第24話 閑話 魔王を冠する者

 今でも夢に見る。


 3年前の魔王城を焼かれた事を。


 そして人生で初めて敗北した事を。


 いつから魔王と呼ばれていたかなんて、とっくに覚えていないが、数百年は経っているはずだ。

 魔族は元々長命種で、1000年生きるなんてざらにいる。


 では魔族としての血筋と聞かれても大したもんじゃない、辺境の一般的な農民生まれだった。

 普通の子供より頭一つぬけて大きく育ち、大人顔負けに育ったのは間違いなく両親のおかげだ。

 子供ながらに体格が良かったもので、隣村とのいざこざには大人と共に駆り出されたのが最初のキッカケだったのかもしれない。


 「リーヴァルいいか?舐められたら、ずっとそのままだ。殺せとは言わないが、ボコボコにしてやれ」


 父親はよく舐められるなと、口を酸っぱくしていつも言っていた。

 だからか、隣村とのいざこざでも大人達をボコボコにしてやったら、大人しくなった。

 

 それからは信条として、やられたら10倍にしてやり返す。生きていく上で舐められるのは、我慢ならなかった。誰かに頭を下げて生きていくのも御免だ。

 ただ誤解がないようにいうと、喧嘩っ早いって訳じゃないとは自分では思っている。


 そんなある日、魔族の成人である12歳を迎える。その日は特別で魔法を使えるようになる。だが魔族は生まれたときから魔法は使えるのだが、成人になるまで両手にバングルのような物で魔法を封じる。

 それを成人である12歳になると、取り払う事が許される。


 魔法を使う禁忌は1つだけ、成人していない子供にだけは絶対に魔法を使わない事。

 これを破ると何故か、二度と魔法が使えなくなるのだ。


 成人の日に初めて魔法を使うが、やや黒が混ざった紅、黒紅色の炎が手のひらから、ゆらゆらと立ち昇る。


 そして感覚で分かる、――原初の炎だと。


 その後魔法を覚えてからは、売られた喧嘩を買っていたら、いつの間にか魔王になっていた訳だ。


 だから普段物覚えの悪いオレでも、3年前に魔王城をファイアドラゴンに燃やされた事は忘れたことがない。今まで村位は焼かれたことはあったが、然程気にしてはいなかった。他の魔族の家臣達は、報復をと言っていたが村なんか気にも留めなかった。


 だが自分の縄張りである魔王城となると話は変わる。

 すぐにファイアドラゴン2匹を逆に火だるまに仕立て上げ、魔族の戦える者全てを集め次の日には竜魔の森に進軍した。今まで溜まっていた借りを10倍にして返すように。

  

 四天王の2人と軍勢の半分を竜峰山に向かわせ、残りの軍勢と四天王2人はオレと共に世界樹を目指して進軍した。

 世界樹の近くにやってくると、ドラゴン達がブレスを吐き熱烈に歓迎してくれ、軍勢が次々に倒されて行く。

 だがそんな事は気にせずに進み、ドラゴン達に原初の炎を叩きつけ燃やしていく。家臣達は口だけは達者ではあるが、実力は弱くドラゴン達に薙ぎ倒されていく。

 ドラゴンの相手は部下達に任せ、漸く世界樹に辿り着くとすぐに原初の炎で燃やしていくがドラゴン達はオレを止めようとするが、止まる訳がない。

 こちらの大事なものを壊されたのだから、ドラゴン達の大事なの物はすべて破壊し尽くす。

 世界樹の森は原初の炎により、瞬く間に燃え広がっていく。ドラゴン達は面白いように慌てふためき水をかけるが消えはしない。

 さらに勢いよく燃え続け、やがて世界樹は燃え尽き白い灰のみが空へと消えていった。

 次は竜峰山を燃やし尽くしに行くが、ドラゴン達が邪魔をするので全て塵芥ちりあくたに帰す。

 ドラゴンは飛ぶと少し面倒だが、大した事は無かった。

 そのまま世界樹から、東にある竜峰山に向かうが二手に別れた軍勢の動きが止まっていた。

 どうやら、四天王2人も先行したがこの先でどうやら氷漬けにされてしまったそうで、これ以上進軍出来ないと言う。

 他のドラゴンは全滅させた。残るは竜峰山を根城にするアイスドラゴンのみ。

 ここまで強いドラゴンなんて1匹もおらず、魔族の軍勢はかなりやられたみたいだが関係ない。弱いやつは死に、強い奴が生き残る、魔族の世界は弱肉強食だ。




 竜峰山のふもとに入ると気温が一気に下がる、雪もかなり降り積もっており雑兵がこれ以上進軍出来ないと言うのも分からなくはない。

 極寒の中、頂上に向けて進むと四天王の2人が氷漬けにされている。魔族の中ではなかなか見所はあったが、死んでしまっては元も子もない。


 原初の炎を使い身体を温めながら、ゆっくりと歩いていくが、この寒さは尋常じゃない、原初の炎がなければとっくに四天王と同じく凍死していただろう。

 だが進めば進むほど、猛烈な吹雪のせいで目の前がほとんど見えなくなる。

 

 「愚か也」


 不意に頭上から馬鹿にする言葉をかけられ無意識の内に原初の炎を、声がする方に叩きつける。


 「世界樹、竜峰山の事も知らぬ愚か者」


 猛烈な吹雪のせいで見えないが、声がする方に次々と原初の炎を叩きつけるが一向に声が止む様子がない。そのせいで苛立ちが収まらない。


 「愚かなお前のせいで、このままでは世界は滅びる」


 「黙れ!黙れ!黙れ!」


 冷静さが無くなり、頭に血が上り全身全霊で原初の炎を生み出す。太陽の如く燦々さんさんたる輝きに、あたりに吹いていた吹雪が止む。

 そこには3体の雄大なアイスドラゴンの姿が見えた。


 「だったらお前達の方が、愚かって事を見せつけてやるよ!!!」


 巨大と言える程まで大きくなった原初の炎を、アイスドラゴンに向けて叩きつけるが、それと同時にアイスドラゴン達も、ブレスを吐きぶつかり合う。


 凄まじい音を立てながら爆発し、周り一帯を破壊し尽くす。

 

 「ぐああああ!」


 だが魔王であるリーヴァルもタダでは済まない。あまりにも衝撃の強さから吹き飛ばされてしまい、大雪崩が起きてしまう。

 そのままリーヴァルは大雪崩に巻き込まれ意識を失ってしまう。


 大雪崩は竜峰山の周りに待機していた軍勢を飲み込み、魔王軍に壊滅的な被害を出してしまうのだった。



 だがしかし幸運なことに彼は生きていた。


 だが意識を取り戻した時には、右腕を氷漬けにされ、牢獄に囚われているのであった。

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