第37話 融和的政策

 なんとか聖樹国と帝国が一触即発の状況から、皇帝が謝罪をした事で融和的に済む事になり内心ホッとする。個人的に言えば、別に侮辱されただなんて思ってはいないが、眷属である木人達は基本的に表には出してはいないが見下しているような所があるので、結構その辺りは敏感になる。

 その後は、謁見の間に戻りいまだ昏睡していた帝国の人らに、竜眼を食べさせて回復させてから、調印式を仕切り直す。

 ある種腹の中を曝け出した形なためか、お互いに緊張感も感じずにスムーズに終わることとなった。


 調印式が終わると、皇帝に誘われて第一皇子、第一騎士団団長、第三皇女、ガナッドを伴い非公式の会談へ移ることとなる。


 「精霊殿、改めて非礼をお詫びする」


 「いえいえ、こちらも帝国と戦争にならずに済んで正直なところホッとしています。今は魔物の勢力が急速に拡大しているため、もし戦争をしていたら魔物につけ込まれていたでしょう」


 皇帝は最初の頃に比べ険が取れたような印象があり、また高圧的な態度もない為案外これで良かったのかもしれない。なんせこちらは蛆虫呼ばわりしたのに不問にしてくれているわけだから、皇帝様々だ。


 「うむ、精霊殿から聞いたラスマータ王都が魔物に侵撃された事だが、これが陥落していた場合には北の国境線にあるマガヤール要塞が重要になるため、今回第七騎士団を派兵するが余裕があるならラスマータ王都を偵察したい。また聖樹国とは魔物が落ち着いてからではあるが、外交官を派遣させたいと考えている。聖樹国の事を知れれば、今回の様な事は二度と起こらぬ故どうか?」


 「ええ、外交官の件はこちらは構いません。お互いが知る事が出来れば、これから先今回の様な事は無くなるでしょう」


 あくまで非公式の会談のため根回し的な形で、意見のすり合わせをしていく。国のトップ同士がいるために、色々な提案がなされスムーズにことが運んで行く。だがそんな時に火急を告げる声が外から聞こえてくる。すぐにガナッドが伝令を中へ迎え入れ報告を聞く。


 「会談中失礼します!マガヤール要塞の早馬から火急の知らせが届きました。現時刻より2日前にマガヤール要塞に魔物が襲来、至急援軍を求むとの事です」


 伝令からの衝撃の言葉を聞き、一同全員に緊張感が生まれる。先程までの和やかな雰囲気は跡形もなく崩れ落ちてしまう。

 だが皇帝は最悪の状況を想定していたのかすぐに指令をだす。


 「想定していた一つではあるが、流れは非常に悪い。ここから騎士団を連れて行軍して早くても4日はかかろうか…。第七騎士団は準備は出来ている為すぐにマガヤール要塞へ急行せよ。また第一騎士団の半分である10000人を追加で付け副団長に指揮をとらす。総指揮官はサナリーに任せる、迅速に行動しマガヤール要塞を救援せよ」


 「「「承知致しました」」」


 皇帝に第一皇子、聖樹国以外はすぐに退出し、マガヤール要塞へいく準備を始める。ただ、第七騎士団は午後から進軍する予定のため準備はできておりすぐに進軍する様だ。


 「精霊殿の言われたように、ラスマータ王都は侵撃され落ちた可能性が高いな、そしてその足でマガヤール要塞に襲撃に来たと。精霊殿はこれからどうされる?」


 「そうですね…。もし良ければ第七騎士団に同行させてもらい協力させて貰えればと思います」


 「こちらとしては有難いが…。良いのかね?」


 「魔物の拡大が早すぎます。ここでマガヤール要塞が陥落すれば、ロズライ連合国以外は他人事とは言えない不味い状況になります。そうなれば、魔物を止める事が出来ず西大陸にでも行かなければならなくなるかもしれません」


 こちらの言葉に同じ気持ちなのか、心痛な面持ちで皇帝は頷いた。

 そしてその場で皇帝と皇子に別れをつげ、すぐに仲間に招集をかける。こちらの戦力は大して多くなく、獣人達100人と中級木人400人以外はいつものメンバーになる。


 別室に待機していた皆に先程起きた出来事を話すと、いつものザルバローレから軽口が出る。


 「一難去ってまた一難とは、聖樹国に所属すると退屈せずに済むな」


 「そんな軽口がいえるなら大丈夫だね、さすがにラスマータ王都が陥落し、マガヤール要塞も落とされたら洒落にならないからこちらとしては、後のことを考えると助力しないとね」


 意外とザルバローレは、空気を和らげてくれる良い奴なのかもしれない。そんな事を考えながら、第七騎士団に合流するためにサナリーに会いに行くのだった。

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