められると非常に不味い、基本的に第一騎士団は帝都を守るためだけにあるのだが今回だけは皇帝陛下の配慮により例外的に半分の10000人を派兵して下さる事になった。それに貴殿にはマーバイン王国で共闘した事もあるため頼りにしている。第七騎士団は北城門外にて既に待機しているため、そこで合流しよう。こちらは第一騎士団の副団長と決め事が残っているから、終わり次第直ぐに向かう予定だ」


 「わかりました。あ、後預かって貰っている獣人達は外交官の派遣時に一緒にこちらにお願い出来ますか?」


 「ああ、承知した」


 そうしてサナリーと別れこちらも、獣人達100人を招集し北城門外へと向かう。中級木人達は、元々城門外に待機させているためそのまま拾い第七騎士団と合流する。以前にマーバイン王国の援軍の時に竜眼をあげた事もあり、関係は良好だ。

 

 そのまま待機をしていると30分もかから無い内に、サナリーとガナッドがやってくる。第一騎士団はまだ時間がかかるために、第七騎士団が先行する事になる。出来るだけ迅速に行動してマガヤール要塞に救援に行かなくてはならない。今回も途中で奮発して、竜眼をご馳走しようと画策する。

 

 「第七騎士団!マガヤール要塞に向けて出発するぞ」


 サナリーの号令がかかり、第七騎士団はマガヤール要塞へと出発する。ここから強行軍を強いれば約4日でマガヤール要塞へ辿り着く。ここに竜眼を取り入れれば恐らく3日で着けるはずだ。


 その目論見は当たり、一切街にも寄らずに竜眼を食べた日はご飯は必要とせず、第七騎士団全員徹夜で駆け足にて行軍出来たため予想以上に早くマガヤール要塞近くに到着する事が出来た。

 しかし、そこには予想外の事が起きているのであった。


 第七騎士団がマガヤール要塞の近くまで来ると、マガヤール要塞から脱出したらしい兵隊と遭遇する。つまり、脱出したという事はどうやら間に合わなかったようだ。そんな中サナリーが兵隊から情報を聞いている。


 「すまないが、もう一度話してもらえないか?」


 「は、はい。正体不明の超弩級の魔物らしき巨人2体が現れ要塞を攻撃、こちらも迎撃しましたが弓矢や魔法も効かず、城門も簡単に破壊され侵入を許してしまい、マガヤール要塞はその後崩壊し指揮官も生死不明のため生き残っている兵は撤退となりました」


 話を聞いた全員が信じられない顔をしている。聞いている自分だって信じられない。たったの2体に要塞が崩壊させられただなんて今までの魔物とは隔絶するような強さ…もしかしたら魔族なのだろうか?

 周りを見回してもお通夜のような状態のまま皆固まってしまうが、サナリーはまだ気は確かな様でさらに質問を重ねていく。


 「魔物は二体だけで、他の魔物はいなかったのか?」

 

 「はい。その2体だけですが、撤退後はどうなっているのかは分かりません」


 「なるほどな…。聞いた情報を疑っているわけでは無いが偵察を出してみてさらに情報を集めるしかないな」


 サナリーはそう言うと、マガヤール要塞に向けて偵察兵を派遣するのだが、何時間経っても帰って来る事はなかった。

 その後、事態を重く見たサナリーはガナッドと聖樹国側を集めて話し合いとなった。


 「偵察兵が戻らないとなると、マガヤール要塞周りはかなり危険になっているのは間違い無いでしょう、このまま第一騎士団を待つか撤退するか」


 自分の発言にナナリーは肯定しながらも反論する。


 「マガヤール要塞周りが危ないのは確かだろう。しかし撤退するのは無しだ。生半可な戦力では太刀打ち出来ないのは理解出来るため第一騎士団に伝令を送り、合流してからマガヤール要塞に威力偵察に行くとする」


 サナリーの発言には帝国の意地とも伺える部分はあるが、誰も反対はせずにその作戦で決まる。


 それが後に、想像を絶する出来事となるのだが誰も知る由もなかった。

 

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