第33話 竜眼外交

 夜明け前の報告により憂鬱な朝を迎えてしまうが、なんとか空元気を振り絞る。帝都へ出発するまで時間があるため、聖樹国側の人間を集めた。そしてそのまま案内人であるガナッド中佐へラスマータ王国の顛末てんまつを伝えるために街の外に野営している場所まで報告に行く。


 「おはようございます、ガナッド中佐。朝早くからすいません。少しお伝えしなければならない事が出来まして、まだ皆にも伝えていない情報のため大所帯になりました」


 自分の周りには、上級木人達にエルフのネイシャ、獣人のムーラム隊長、傭兵のザルバローレ、冒険者のアライナ。

 ガナッドの側には、ギャッジマン大尉が側に控えている。


 「おはようございます。いえいえ、軍人たる者朝早く起きるのは当たり前ですので、して何かありましたか?」


 「ええ…。実はこちらの仲間にもまだ伝えておりません。そして情報の内容からかなり驚かせてしまいますが…」


 少し言い辛い内容のため、一呼吸いれてから話に戻る。


 「夜明け前にラスマータ王都に潜入している眷属から、情報が入りました。ラスマータ王都に魔物が侵撃したと」

 

 「!?」

 「な!?」

 「え!?」

 「うそ!?」


 知らなかった仲間からは、悲鳴に近い声が出て辺りに響き渡る。だが、さすが帝国軍人のガナッド中佐とギャッジマン大尉は表立った動揺はせずに、こちらに続きを促す。


 「ラスマータ王都北城門を突破した魔物を見届けた眷属は、すぐにエルフの女王と侍女を救出し聖樹国へ向けて脱出しました。ですので、それ以降ラスマータ王都がどうなったかは定かではありません。ですが状況は厳しいのではないかと…」


 ガナッドはこちらの発言に少し唸り声を上げて、考え込む。


 「俄には信じられませんが、帝国にも間者が潜入しておりますので、無事逃げ切ればこちらにも情報がくるはず、あるいは難民が押し寄せるか…」


 「こちらには眷属が使う、特別な伝達方法がありますので。ただラスマータ王都が陥落するとなると、聖樹国と帝国の行き来はかなり遠くなるかと。安全に行くには西のシーアルバ経由からでないと、今後は難しいかもしれません」


 ガナッド中佐は、今のこちらの言葉を深く噛み締め暫く考え込んでいたが、考えが纏まったのかギャッジマン大尉に指示を出す。


 「ギャッジマン大尉、すぐに伝令を帝都に飛ばしサナリー様に報告を。ラスマータ王国との国境線にあるマガヤール要塞に増兵の意見具申を皇帝陛下に申し入れて貰いたいが、現状では難しいかもしれん。しかしサナリー様の第七騎士団であれば、まだ予備として動かせるため、招聘可能な兵をマガヤール要塞に援軍を送り込んでいいか、サナリー様に聞くのだ」


 「はっ!すぐに伝令に伝えます」


 ガナッドは、すぐに駆け出したギャッジマンを見送るとこちらに目を向ける。


 「精霊殿、貴重な情報をありがとうございます。ラスマータ王都が落ちるとなると、魔物との国境線が交わりますので、対応を間違えるとかなり不味い事になります。またそういった事情もあり、すぐにでも帝都へ向けて出発したいのですが、宜しいでしょうか?」


 こちらは構わないと言うと、すぐに出発することとなった。しかし聖樹国のみんなは心配なせいか浮かない顔をしていた。だがこのままでは不味いと思い、少しでも活力が湧く様に竜眼を食べさせた。

 その後、かなり帝都まで急いだため1日かからず、夕方に着く事が出来た。やはり帝都も黒い城壁となっており、威圧感が凄く感じられる。しかし、今はゆっくり見物している暇はなく、そのまま城門を通りかなり黒く大きなくろがねの城へと通され、サナリー皇女が待っている部屋へとガナッド中佐と共に訪れる。ガナッド中佐がノックをし、名乗りをあげ入室許可がでる。そこには、以前会った鎧姿ではなく豪奢な白のドレスを着ているサナリーが座っていた。


 「精霊殿、久しぶりと言う程でもないが、遠路遥々えんろはるばるすまないな。また会えて嬉しいよ」


 「サナリー殿もお元気そうです何よりです、また今回はお招き頂きありがとうございます。まさかこんな事になるとはおもわず…。その後は如何でしょうか?」


 「ラスマータ王都の件は伝令から先に情報が届いたのだが正直信じられん所だが、貴殿の事だ嘘は無いと思いすぐに第七騎士団を派兵する事を皇帝陛下から許可は頂いた。

 だがさすがに他の騎士団は残念ながら無理だった。第一は帝都、第二、第三、第四は連合国国境線、第五は東、マガヤール要塞管轄の第六騎士団は、戦力の半分は連合国警戒のため西の港町に分けている。つまり今は第七騎士団しか動かせないわけなんだ、その第七騎士団もこの前の遠征が初陣でな、まだ設立1年も立っていないせいもありまだまだ練度が足りていないし、減ってしまった2000人の補充も目処が立たない」


 サナリーはそう言うと不満そうにするが、すぐに顔を引き締める。


 「現在第七騎士団に招集をかけており、明日に8000人がマガヤール要塞に向けて出兵する予定だ。まあマガヤール要塞に魔物が来ていなくても、ラスマータ王都へ偵察に行く手筈になっている。そのため明日の午前に調印式を行い、午後から私が指揮をとり出兵する。精霊殿を帝都案内できればと思っていたのだが済まない。魔物脅威はまだ帝国では軽く考えられていてな、万が一マガヤール要塞に攻め込まれたら連合国と挟まれかなり危うくなる…」


 サナリーはこちらのことを信用してくれているのか、帝国の内部情報を教えてくれる。


 「まあ、あまり暗い話も良くないな!そうだ、この前の貰った竜眼だが皇帝陛下に食べて貰った。勿論毒味はされたが、思いのほか気に入られてな。それを見た他の皇族も欲しがってな…。済まんが、また貰えないだろうか?対価は勿論払わせて貰う!」


 さっきの暗い雰囲気はどこ吹く風か、竜眼のおかげでたちまち消えてしまった。自慢の竜眼が役に立てたなら良かった、原価自体はタダに等しいので、タダでも良かったのだが今回は貸しにしておく事にし、竜眼を10個生み出しサナリーに渡すのであった。

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