第34話 調印式

 サナリーとの会談が終わり、そのまま今日は客室へと通される。今までガナッド中佐と一緒に行動していたため、このギリースーツのような全身モジャモジャの姿を突っ込まれた事はないが、大体会う人は目をギョッとさせたり、吹き出してしまったりする。そのため皇帝陛下に会う時に正装して出直してこいと言われないか心配ではあるが、多分問題があればサナリーから指摘されるはず。

 そんな事を考えながら改めて部屋を見回すと、客室とは思えない程豪華な装飾が施されているのに気付く、ソファーは大きくフカフカしているし、キングサイズのベッドは天蓋付きでシーツはシルクのような肌触りで気持ち良く眠れそうだ。そしていつもは別室で待機している眷属である木人達も同じ部屋で過ごしている。

 また、唯一良かった事と言えばエルフの女王の身代金として金貨50000枚の借金をチャラに出来た位なのだが、これから魔物の侵攻を考えると頭が痛くなる。

 

 明日の調印式の事を考えながら部屋でゆっくり過ごしていると、コンコンとドアをノックする音が聞こえて来る。ドアの近くに待機していたメイド騎士のナギがすぐに応対してくれるのだが、まさか予想していなかった人物が訪れた。

 

 「初めまして、精霊殿。私の名はモギアス=フレイフル、ガリバリアル帝国の第一皇子だ。妹のサナリーから竜眼なる物を貰ってね、是非お礼をと思い挨拶に来たんだ」


 まさかこの好青年が、第一皇子!?腰も低いし、皇子なんてもっと偉そうなもんだと勝手に思っていたが、良い意味で裏切られる。


 「これはご丁寧にどうも、お役に立てたなら幸いです。立ち話もなんですしどうぞ、おかけ下さい」


 優雅な立ち振る舞いで、ゆっくりとソファーに腰をかけるモギアスとその背中を守るように2人の騎士が不動の姿勢をとる。こちらが後ろの騎士達へ視線が向いたのを気付いたモギアスが紹介をしてくれる。


 「ああ、後ろの護衛騎士は第一騎士団団長アレス=タナテックと副団長のサイザック=モルトールの2人だ、是非付いていきたいと駄々をこねてね」


 モギアスは苦笑しながら軽く紹介するが、第一騎士団と言えば帝都を守る近衛兵みたいな物とサナリーから聞いていたが、なるほどこちらを敵情視察とはいかないまでも、気になってついて来た様子である。また2人とも見た目からしてかなり出来そうだ。そしてこちらも軽くドレーク、エルジュ、ナギの3人を軽く紹介し世間話に戻る。


 「それはそれは、ご苦労様です。しかし、第一皇子ともあろうお人がわざわざ来てくださるとは、面映おもはゆい思いですね」


 「ははは、何分森の精霊と言われる存在は初めてなものでね、こうして自分の目で確かめたかったのもあるし、我々とは生きる世界が違うなら色々と聞いておかないと、誤解が起きては困るからね」


 将来の皇帝陛下はどうやら物怖ものおじしないタイプのようだ。こちらとしても次期皇帝陛下である国のNo2と交流出来たのは幸運だ。

 そしてモギアスとはそのまま話は弾み、食事の文化や服装、他の精霊について等他にも色々と話をした。ポポから森の精霊について聞いていたため、自分は変わり者の精霊のため、竜魔の森から出てきたと話を合わせておいた。

 そして最後に、後ろの護衛騎士に竜眼をあげるとモギアスも欲しいと言うので、好感度を上げるため少し分けてあげる。こうして非公式の会談は無事終わり、調印式の日を迎えるのであった。





◇◇◇

 


 

 皇帝であるロールド=フレイフルは、昨日の出来事を思い出していた。森の精霊が、調印式に出るため昨日帝都に到着した事を聞き、第一皇子であるモギアスが心待ちにしていたかのように会いに行った。精霊は独自の言語を話し、竜眼なる物を食べなければ意思疎通が出来ないとサナリーから聞き、持ち帰った竜眼を皇族の皆で食したが帝国の頂点である我も食べた事の無い珍味であった。また美味しさだけではなく、滋養強壮、怪我の治癒、疲労回復等もあるというまさしく万能薬に近いと評価した。

 しかし、当初の目論見は外れマーバイン王国は崩壊、ラスマータ王都は魔物に襲撃される結果となったが森の精霊と邂逅し、縁を結んだ事はサナリーを評価せねばならない。次代皇帝は、興味本位な所はあるが優秀なモギアスで今の所固まってはいるのだが。

 また、第一騎士団団長のアレスも精霊を見定るために同行した。アレスは最初は全く言葉聞き取れ無かったが、最後に貰った竜眼を食べると不思議と言葉が分かるようになったと証言している。だが聞くと精霊は無害な様子ではあるが、あちらの護衛騎士はどうやらそうではなく何かあれば牙を向くという気概を感じた。


 ロズライ連合国、魔物の事もあるため聖樹国とは協力関係でありたいと考えている。そのため国交樹立の調印式は、一般的な儀典書通りではなく聖樹国も分かりやすいようにかなり簡素に進むように手配した。


 そして、調印式が謁見の間で執り行われる時間になり、衛兵の声に呼ばれロールドが参上すると以前サナリーから聞いていた精霊の風貌を見るや否や…。


 「ぶっ」


 ロールドは精霊が予想以上の風貌に耐えきれず、吹きだしてしまう。家臣達は皆跪き下を向いているため見えてはいないが、精霊は立ってロールドを見ていたため、吹き出してしまったのをしっかり見られてしまった。悪い事に精霊のかなり後ろに控えていた護衛騎士からは主人を馬鹿にされたと思われ、辺りに殺気が立ち込め始める…。


 ロールド=フレイフルは思う、この先生き残る事が出来るのか…。

 

 

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