第36話 皇帝の覚悟
聖樹国が退出した間も無い頃、謁見の間にはガリバリアル帝国の皇帝であるロールド=フレイフルの笑い声が声高に響き渡る。誰もがその光景を見たならば、皇帝は正気で無くなったと疑ってしまうだろう。現に第三皇女のサナリーとガナッドはこの現状を未だに理解できていなかったようだ。
「ハーッハッハッハ…」
ロールドは
森の精霊と聞いて未開の蛮族程と侮っていたのも見抜かれていたのかもしれない。この様な失態は、生まれてから42年初めての出来事であった。
こちらもあの眷属に蛆虫呼ばわりされたのであるから、普通なら戦争になってもおかしくは無い。だが戦争をすればこちらもタダではいかない、恐らく謁見の間の出来事もまだこちらに配慮があったはずで、でなければ全員死んでいただろう。
聖樹国と戦争になればロズライ連合国もここぞとばかりに侵略してくるだろう。また魔物の対処もあるため、迂闊に騎士団を向かわせる事も出来ない。であれば和解しか帝国の取る道はない。戦争をするのは簡単だ、だがその先は地獄だろう。
「こ、皇帝陛下?」
サナリーはロールドが壊れてしまったのでは無いかと、恐る恐る声をかける。
「ふむ、サナリーよ精霊の実の余りがあるなら息があるものに食べさすのだ、精霊殿の眷属は手加減をしてるはずだ」
周りには純粋な暴力の跡が撒き散らされ、騎士団や兵隊が地に伏しているのだが、不思議と死んでいるものはまだ一人も見当たらないようだ。何より謁見の間には基本的に衛兵意外武器の持ち込みを禁止している、その上でこの有様なのだ。
「美味しい…ハッ!?」
第一騎士団団長のアレスが竜眼を食べさせられ、意識が戻りすぐに立ち上がるが、鎧が凹んでいる以外はどこにも別状が無い。一番被害が大きく先程まで死の淵を彷徨っていた者とは思えない。
次々と竜眼を食べさせられ復活を成し遂げるが、残念ながら竜眼の数は10個しかないらしく大半のものはまだ回復できてはいない。
しかしこれだけでも、聖樹国とは敵対したいとは思えなくなる。さっきまで瀕死の者がすぐに回復し、戦線に復帰できるとなれば恐ろしい。
ロールドは以前サナリーから第七騎士団10000人全員に精霊の実を貰った事を聞いていた。つまり、その気になれば幾らでも作れるのではないか?もしそんな事が有りえるならとんでもない戦略的な価値がある。
聖樹国は帝国の命運を掴んでいると感じ取ったロールドは、これからするべき事を家臣達に話をするが皆驚嘆するものであった。
◇◇◇
城の入り口から移動しようとした時、聞いたことのある声の方へ振り向くと、そこには先頭に第三皇女のサナリー、ガナッド中佐に先程倒された第一騎士団団長アレスや他の倒された人に最後に皇帝も出てくる。どうやらサナリーにあげた竜眼を食べさせたようでみんな復活している。
そんな中、サナリーとアレス、そして皇帝の3人がこちらの方に寄ってくると皇帝が一歩出てくる。すると考えもしなかった言葉がだされるのだった。
「森の精霊殿、先程の非礼深くお詫び申し上げる」
皇帝はそう言うと、頭を下げて謝罪をし、後ろに付いてきた家臣も頭を下げて謝罪の意を示す。
いきなりの事で、聖樹国側だけでなく第一皇子側も驚きを通り越してしまい、一気に気が抜けてしまう。
「あー、謝罪は勿論受け取ります。こちらも色々とご迷惑をかけたみたいですし」
「そう言って貰えると非常に助かる。不幸な行き違いがあったとして、水に流して貰えないだろうか?誓っても我は精霊殿を侮辱したつもりは無いのだ」
正直この言葉を皇帝から聞こえるなんて、夢にも思わなかった。最初に見た時に感じた鷹の様な鋭い眼光は皇帝の冷徹さが見られたし、さらにこちらは蛆虫呼ばわりもしたわけで…。宣戦布告ならまだ分かる、それを水に流すって普通なら考えられないため、皇帝の評価ががらりと変わってしまった。
(許しちゃうの?)
皇帝の事を考えていたら、ポポが気になったのか聞いてくる。
(謝ってくれたから一度だけ許してあげようか?)
ポポに心の中で囁くと、渋々ながらも了承してくれたが、次は許さないからと恐ろしい言葉を残していった。
こうして皇帝の覚悟を見せつけられた聖樹国は、再度話し合いをし落とし所を見つけると、破壊の後がある謁見の間に戻るのであった。
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